メアリーの救出
セルゲイの部屋のドアをノックする。
セルゲイがドアを開けた。
「おはよう、リネア。どうしたの?こんな週末の朝に。私に会いに来てくれた?」
「セルゲイ、部屋に入れてくれる?」
「…もちろん。」
セルゲイの部屋は本当に何もない部屋だった。
「ベッドだけ?」
「他に何も必要ないしね。…で?要件は?」
「メアリーが消えた。」
「へぇ。」
セルゲイは何の関心もないようだった。
「何かしらない?」
「…知っていたとして、君に教えるメリットがどこに?」
「君はメアリーの知り合いでしょ?心配じゃないの?」
「別に。」
「…お願い。彼女はフリッツの大切ないとこなんだ。彼女を助けたい。協力してほしい。」
「…心当たりはあるよ。間に合うかは分からないけど。」
「協力してくれるの?」
「リネア、取引しよう。」
セルゲイが僕の目を見てそう言った。
「取引…。」
「そう、彼女が無事見つかったら一日私に付き合ってよ。」
「そんなことでいいの?」
そんな事が取引の内容になるの?
「…それから、今からこのまま出かける。誰にも何も伝えずに。いい?」
「…分かった。急ごう。」
セルゲイはスクールの駐輪場に向かうとバイクを取り出した。
「バイク?」
「乗って。ヘルメット。」
「うん」
セルゲイは僕に彼のヘルメットを渡すと僕を後ろに乗せてバイクを走らせた。
風が気持ちいい。景色がすごいスピードで変わっていく、楽しい!
「セルゲイ、私も運転したい。変わって?」
「リネア…それはまた今度にして。今事故したら意味がないよ。」
「…心当たりあるって…どこ?」
「彼女が最近付き合っている奴らのアパート。」
バイクは中心街からそれてどんどん郊外に向かって行く。
外国人が多く、街の雰囲気が違う。
古いアパートの前にバイクを止めると念入りにロックをかけ、
僕たちはアパートの地下に降りた。
セルゲイがドアをノックする。
「…ロマノさん。朝からどのようなご用件で?」
柄の良くなさそうな男がドアを開けた。
「…メアリーが来てないかと思って。」
「…さあ?知りませんね。」
セルゲイがいきなりナイフを男性の首もとに突きつける。
「知らない?君は私に嘘をつくの?」
「…俺じゃないですよ。」
セルゲイの赤い瞳が彼を威嚇するように見つめる。
「言ったよね?彼女は上客だから手をださないようにって。」
ナイフを軽く顔にあてた。
自分の鼓動が早くなるのが分かる。
「すみません…本当に俺はやめるよう言ったんですよ。」
男の顔がひきつっている。
「で?」
「2階にいます…。」
「連れてって。私やこの人に手を出したら明日生きてないと思ってね。」
「はい…」
鼓動がどんどん早くなる。冷や汗も止まらない。
セルゲイ、君は一体こんな人達と何をしているんだ?
こんな男が怯えるほど君はヤバい奴なのか?
2階のドアを開けると汚れた部屋の中にメアリーがいた。
タバコやいろいろな匂いがして鼻が曲がりそうだ。
部屋の中に男が二人いて、先ほど地下にいた男が僕たちに何もしないよう伝えた。
メアリーの衣服は乱れ手足を縛られ、口元には猿轡がつけられていた。
「うー!」
メアリーがセルゲイを見て涙をながした。
「…君がここまで馬鹿な女だったとは思わなかったよ。私は警告したはずだよ。コイツらには関わらないようにって。」
僕はセルゲイのナイフでメアリーを縛っていた縄を切った。
その瞬間メアリーはセルゲイに駆け寄った。
「君は彼女に感謝するんだね。彼女がいなかったら、オークションにかけられていたかもよ?」
オークションて…なんだ?
「感謝?するわけないでしょ、こんな女に。セルゲイ、あなたが私を助けに来てくれたんでしょ?」
メアリーがセルゲイを抱き締める。
「違う。私は別に君がどうなろうと、顧客の一人が減るくらいにしか思わない。」
セルゲイはメアリーを押し退けた。
「ひどいわ。みんな私の事なんてどうでもいいのよ…」
僕は思わずメアリーの頭をグーで叩いた。
「この馬鹿!」
「…は?…誰の事?」
「お前の事にに決まってんだろ!何を甘えた事言ってんだ!散々人に迷惑かけておいて!今頃お前の家族はお前を探してる!フリッツだって、ルイだって心配してる。僕はお前が好きじゃないけどお前がいなくなったら悲しむ奴がいるって分からないのか!」
「…何なのよ、あんた。」
「セルゲイに感謝しろ!セルゲイが来てくれなかったら死んでたかもしれないんだぞ。」
セルゲイとメアリーが呆然とこちらを見ている。
「…なんだよ?」
「いや…。君はいろいろ想定外だなって…。」
「セルゲイ、メアリーも帰るぞ。」
「はい…。」
セルゲイが三人の男に近づいていく。
「君たち…今日のことについては不問にしてやる。その代わり、このことを他人に話したり、次同じように私の顧客に手を出したら…どうなるか分かってるね?」
「は、はい…。」
僕たちはアパートを後にした。
メアリーがセルゲイに抱きついた。
「怖かった!私…殺されるんじゃないかと思ったわ。」
セルゲイは震えていたメアリーを突き放した。
「セル、こんなんでも一応メアリーは女の子だよ。もう少し優しくしてあげなよ。」
「グーで叩いた君に言われたくないね。」
「そうよ、一応女の子って、あんたに言われなくないわ。」
セルがメアリーの胸ぐらをつかむ。
「…セルゲイ?」
「メアリー、君はこれ以上私を苛つかせないでくれる?
早く家へ帰れ。それから、殿下に伝えろ。リネアは明日のスクールまでには戻るって。」
「…分かった。」
メアリーは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「メアリーを一人で返すの?かわいそうだよ。」
「だってこのバイク2人乗りだもん。」
「じゃあ私が一人で帰るから」
セルゲイが後ろから僕を抱き締めた。
「リネア、約束は守らなきゃ。ちゃんと助けたでしょ?」
「え?今から?」
「もちろん。はい、バイクの鍵。」
「え?」
「今度はリネアが運転するんでしょ?」
僕たちはメアリーがバスに乗るのを確認してバイクに乗った。




