二人の夜
「フリッツ…もう私…。」
「まだだ…。」
「でももう無理だよ…。あっ…!」
「チェックメイト…また俺の勝ちだな。」
フリッツが嬉しそうに笑う。
ホテルについてからずっとチェスの感想戦をやらされてる。
「さっきニコちゃんとやったんでしょ?もういいじゃん。」
「いや、なんか変な負け方して気持ち悪いんだ。分かるだろ?途中までは俺が優勢だったんだ、それが何故か最後におかしくなってきて…。」
「だからって…。もう私は疲れてるから寝ていい?」
「お前、俺と一緒にいてただ寝るつもりか?」
「だってここの所ずっといろいろあって疲れてるんだもん。」
「だってじゃない。」
フリッツが僕をベッドに連れていってベッドの上にぽいっと投げた。
「フリッツ…。」
「ヴィルフリートと何があったか、話してもらえるか?」
フリッツがそう言って横に座った。
…どこまで話すべきなんだろう…。
「…」
「ヴィルフリートがお前を諦めなければならいなんて余程の事だろ?」
「…誰にも言わないって約束してくれる?」
「もちろんだ。」
僕は先日の一連の話をフリッツに伝えた。
クーデターの話、リスラ共和国との取引、フェルセン侯爵達に襲われたこと、スモーランドとの貿易、話してみると数日間の出来事とは思えないくらい色々あったと実感する。
「なるほど…、そんな事があったのか。お前も辛かっただろう?よく決断したな。」
フリッツが僕の頭を撫でてくれる。
「…私はニコちゃんにこれからどう利用されるか分からないけど、今はやれる事をするしかないと思ってる。それから、ひどいかもしれないけどヴィルと婚約解消できたのは正直ほっとしてる…。」
フリッツが僕にキスをする。
「俺も…ある意味よかったな…。婚約が解消されたのは。」
「うん…。それにヴィルにはアリーナがあっていたと思うんだよね。私といると何かと困らせていたし。」
「まあ、一緒にいたい人が合う人かどうかは別の話かもしれないな。…それで…。」
フリッツが何か言いたそうな顔でこっちを見ている。
「…お前、疲れてるんだよな…?」
フリッツが僕の髪をさわる。
「…。したいんだよね?」
「…そりゃ…、だけどお前が無理なら…。」
フリッツの顔が赤くなる。可愛い…。
あー、やっぱり好きだ。ドキドキする。
「…いいよ。また明日には会えなくなっちゃうんだもん。」
僕はフリッツの首に腕を回して引き寄せた。
「んっ…。リネア…。」
◇◇◇
「え…?明日から私もフレーデル王国に?」
「そう。」
「…じゃあ何でさっき黙っていた訳?」
「会ったら毎日って約束だろ?」
僕はフリッツの頬をつねるとフリッツが僕の手を握って笑った。
「…だけどいつの間にカジノなんてそんな話に…。信じられない。」
「だってミハイルばっかりずるいだろ?お互いがんばって働いたら一年に一回会えるってどこかの国の神話じゃあるまいし…。俺はもっと会いたいし、もっとしたい。」
「…だからって国のそんな話を一存で決めていいの?」
「元々カジノの話はあったんだ。リスラ共和国に入ってもらうつもりはなかったが、あの国を国際条約に加盟させて、お前を担当にすればそこまでおかしな真似はできないだろう?」
「フリッツはニコちゃんと同じくらい敵に回したくないタイプだ。」
「お前を得るためならできることはなんでもやらないと。」
「…ねぇ、フリッツはニコちゃんの事、どう思った?」
「そうだなあ…。元々知ってはいたが実際に話してみると印象が良くなったな。意外に人の話を聞いてくれることもあるし…。ただ。」
「何?」
「お前を側室にするってなんだ…?なんでお前はそんな話を飲んだんだ?」
「まぁ条件は悪くないかと思って。楽してお小遣いもらえるらしいし。」
