週末
日曜日の明け方、鍵が開く音が聞こえた。
足音の主がそのままベッドに倒れこむのはいつもの事。
フリッツは忙しい合間をぬって週に一、二回こうして来てくれる。そのまま横で寝てるだけの時もあるし、僕を無理やり起こす時もある。
今日は後者の方だった。
「頬っぺたつねらないで。」
「お前はセルゲイと何をしてるんだ?あれだけ危険な目に合っておいて。ヴィルにも叱られたじゃないか。」
さらに指に力をいれてくる。
「朝から説教とか…いたいよー…。」
「言っても分からない奴は身体で教えるしかないな。」
そう言ってフリッツが僕にキスをし始めた。
「…怒ってる?」
「怒ってる。あと呆れてるし心配もしてる。」
「ごめん。…ちょっといろいろあって。」
メアリーの事はもう少し状況が分かってから話したい。
「ルイとも親しそうだし、カードゲームまでしてるなんてズルいじゃないか。」
「えー?じゃあ一緒にやる?前にヴィッキーとユーラも一緒にやったよ。」
「またミハイルか…。」
「ユーラが強すぎてやばかったよ」
「俺だって強いし。」
「じゃあ、今度ユーラとセルゲイも誘って決定戦やろうか。私の戦った中で最強だよ。」
「ヴィルやルイも強かったぞ?」
「あの二人は私といい勝負なんだけどね。あの兄弟にはなかなか勝てないんだ。」
僕は起きてコーヒーをセットした。
フリッツはまだベッドにいる。
「セルゲイとも仲良くなったのか?」
フリッツが僕の腕を引っ張る。まだ起きるなということらしい。
「ううん。でも少しだけ表情がでてきた。」
「表情?」
「うん…ヴィルも最初会った時は本当に冷たい目をしていたんだよ。お父さんとお祖母さんにすごく厳しく育てられてね…。無表情な人形のような子だったな…。」
「…そうだったのか」
「ヴィルには優しいお母さんがいたし、お父さんは厳しくても愛情を持って育ててくれていたと気づけた。ユーラにもお母さんの記憶があって彼にはアリーナがいた。
…でもセルゲイは誰の愛情も感じることなくここまできちゃった。まだ彼は13歳なんだよ。まだ、間に合うと思うんだ。」
「だけどそれを気づかせるのはお前の役目じゃないだろ?」
「そうだね。…だけど私は彼に何かしてあげたいと思うんだ。おかしいかもしれないけど。」
「はー。お前は一体何なんだ?」
フリッツがため息をついた。
「余計なお世話かもしれないけどね。最近はわりと懐いてくれておつかいもしてくれるし、ランチも分けてくれるよ。」
「…なんかよく分からんが、お前が危険な目に合わないならいいんだ。」
僕はフリッツを抱き締めた。
「ありがとう。気をつけるよ。」
「お前の'気をつける'は全くあてにならないとすでに学習済みだ。」
僕たちは簡単な朝食を部屋でとった。
「フリッツ、今日の予定は?」
「ない。」
「じゃあどっか行く?」
「たまにはこうやって一日二人だけでゆっくりしたいんだが…。」
「えー?何それ、退屈じゃない?年寄りみたい。」
「お前は本当に子どもだな。」
フリッツ、疲れてるんだな。仕方ない、今日は僕も大人しくするか。
誰かが部屋のドアをノックする。
「ルイ…?おはよう、珍しいね。」
「おはよう、あ…殿下。お邪魔だった?」
「邪魔だ。」
ルイの顔がいつもと違う。
「何かあった?」
「…メアリーが昨夜から行方不明なんだ。今、彼女の家族が必死で探してる。」
「…。その情報はどこから来たの?どうしてルイが知ってるの?」
ルイは一瞬目を背けて僕にこういった。
「僕の妹が、昨日メアリーと一緒にいたんだ。」
「妹いたの?」
「恥ずかしい話、妹は出来が悪くて最近はスクールにもあまりいかず素行の悪い連中とつるむようになってさ…。そのグループの中にメアリーもいて…。」
「どういう事だ?」
フリッツが慌てる。
「フリッツは黙ってて。」
「メアリーが朝まで帰ってこないのは珍しい事じゃないんです。その…彼女、有名だし。」
「有名?」
「遊んでるって事だよ。」
「リネア…?」
「だけど今回は違う。昨夜遊んでいたらかなり質の悪い奴らに目をつけられて、連れていかれそうになったところを妹だけは逃げきったらしい。ちょっと前に妹が帰ってきて僕のところに来たんだ…。」
「ルイ、セルゲイの所には?」
「今から行こうと思ってた。彼なら何か知っているかもしれない。」
「…私が行く。二人はこないで、ここにいて。」
「リネア?」
「…その方ががいいかもね。…だけど一人で大丈夫?」
「…何かあったらすぐに呼ぶから。」
「ルイ、リネア、お前たち…?」
僕は急いでセルゲイの部屋に向かった。
メアリー、どうか…無事でいて。




