心配
僕が帰宅するとユーラが僕を呼び止め、僕の手を引っ張って客間に連れていった。
「…ただいま。」
「おかえり。何か飲む?」
「…けっこう飲み物たくさん飲んだから今はいいかも。ありがとう。どうしたの?」
「…心配で…。」
「ユーラ…。私は小さな子どもじゃないんだから。」
「…イーチェンは?」
「…心配しすぎだよ。」
僕は今日イーチェンと話した内容をユーラに話した。
話を一通り聞いたユーラは複雑な顔をしている。
「…そういう訳だから心配ないよ。」
「…どこが?」
「だから、危険じゃないって。」
「…君は簡単に人を信用しすぎだ。」
「保護者みたいだね…。大丈夫なのに。」
「リネア、確かに私は君の保護者代理でもある。だから君を危険な目に合わせないよう心配するのは当然だろう?」
「もー、イーチェン自身はそんな危険な人間じゃない。ユーラやセルだって大丈夫だって私は分かったんだもん。だから私を信じて。」
「…はー。何かあったらすぐ私に報告するように。」
「はいはい。」
「リネア?」
「はいっ。」
何このやり取り…。
「…スクールの勉強は?」
「…実は数学が少し理解できない所がある。」
「…テキストある?見てあげるから。」
「…ありがとう。持ってくるよ。」
部屋に戻るとユーラが紅茶を入れてくれていた。
スコーンと、ジャムまである…。優しすぎる…。なんか物凄い過保護っぷりだ。
「ユーラ…。アリーナにもこんな感じだったの?」
「彼女は君みたいにおかしな動きもしないから心配することは少なかったけど、そうだね…宿題や勉強をみたりはしていたかな。食事の用意も…。」
「会いたい?」
「…たまにはね。でもヴィルフリートが今はいるから。」
「…ユーラには面倒な妹ができたし?」
「…その手には乗らないよ。さあ、テキスト出して。テストは近いんだ。」
「はーい。」
セルがバレエを始めてバイトや朝以外会わないことが増えるようになった。寝るのも僕に気を使って自分の部屋で寝ているらしい。親離れをされた気分で少し寂しい気もするけど毎日いい表情のセルを見れるのは嬉しかった。
僕はユーラといる時間が一番多くなって、一緒に夜ご飯を作って食べたり、勉強や語学を教えてもらったり、ビジネスについて話し合ったりしていた。バイトが休みの日は二人で映画や美術館に出かけたり、リスラ料理を作ったりしている。
ユーラの好きな絵画や本、映画、どれも面白くていつの間にか僕の部屋はユーラから借りた本が本棚一杯になっていた。
僕が客間のソファーでゴロゴロしていても諦めたようで何も言わなくなった。その変わりに毎回お菓子を出してくれる。
「ヴィルだ。」
「何?」
「誰かと似てると思ってたんだ。ユーラ、ヴィルみたい。」
「…私が?」
「うん、世話好きで多趣味。」
「…何て反応していいか分からないな。要するに気の合う友人だろ?」
「ヴィルは親友だけど…。」
「私は友人で保護者で兄なんだろ?…もう聞き飽きた。」
ユーラが不満そうだ。
「ユーラは私といて退屈してない?」
「してないよ。」
ユーラは寝そべっていた僕の頭を彼の膝にのせて膝枕をしてくれた。
「最近は君と一緒にいるのが普通になりすぎていないと変な感じさえする。他人が苦手で誰かといるのが苦痛だった私が…だよ。信じられない。」
「私もなんだ。基本誰とでも仲良くなれるけどずっと一緒にいたのはヴィルくらいで。」
「フリッツは?」
「彼は基本忙しいし、毎日会えたのはお城に滞在させてもらった時くらいかな。でもこんなふうに二人でずっといたことないからなぁ。」
「そうなんだ…。君こそ私といて退屈していない?」
「全然。ユーラの好きなものは私も興味があるものばかりだし、退屈どころか楽しいよ!」
「よかった。…そういえば話しは変わるけど新店舗の候補地は決まった?」
「イーチェンと何件か見に行って今候補が2つあるんだ。近いうち見てくれる?」
「もちろん。イーチェンもすごく前向きだね。」
「うん、イーチェンはちょっとフリッツに似てると思う。」
「そう…?」
「うん、やりたい事がたくさんあって基本ポジティブなんだ。」
「…リネアが好きそうなタイプだね。」
「そうだね。」
