イーチェンとの約束
今期のテストが終わった。なんとか留年は免れたようだ。
ユーラのテストの予想が当たったおかげだ。
新しい店舗の場所も決まって改装段階に入り開店は9月か10月になりそうだ。
僕はリスラ共和国へシッターにいかなくてはいけないから店の準備はセルとイーチェンにお任せだ。
「段々店がイーチェンに任せになってきてごめん…。」
「まあ俺も主要株主だから頑張るよ。…リネア」
「何?」
「あと数店舗こっちで起動に載せたら次へ行かないか?」
「メルア大陸に?」
「ああ。」
「うん、行こう。」
「本当か?」
「行きたい。」
イーチェンが僕を抱き締めた。
「やった!楽しみにしてるぞ!」
「うん、頑張ろうね!」
「…こっちで誰かある程度任せられる人を見つけないといけないな…。」
「イーチェンは誰か心当たりのある人いる?」
「…探してみる。」
「私も探してみるね。」
帰宅した僕はユーラと夕食を食べに行く事にした。
「ユーラのおかげでテストも無事パスできました。なので今日は私がおごるから、ユーラの好きな所へ行こう。」
「じゃあ久しぶりにランク料理でも行きたいな。」
「うわっ…。私の財布事情とか無視だね?」
「リネア、好きな所って言ったよね?しかも君今そこまで困ってないよね?」
「仕方ない…。まあ次もお世話になるし今日はおごろう。」
「じゃあ、着替えて…。何かそれらしい夏の服はある?」
「ない…。」
「…じゃあ買い物から行こうか。どちらにしてもリスラ共和国で必要になりそうなものを幾つか買っておこう。」
「そんな高いのは嫌だからねっ!」
「…会社経費で買おうか。仕事の為に必要って事で。それともまた私から借りる?」
「…経費でお願いします。」
ユーラは街で一番のブランド街に僕を連れていき、ユーラの好みで幾つか選んでくれた。僕は女性の服が相変わらずよく分からないからユーラが選んでくれて助かる。
夏らしいスリーブのないワンピースやフォーマルな場で着れるドレス、靴やカバンも買ってくれて結構散財させてしまった。
「…今日はこれを着ていこうかな?試着して来て?」
「うん。」
ユーラが選んだのは黒いシンプルなワンピースで少し大人っぽい印象のデザインだった。
鏡にうつった自分の姿を見る。…悪くない。リネアの童顔が服のおかげで年相応に見える。さすがユーラだ…。
「…どう?」
「…うん。好きなデザインだ。」
「…お似合いですわ。」
店員さんも誉めてくれた。
「ガールフレンドへのプレゼントですか?」
店員さんがユーラに見とれている。
「…どうでしょう?」
ユーラが僕を見る。
「…。どうでしょう?」
僕もそのまま返してみた。
「羨ましい…。付き合って間もないんでしょうね。」
…なんて言ったらいいんだ…。
「…ご想像にお任せします。さあ、リネア行くよ。」
「うん。」
成る程、そう返せばいいんだ…。
ユーラは買い物に行く前にレストランの席を予約してくれていたらしい。何もかもスマートで僕が男なら見習う所ばっかりだ。
予約してくれた夜景の見えるレストランは内装もとても豪華だった。僕たちのような若い客はいなくて成人のカップルがほとんどだった。
「…何にする?肉?魚?両方?」
「…今日は魚にしようかな。魚は何?」
「…魚はオマール海老か舌平目だね。」
「じゃあ海老で。」
「私も今日は魚にしよう。」
ユーラはオーダーをしてくれた。今日は食前にワインも頼んでくれた。
「…いいの?」
「…特別に。お疲れ様。半年よく頑張ったね、色々大変だったけど君は本当に努力してる。」
「…ありがとう。」
嬉しくて涙がでてきた。
「本当は今日はセルゲイも誘ったんだけど今舞台準備で行けないって…。」
「そっか…。最初からここへ来るつもりだったんだね。」
「たまにはいいよね?」
「うん…。」
半年前、訳も分からずヴィルから逃げるようにここへ来て、店を始めてクーデター未遂があって、ニコちゃんの養子になって…色々あった。だけど今僕は凄く充実した毎日を過ごせていて、それはユーラがいてくれたからなんだ。
ユーラが僕をここに連れてきてくれて、クーデターからみんなを救ってくれた。お店も始めさせてくれた。
「…ユーラには感謝しかない。ありがとう。」
「私も同じ気持ち。ここへ君とこれて良かった。」
「ユーラ…。」
久しぶりのランク料理もすごく美味しくて、お酒も少し入って本当に幸せな気分でいっぱいになった。
「…そういえば、こちらの店がある程度起動になったらメルア大陸に行くことをイーチェンと約束したんだ。」
「…君は相変わらず慌ただしいね。いつになったの?」
「まだ具体的には決まってないけど来年には。スクールも探さないといけないし住む所も必要だよね。デイヴィッドさんに聞いてみようかな。」
「そうだね。彼が色々考えていそうだし。」
「…ユーラ…一緒に来てくれる?この前はあんな事いったけどやっぱりユーラが来てくれた方が心強いよ。」
「…その件に関しては後で答えを出すっていったよね?まだ答えられない。」
そうだった…。僕が自分で言い出したんだった。
ユーラが僕から離れる選択もあるんだ。
離れたらこうやって一緒に出かけたり宿題を見てもらったりいろいろ相談できなくなっちゃうんだよね?
「…。うん。そうだった。」
依存しすぎたのかな。一緒にいる時間が長くていつの間にか存在が大きくなりすぎたみたいだ。
想像するだけで寂しい…。
「…君と離れたら寂しいだろうな…。」
「うん…。」
「君とこうしている何気ない時間がとても楽しくて居心地がよかったから…。」
「…私も…。」
「…ありがとうリネア。」
「ユーラ…。」
ユーラが優しい顔で笑った。
まるで別れを予感させるような言い方だ…。
「そろそろ出ようか。」
「うん…。」
僕たちは馬車の中で無言だった。
ユーラに繋がれた手を僕はほどかなかった。




