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第1話 吉川広家を詰問する毛利輝元

慶長五年(1600年)九月十四日――関ヶ原の戦い、前夜。



南宮山なんぐうさん毛利秀元もうりひでもとの陣所。


その最奥にある一室は、凍りつくような静寂に包まれていた。


「……輝元様、これは一体どういうことでしょうか。なぜ、大坂城にいらっしゃるはずの総大将が、このような前線に……」


冷や汗をだらだらと流しながら平伏しているのは、毛利家の一門であり、東軍の徳川家康と秘密裏に内通している男――吉川広家きっかわひろいえである。 


広家の目の前に座っているのは、西軍総大将・毛利輝元。


歴史上では、大坂城から一歩も動かず、西軍敗北の遠因を作ったとされる凡将。


だが、今の輝元の魂は、数々のデスゲーム系ラノベや戦略シミュレーションをやり込んだ冷徹な現代人ゲーマーだった。


輝元は、手元にある数枚の紙切れを、広家の目の前にパサリと落とした。


それは、広家が徳川方の黒田長政くろだながまさに宛てて書いた、内通の密書だった。


「吉川広家。貴様、自分がどれだけ致命的不具合を戦場に持ち込もうとしてるか、分かっててやってる?」


輝元の口から出たのは、広家には理解できない奇妙な言葉だった。


「な… 何のことでございましょう。私はただ、毛利の家名を守るため、徳川殿と……」


「言い訳はいいよ。お前が家康から『毛利の本領を安堵する』って約束を取り付けて、その代わりに明日の決戦で毛利軍を動かさない『宰相の空弁当さいしょうのからべんとう』を計画してるのは全部知ってる」



輝元は冷たい目で広家を見下ろし、ため息をついた。


「ハッキリ言うけど、お前のやってることは戦略的に最悪の悪手、いわゆる『養分ようぶん』の動きだよ。家康がそんな口約束を守るわけないじゃん。西軍が負けたら、毛利は良くて大減封、最悪はお家取り潰しだ。ゲームの利用規約(規約)くらいちゃんと読みなよ」


「な、何をおっしゃる! 徳川殿はそんな不義理をされるお方では――」


「されるんだよ。だってあいつ、狸だもん」


輝元はすぱっと言葉を遮った。



「お前が『弁当を食べている』とか言ってここで道を塞いだら、毛利の精鋭3万が完全にニート化する。そんなコスパの悪いこと、この俺が許すと思う?」


輝元の放つ圧倒的なプレッシャーに、広家は完全に言葉を失った。 


いつもは優柔不断なはずの主君が、まるで未来のすべてを見通しているかのような、恐ろしい目つきをしていたからだ。


「……広家を捕縛しろ」


輝元が短く合図を出すと、部屋の襖が勢いよく開き、武装した輝元の直属部隊がなだれ込んできた。


「大殿!? なにをされるのですか! 私は毛利のために――!」


「うん、お前の言い分は分かったから、とりあえず明日の戦いが終わるまで大阪城の地下で大人しくしてて。毛利の指揮権は全部俺が没収するから」


抵抗する間もなく、吉川広家は引きずり出されていった。


残された部屋で、輝元は机の上に大きな地図を広げた。


そこには、関ヶ原の地形と、東西両軍の配置が詳細に描かれている。


「よし、邪魔なNPCノンプレイヤーキャラクターは排除した。吉川の軍勢もこれで自由に動かせる」


輝元は不敵に微笑み、南宮山のマップを見つめた。


「毛利秀元、安国寺恵瓊、長宗我部盛親、長束正家……南宮山にいる西軍は合計3万超。これを俺が直接不戦にさせず、ガチの殺意を持って家康の背後に突撃させる。家康公、明日あなたを待っているのは、ただの『挟み撃ち』じゃないよ。完全な初見殺しの無理ゲー(クソゲー)だ」 


総大将・毛利輝元、戦闘準備完了。


歴史が大きく歪み始める音が、静かに響いていた。

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