「リネア…。君が自分のガールフレンドだったらフリッツみたいにはなれないな。」
「何それ?」
「…私が彼なら心配でこんなふうに他の男と暮らすなんて絶対させないし、いろんな男と自由に会わせたりしたくない。」
「ほら、やっぱりヴィルだ!」
「…ヴィルフリートの感覚が普通だと思うよ。」
「…ユーラは私がいないと死ぬ、とか言って自殺しようとしたりしないでよ?私はそういうの一番苦手だから。」
「…言うかも。君がそれで手に入るなら。」
「うわっ。絶対だめだよ。あと、もし万が一ユーラと婚約する事になっても縛られるのは絶対嫌だからね。」
「それも約束しかねるな。私は君が婚約者になったら離れたくないし勝手に出かけられるのは許可できない気がする…。」
「ユーラ…。」
僕は起き上がってユーラの顔を見て肩をつかんだ。
「私は正直ヴィルと婚約を解消されてほっとしている。何故なら彼は私の男時代の友人であったのもあるけど、物凄く嫉妬深くて執着心が強かったんだ。」
「…。」
「それに私は基本女性とのお茶会みたいな交流も苦手なんだ。この際はっきり言っておくけどユーラも立場的にファーストレディらしさを伴侶に求めるなら私はまったく向いてない。イーチェンにも言われたけど私は早食いにでるような変な奴だからね。」
「…好きになった相手の為に変わるとかは?」
「ない。全く変わる気もない。もちろん最低限のマナーや儀式参加をこなすことはできるよ。だけどとにかくそういうの以外は一切期待しないで欲しい。」
「フリッツにもそれ言ったの?」
「言ったし、彼は諦めてくれたよ。それでもいいって言ってくれた。私にあまり執着心がないのが彼のいいところなんだと思う。私も同様にフリッツの事を四六時中考えたりしないし、たまに会えれば満足できてるから。」
「…。」
ユーラが眉間に皺を寄せて目を閉じた。
「…。君が本気でそう言う宣告を私にしているのは分かった。しかも恋人にまでその状態なんだね。」
「…そうだね。だから続くんじゃない?」
「…。」
ユーラが下を向いて震えてる…。これは…。
「はははっ!」
やっぱり笑ってる。
「…ユーラ…。楽しそうだね。」
「もちろん。君は楽しすぎる。」
ユーラの手が僕の頬に触れた瞬間にキスをした。
「…っ。」
なんでこの流れでこうなる?しかも…、ヤバい。
ユーラ…キスが…上手すぎる。
「ユーラ…っ。駄目…っ。んっ…。」
ユーラの好きな紅茶とブルーベリージャムの味がする…。
クラクラしてきた…。
「…っ。甘いよリネア。」
「…。」
「私がそんな言葉で君を諦めるとでも?」
ユーラが意地悪な笑みで僕を見た。
「私がヴィルフリートと絶対的に違うところがある。何か分かる?」
「…しつこさの度合い?」
「…嫌な言い方されたけど当たってる。ヴィルフリートとリスラ共和国に呼ばれ私の父親からの3つの選択肢から選ぶよう迫られただろう?」
「うん。」
「私なら迷わず3番を選ぶ。」
「…えっ?駆け落ちコース?!」
「国なんかどうにでもなるだろうし、地位も剥奪してもらえて好きな女性と好きに暮らせるなんて最高じゃないか?私は別に大統領になりたいなんて願望もないし、自分で稼いでいける自信もある。正直ヴィルフリートが普通に国や地位を選択した時点でがっかりしたけどね。」
「…ユーラ…。何て言うかすごくびっくりしてるよ。その選択肢は私にはなかったから。ユーラはロマンチストなんだね?」
「…君限定だけどね。…だからさ、君が君の願望を語るのは自由だけど私はそれを100%受け入れたりはしない。君に主導権を握らせないで私が握ればいいんだから。」
「…どうやって?」
「色々方法はあるけど?…知りたい?」
「…なんとなく今は知りたくない。」
「…残念。」
「…もう寝るよ。」
「お休み、リネア。あ…キス、良かったよ。またしたいな。」
「…っ。おやすみっ。」
僕は部屋から逃げるように自分の部屋へ戻った。心臓がドキドキしている…。
ユーラは手強い。他の誰より思い通りに進まない。
僕はいつの間にか彼に懐柔されるんじゃないかと不安になると同時に彼の予想できない行動にスリルを楽しむ自分がいる…。
とりあえず、あまり近づきすぎたらいけない。気を付けよう…。ユーラは危険だ。いろんな意味で。




