待機
俺は何故恋人の部屋で男と二人でいるんだろう?
今日は朝からリネアと久しぶりにゆっくり過ごすつもりでいたのに…。
「訳がわからん。ルイ、俺がわかるように話せ。何故メアリーがいない?何故そなたとリネアはメアリーの事を知っている?そなた達はセルゲイに何を聞こうとしている?」
「…先ほど申しましたように、僕には一緒に留学している妹がいます。彼女は今年に入ってからどんどん勉強についていけなくなって、スクールに行く代わりに外を出歩くようになったんです。」
「まぁ、よくある事だな。」
俺達の入るスクールは国の中でもかなり学力の高い生徒が入るスクールだ。毎年数人授業についていけず脱落する生徒がいる。
「妹はだんだんと付き合いが派手になり金のある仲間同士遊ぶようになってきました。僕は妹が心配で常に見張りをつけていましたからある程度彼女の状況を把握できたんです。」
「なるほど。…でその中にメアリーも入っていたと。」
「ええ。彼女はスクールでは普通に過ごしていますが、少し遊んでいる連中の間では有名でしたよ。金も身体も提供してくれるって…。」
「…信じられないな。俺が全く気づかなかったなんて。」
俺がリネアと知り合う前からなのか?それとも…。
「セルゲイは今年6月になってから現れたんですが、珍しいドラッグを安く売ってくれる人間をいっぱい知っていて、妹たちもセルゲイとよくクラブで遊んでいたみたいなんです。彼はドラッグ以外にもいろいろなツテを持っているみたいで、彼に相談すると退屈しないと言っていました。」
「リネアは何故今日瞬時に奴を疑ったんだ?」
「セルゲイとクラブに行った時メアリーに会ったそうですよ。二人が親しそうだったって言ってました。」
「何であいつはそんな事を俺に言わないで黙っているんだ?!」
「心配させたくなかったんじゃないですか?」
「…ルイ、リネアを一人で行かせて良かったのか?」
「…僕たちが行ったら多分メアリーを助けてあげられない。リネアはなんとなくそれを分かっていたからああ言ったんだと思います。セルゲイはヤバい奴ですが、リネアには手を出さないと僕は思っています。」
「なんなんだ?リネアはどうして次々と面倒な奴に関わっていくんだ?」
「そのお陰でお二人は会えたんじゃないですか?」
「…」
こいつ…。
リネアはいくら待っても帰って来なかった。ルイが何度もセルゲイの部屋を確認したが彼はいないようだった。二人で出かけた可能性が高い。
悪い予感がした。メアリーには申し訳なかったが俺の頭にはリネアの事しかなかった。こんなことなら一人で行かせるんじゃなかった。彼女が心配でたまらない。不安が苛立ちに変わる。
「何故そなたはリネアに助けを求めた?王族が誘拐されたとなればそれなりに国の警察機関が動けるだろう?」
こいつが朝こなければこんな事にならなかったのに。
「では何故あなたに情報が入ってこなかったと思います?何故彼女の両親はあなたや国王に協力を要請しないんですか?」
何だって…?
「…そなた、まだ何か知っているのか?」
なんなんだ、この男は…。
「メアリーの父親はリスラ共和国と繋がっていると僕は思っています。」
「叔父上が…?!」
「証拠はありませんが…。」
まさか、違法取引に関わっているのも叔父上なのか?
メアリーがセルゲイに会ったのは偶然ではなかった?
頭が混乱する…。
「今あなたが国王に頼んで捜査を要請してもすぐに動いてもらえるかは分かりません。とにかく待ちましょう。」
「はー…。リネアに何かあったらそなたを恨む。本当なら今頃リネアと…。」
「…。すみません。」
昼前に姉上が部屋にメアリーと来た。リネアはいない。
「彼女、あなたを探していたの。」
「フリッツ…。」
メアリーが俺に抱きついた。
「怖かったわ。私、リネアに殴られて、しかも郊外の汚ない街から一人で帰れって言われたのよ!あの子セルゲイまで誘惑して本当に悪い女よ!」
もの凄く腹が立ってきた。この女にも、自分にも。
「…俺はどうして今までお前の嘘を見抜けなかったんだろうなぁ…。」
「あんたが馬鹿だからでしょ?」
「姉上…ひどい言い方だが否定できない。」
「酔った時に胸の谷間でも見せられてつい?」
「ルイ…それも否定できない。」
俺はメアリーを振り払った。
「メアリー、リネアは?」
「フリッツ!騙されないで!あの子は本当にあばずれだわ!あなたという人がいながらセルゲイと明日まで帰らないって言ったのよ!」
「今なんて言った…?」
最悪だ…。
「フリッツ、捜査を出す?」
「いや、俺の護衛を使って探す事にする。メアリー、心当たりは?」
「…知らない。私、疲れたから帰っていい?」
メアリーが目を反らした。
「…その前に少しいいか?」
「何?」
「話がしたい。」
俺はメアリーと二人きりで話せるようにしてもらった。
メアリーはリネアの部屋を確認する。
「これがあの子の部屋?随分貧相な部屋に住んでいるのね。やっぱり王族じゃない人にこの寮は相応しくないわ。」
「…いつからなんだ?」
「何が?」
「お前が素行の悪い奴らと遊びだしたのは。」
「…フリッツには関係ないでしょ。」
「…俺が、スモーランドから帰ってきてからか?」
メアリーは俺を睨んだ。
「…あなたは変わってしまった。スモーランドに行く前は仕事しか頭になくて、だけどそんなあなたが大好きだった。…他の女の子とも遊んでいたのも知ってた。だけど、特定の人はつくらなかったし、私が誘えば応えてくれた、だからそれで満足していたのに。」
「…。」
「スモーランドから帰ってきたあなたは会うたびにリネアの話ばっかり。誘っても私を見てもくれないし、もう遊ばないの一点張り。…寂しかった。私だけがあなたの特別だったはずなのに。」
「それは間違ってなかったがな。俺は…。」
「妹なんかじゃない!私は女としてあなたの側にいたかった。
あなたが好きになった人がどんな魅力的な子かと思って会ってみればただの男みたいな子どもだし、私がどれだけ傷ついたかあなたにはわからないでしょ?!」
メアリーが涙を流す。
俺はメアリーの頭を撫でた。
「悪かったな…。俺が中途半端にお前を受け入れたせいで。」
「謝らないで。」
「…セルゲイとはいつ知り合ったんだ?」
「…」
「叔父上の主催する国際的なパーティーが毎年6月にシュバイツァーであるが、そこで知り合ったんじゃないか?」
「…どうして…。あ…。」
「…。」
ルイの予感は当たっていたようだな。
ルイ…あいつは一体何者なんだ?




