第2話 宰相のリアルガチ弁当
毛利秀元は、南宮山の陣所で完全にフリーズしていた。
「……は? え? なにこれ」
秀元の目は、陣所の廊下を通り過ぎていく「異常な光景」に釘付けになっていた。
毛利家の一門であり、今回の作戦の要でもある吉川広家が、ガチガチに武装した総大将・輝元の直属部隊に囲まれ、縄をかけられて引きずられていく。
「大殿様! おやめくだされ! 私は毛利の未来を……ぶふっ!?」
「うるさい、静かにしろ」
広家が叫ぼうとした瞬間、輝元の懐刀(シークレット武力)たる近習に容赦なく腹を殴られ、そのまま地下室の方へと連行されていった。
「いやいやいや、おかしい。何が起きてるの!?」
秀元はパニックになった。
本来の歴史なら、広家が「徳川家康と内通しているから動かない」と言い出し、それに引きずられた秀元が「今、弁当を食べている(宰相の空弁当)」と言い訳して戦場をニート化させるはずだった。
しかし、弁当を食べるどころか、身内のトップがガチの謀反人扱いで排除されている。
そこへ、パタパタと軽い足音を立てて、総大将・毛利輝元がやってきた。
その目は、いつもの優しい叔父上のそれではない。
完全にすべての敵をチートで殲滅しようとする冷徹なネトゲ廃人の目だった。
「あ、秀元。ちょうどいいところに。今、吉川のアカウント(指揮権)凍結しといたから」
「あ、あか……? え、輝元様、広家が一体何をしたのですか!?」
秀元が震え声で尋ねると、輝元はスマホでも見るかのように軽い手つきで、広家の内通の証拠(密書)を突きつけてきた。
「これ。広家、狸と裏で繋がってたわ。明日、俺たちに不戦のサボタージュをさせて、毛利を実質敗北に追い込もうとしてた。完全にトロール(利敵行為)だよね。だからBAN(追放)した」
「う、裏切り……!? 広家が!?」
「そう。だから明日の作戦は全面変更ね。秀元、お前に毛利の本隊3万の先陣を任せる」
「は、はいぃぃっ!?」
秀元はひっくり返りそうになった。
いつもは優柔不断で「大坂城から出たくない〜」と言っていたはずの輝元が、信じられないほどの解像度で戦術を語り始めたのだ。
「いい? 明日の朝、開戦の狼煙が上がったら、お前は一歩も引かずに南宮山を駆け下りろ。ターゲットは目の前の浅野幸長。ここを初手で一気に一撃で粉砕する。その後、長宗我部盛親と長束正家を引き連れて、家康の本陣の『真後ろ』を突く」
「家康の……真後ろ!?」
「そう、背後からの完全な奇襲。正面からは石田三成たち、横からは松尾山の小早川秀秋、そして後ろからは俺たち毛利の大軍。家康を3方向から完全に挟み撃ちにして、退路に追い詰める。逃げ道はないよ」
輝元は秀元の肩をポン、と叩き、不敵に笑った。
「秀元、明日は本物の『美味い弁当』を食べさせてあげる。――徳川家康っていう、最高のご馳走をさ」
その圧倒的な覇気と、完璧すぎる勝利への計画書に、秀元の心の中の「戦国武将の血」が激しく沸騰した。
裏切り者の広家に流され、戦わずに終わるはずだった未来が、一瞬で「天下を獲る側」へとひっくり返ったのだ。
「……ハッ! この毛利秀元、明日は初手から全力で駆け下りまする! 浅野の首、この手で挙げてみせましょう!」
「よし、その意気。じゃあ、明日に備えてしっかり睡眠しときなよ」
輝元は満足そうに頷き、自陣へと戻っていった。残された秀元は、拳をぎゅっと握りしめる。
(広家、お前のセコい裏工作は失敗だ。これからは、輝元様の時代が始まる……!)
南宮山の夜空には、不気味なほど冷たく、そして熱い西軍の殺意が満ち満ちていた。




