ゲオルグとルイーズ それぞれの夜
エンゲル王国の街が見渡せるバーで私はヴィッキーと酒を飲んでいた。
「綺麗ね。」
「誕生日パーティーに行かなくて良かったのか?」
「私が行っても他の人に気をつかわせるだけよ。」
「せっかくここまで来たのに…?」
「何?私がここにいたらいけない訳?」
「もちろんそんな事はないが…。」
「あなたもたまには仕事を忘れてこの景色を楽しんでみなさいよ。」
「そうだな、なかなかこれない場所に来れたんだもんな。殿下のお陰で。」
「そうよ。あの子ここに来る為に今まで貯めた貯金大分使っちゃったみたいだしね。よっぽどリネアに会いたかったのね。」
「リネア様とうまくいって欲しいなぁ…。」
「そうね、あの二人にはうまくいって欲しいわ。あの二人、本当にお似合いだもの。」
「君は…?」
「え?」
「君はどうなんだ…?」
私は彼女の顔を見るのが怖くて、夜景を見ながらそう言った。
「私は、何かを望む事を諦めてるから…。」
「…」
「ゲオルグ、あなたはどうなの?彼女をつくらないの?」
「私は…今はそういうのはいいな…。」
「そうやってるうちにどんどん年をとって婚期を逃してもしらないわよ?」
「私も…同じだから。一番欲しいものは手に入らない。」
「…」
「近くにいれるだけで…十分なんだ。」
ヴィッキーが私を見る。
「本当に?」
「あぁ…」
「あと数年だけで?」
「…私にはどうにもできない。そうだろう?」
「…そうね。でも…。」
ヴィッキーの目に涙が溢れる。
私の大切な人、昔からずっと好きだった可愛い人。
いつの間にかこんな素敵な女性になってしまった…。
数年後にはどこかの国の王族に嫁いでしまうのだろう。
ずっとこのまま一緒にいたいのに…。
酒のせいだろうか?
それとも外国に来て気が緩んでいるのだろうか?
今まで押さえていたたがが外れそうだ。
「泣くな…。」
私はヴィッキーの涙をふいた。
ああ、昔と同じ。少し怒ったような困った顔をしながら彼女はこうやって泣くんだ。
「今だけ…、ここにいる間だけ、身分を忘れてもいいか?」
「…ええ」
「私の部屋に泊まるか…?」
「…」
ヴィッキーが頷く。
私は彼女の手を引いて部屋に入った。
◇◇◇
「ルイーズ、せっかくリネアのパーティーに来たのに…。」
「いいんだ。僕の目的はこっちだから。」
僕はリネアの部屋にシャーロットと入った。
「3年ぶり…かな?」
僕はシャーロットを見つめた。
「ああ。」
これがリネアの部屋か。
ベッドとソファー、それから小さな机が一つ。本当にシンプルな部屋だ。
僕はシャーロットをソファーに座らせた。
「フリッツに聞いた時は驚いたよ。君がリネアと仲良くしているなんて…。」
「フリードリヒは何故知っていたんだ?彼女は彼には連絡をしていないと言っていたが。」
「ややこしいんだけど彼女の婚約者とフリッツは友人でね、二人は手紙のやりとりをよくしているみたいなんだ。リネアはたまに婚約者にだけ手紙を書いていたみたいだから、それで知ったんじゃないかな。」
「リネアのまわりには変わった奴が多いな…。」
「君もその一人じゃない…?」
「そうだな、間違いない。」
シャーロットが笑う。
元々綺麗な人だったけど子どもだったあの頃とは違ってすっかり女性らしい雰囲気になった。
「会う前はいろいろ話したいことがいっぱい会ったのに会えたら何を話していいかわからなくなっちゃったよ。」
「…私もだ。元々話すのが得意ではないしな…。」
シャーロットの顔が赤い。
あぁ…、彼女が皇女様じゃなかったらなあ…。今すぐ連れて帰るのに。
触れることさえはばかられるような高貴な人だ。
彼女がランク王国に留学してきた時、僕は一目で恋におちた。僕の初恋だった。
だけど彼女のまわりは護衛も多いしなかなか話す機会を得られなかった。
一度だけ勇気をだしてお茶に誘ったけど、それからすぐに彼女は帰国してしまった…。
その後何人かの女性と付き合ったけど、彼女を忘れることができなかった。
今まで誰にも言えなくて、つい最近やっとフリッツに話す事ができたくらいだ。
その彼女が目の前にいる。信じられないくらい幸せな気分だ…。
「リネアに感謝しなきゃ。」
「…そうだな。」
「え…?」
「あ、いや…あれ?」
シャーロット…?
「会いたかったんだ、ずっと…。」
僕は彼女の目を見てそう言った。言わずにいれなかった。
「…」
シャーロットの顔が赤い。
「私もなんだ。君が…忘れられなくて…。」
「君も…?」
僕は何も考えられなくなって
気づいたら
シャーロットに口づけをしていた。
リネア達のいる部屋へもどったのは、
キスを何回か重ねた後だった。
二人とも何事もなかったかのように戻ってみたが、みんなの生暖かい目がつらかった…。
僕たちは次の約束をする事はなかった。
多分、もう会うことはないとお互い分かっていたから。
やっと初恋の君に会えた。僕の想いを伝えることができた。
彼女も僕のことを気にしていてくれた。
それでで十分だ。
本当にここへ来た甲斐があったな。
もう僕たちは前を向いて進めるはずだ…。




