20話 新日本創世記:グローバル・コーポレーションの覇権
寛永7年(1630年)――関ヶ原の決戦から三十年後。大坂。
かつて淀殿や秀頼が暮らした大坂城の周辺は、今や木造の天守閣と、近代的な「煉瓦造りの高層ビル」が美しく融合した、世界最大の超近代的メガロポリスへと変貌を遂げていた。
前田重工(旧・加賀前田家)が開発した蒸気機関を搭載した「黒鉄の装甲列車」が、日本全国を結ぶ線路を凄まじい速度で駆け抜けていく。
港には、伊達・島津の海外事業部が世界中からかき集めてきた金銀財宝やシルク、そして最新の海外情報を積んだ巨大な蒸気帆船がひっきりなしに出入りしていた。
この三十年で、日本は「戦国時代」という名の非効率なデスゲームから、地球上で最も進んだ「超ハイテク・グローバル国家」へと完全なアプデ(アップデート)を完了していたのだ。
大坂本社の最高経営責任者(CEO)室。ガラス張りの窓から活気あふれる街並みを見下ろしていたのは、白髪交じりになりながらも、その瞳に冷徹なゲーマーの光を失っていない男――毛利輝元(78歳)であった。
「いやー、ついにイギリスの東インド会社の買収(M&A)も完了したよ。これで世界の流通シェアの八割は我が社が握ったことになるね」
輝元が、現代知識を基に職人たちに作らせた「万年筆」を回しながら笑うと、隣のデスクで膨大な計算書類をチェックしていた小早川秀秋(50歳)が、往年のエリートサラリーマンの爽やかな笑顔を向けた。
「お疲れ様です、毛利先輩。これで今期の決算も過去最高益ですね。あ、そういえば京都の『ねねグローバルアカデミー』から第一期生たちが戻ってきましたよ。全員、英語と経済学をマスターして、次の海外拠点の立ち上げにやる気満々です」
「素晴らしいね。身分に関係なく有能な人材をリクルートするシステム、マジで効率的だわ」
二人が新時代の経営戦略を語り合っていると、突然、部屋の重厚な扉がバシャァン! と勢いよく開け放たれた。
「チェストォォォォォーーーーッッ!!!!」
御年九十五歳。未だに衰えるどころか、筋骨隆々のまま大太刀を背負った「生涯現役会長」島津義弘が、車椅子(に最新の蒸気エンジンを搭載したハイテクマシン)を爆走させて乱入してきた。
その後ろには、すっかり海外事業部のベテラン部長となった加藤清正と福島正則が、苦笑いしながら続いている。
「おい、輝元どん! 秀秋どん! 欧州の『無敵艦隊』の残党どもが、我が社の新航路を妨害しようとしちょるが! 現場のモチベーションは最高潮じゃ、初手からフルパワーで市場独占しに行ってよかか!」
「島津の社長、もう無敵艦隊はとっくに壊滅してますよ(笑)。でも、新規開拓の予算ならいくらでも承認します。思う存分、世界の海を買い叩いてきてください」
「ガハハハ! よか返事じゃ! 福島、清正、行くぞ! 次のターゲットはローマじゃーーーッ!」
嵐のように去っていく島津軍の老人たち(世界最強のセキュリティ部門)。輝元と秀秋は顔を見合わせ、楽しそうに肩をすくめた。
同じ頃、関東の江戸城。
二代将軍(関東支社長)としての激務を三十年間全うし続けた結城秀康は、縁側で一人の男と冷やし甘酒を酌み交わしていた。
すっかり精悍な顔つきになり、世界屈指の有能事務官僚へと成長した弟・徳川秀忠が、誇らしげに報告する。
「そうか、秀忠。よくやったな。父上が残した古い幕藩体制にこだわっていたら、俺たちは今頃、殺し合って滅んでいたかもしれない。三人の転生者たちに振り回されはしたが……この白い新時代を徳川の血筋で支えられていること、俺は誇りに思うよ」
秀康が微笑むと、庭の向こうから
「おい、秀康、秀忠……」と、覇気のない老人の声が響いた。
駿府から引き取られ、大坂城の片隅で「無害な盆栽顧問」として100歳近い天寿を全うしようとしている、元・大狸こと徳川家康であった。
「ワシの……ワシの今月の盆栽予算、また天引きされておるのじゃが……。なんとかならんか……」
「ダメです、父上。法度ですから」
秀忠が冷たく突っぱねると、家康は「おのれ……新時代め……」と不貞腐れて盆栽のハサミを動かした。
その姿には、かつての陰険な野心など微塵もなく、どこか平和そのものであった。
夕暮れの大坂城。
天守閣のテラスに立った輝元、秀秋、そして義弘の三人は、黄金色に染まる巨大な港湾都市を見下ろしていた。
歴史が知る関ヶ原の戦いは、もうどこにもない。
裏切りも、引きこもりも、不戦のサボタージュもなく、現代の知識と最強のメンタルが、この国の運命を完全にハッキングした。
誰一人として無駄に死ぬことなく、全てのエネルギーが世界へと向けられた、奇跡の「ガチ勢たちの関ヶ原」。
「さあ、夜の定例ミーティングを始めようか」
輝元が不敵に微笑み、地球儀のヨーロッパを指差す。「次のタスクは、地球全体の完全買収だ」
秀秋が理詰めのデータを広げ、義弘がチェストと咆哮する。
歴史のバグから生まれた最強の三人による「新日本創世記」は、終わりなき栄光と圧倒的なホワイトな未来へ向かって、これからもどこまでも爆走し続けるのだった。