「お前…、どういう感覚してるんだ?」
「フリッツが頑張れば済む話じゃない?」
「はー…。好きになったりしないよな?」
「誰を?」
「ミハイルの父親。」
「ニコちゃんを?何で?!」
「だって…俺が女ならいいって思うかも。」
「何で?」
「格好いいし、頭もよくて魅力がある。」
「…さっぱり理解できない。かなり変人じゃない?」
「お前もだろ。」
「…ニコちゃんにリネアになったおかげでフリッツや他の人に興味を持ってもらえたからよかったねって言われてさ。」
「おまえ話したのか?」
「うん、女らしくないって言うからさ…。でね、確かにって思ったんだ。私が男ならフリッツは私と恋人にならなかったよね?」
「ならなかったな。」
「私は自分自信が男である事を捨てきれないんだけど、ヴィル以外はみんな私が女だったから興味をもってくれたんだと思ったら、私がリネアになれたのは凄い事だったなぁって思って…。」
「確かに。お前がリネアになってくれて本当によかったよ。オスカルとは俺はできない。」
「何を?」
「いろいろ…。分かるだろ?ヴィルフリートはどうだったんだろうな?」
「…可能かなぁ…?ヴィルはオスカルにしか興味がなかったし。ねぇ、ユーラはどうだろう?オスカルの見た目なら…。」
「…あいつも微妙だな。女装してたし、俺に興味を持っていたくらいだし。…なぁ、お前はやっぱり今も女に興味があるのか?」
「まぁ、どちらかと言えば女性に目がいくよ。」
「俺といる時ってゲイの気分な訳?」
「すごい質問してきた…。そうだなぁ…。」
フリッツが凄く楽しそうにしている。
「フリッツといる時は両方かな。今みたいな話をしてる時はオスカルっぽくて、その…してる時はリネアになってる。絶対オスカルなら無理っ。」
「他の人とはどうなんだ?」
「…楽しそうだね?」
「だって面白いだろ?!俺にはわからないし。」
「うーん…ヴィルといる時は当然ずっとオスカルで、セルといる時は両方かな?弟みたいで可愛いし。ユーラは…。」
「…」
「やっぱり両方だな。なんだかんだ一緒にいる時間が長いし、今回もユーラのお陰でクーデターを防げたし、兄みたいな存在なんだよね。」
「ミハイルとは…できる訳?その…男女の関係は…。」
「どうだろ…綺麗すぎて緊張しそうじゃない?フリッツはどう?ユーラとできる?」
「できる訳ないだろ?!」
「やっぱり緊張するよね?彫刻みたいだもんね。」
「そういう事じゃなくて…。お前は…できそうだな。」
フリッツが不満そうだ。
「どうかなぁ。キスをするように言われたから一度したけど…その先は無理じゃない?好きじゃないとできないよ。…フリッツ?」
フリッツが物凄く怖い顔をしてる。
「お前…ミハイルとキスしたのか?」
「した。」
「お前、俺には他の人とこういうことするな、とか言ってたよな?」
「言ったね。」
「で?!何故お前はキスをしたんだ?」
「だってじゃあスモーランドを救ってくれたお礼にフリッツなら何をした?お金に困ってない人だよ?」
「…」
「キスがいいって言われて、フリッツならどうする?」
「…キスするかもしれない。」
「でしょ?!不可抗力だよね?私だって自分からしたりはしないよ。ちゃんと恋人がいるんだから。」
「お前は…結構小悪魔だな。可愛い顔をして何も知らないふりして男をたぶらかす危険な奴だ。ミハイルもさぞかし振り回さはれているに違いない。」
「失礼だな…。私が小悪魔ならフリッツはもっと悪い悪魔じゃない?」
僕はフリッツを押し倒した。
「何故…?」
「私をこんなふうにしたのは誰?」
僕はフリッツを見下ろす。
「…ヤバい…。」
「何が?」
「本当に小悪魔だ…。」




