6話 謎の白い少女
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あの夜の出来事は偶然だったのか、それとも必然だったのか――
少女と目が向き合った、まさにその刹那。
「……!」
心臓が一度、ドクンと大きく脈を打った。
間違いない。あの夜、路地裏で出会った白髪の少女だ。何気ない子供らしい服装をしているというのに、彼女の姿を見ただけで、不思議とあの日の出来事が鮮明に蘇る。
澪華という女。夜の異質な路地裏。人とは思えない気配。そして――『かみしろ』という言葉。
無意識のうちに足へ力が入り、一歩だけ後退る。
少女はそんな榮の様子を見つめたまま、小さく首を傾げていた。
「………あ」
そこで、彼女は驚いたように声を漏らして小さく微笑んだ。まるで知り合いと偶然再会したかのような笑顔だ。
しかし、その反応が榮には理解できない。
(……なんで笑ってる)
俺は警戒した、怖くないわけがない。今は何もしてこないが、澪華と同じく言葉に表せないようなおびただしい空気を放っている。それなのに少女は場に立ったまま、ただ悠然とこちらを見つめていた。
――墓地を吹き抜ける風が、少女の艷やかな髪を揺らす。
それと同時に、
「こんにちは、お兄さん」
「……?」
普通に挨拶。
一瞬、言葉を失ってしまった。目の前にいるのは、本当にあの夜の少女なのだろうか。
「あの夜のことを忘れたわけじゃない」
小さく呟くように言うと、少女は瞳孔をカッと開き、不思議そうな表情を浮かべる。
「……夜?」
まるで本当に分からないというような表情に、思わず榮は眉をひそめた。
「とぼけるつもりか。あの日、路地裏で会っただろ。君と……あの女の人に」
少しだけ思い出すように目を上へ向けた少女。
「あぁ、会ったね」
あまりにもあっさりとした返事で、榮は思わずまた言葉を失う。
(……なんなんだ、この子)
肌の感覚がなくなるほどの恐怖に襲われた、二日前。自分は『命の危険』というものをひたすらに感じていた。
だがこの少女の口ぶりはどうだ。まるで昨日のことなど他人事のように、俺とは正反対の気楽さで話している――意味がわからない。正気でない。
逆にもう、段々むかついてきたな……。
それと、追いかけたのは自分だとわかってる。興味本位でやってしまったことも反省してる。
にしても本当に悪いのは、脅すようなことをしてきたあちら側ではないのか?
今恐怖しているこの状況も前回の件も、言い返せば、全部この子とあの女のせい……。
そうなれば俺は悪くない。
でも――
「……怖く、ないのか」
考えている内に思わず不意に出た一言。そんな言動に、少女はきょとんとした顔で近づき、地面に俯く榮を下から覗き込んでくる。
「ん、なにが?」
「あれ、俺は……誰に怖がってるんだ……?」
――何が怖いのか、今や自分でも上手く説明できない。
恐怖の対象がこの少女なのか、澪華なのか。それとも、自分の知らなかった世界なのか。そのどれもが入り混じり、頭が混沌としていた。
「落ち着け……落ち着け………冷静に考えろ……」
俯く榮をしばらく観察しながら、少女は苦笑して困ったように笑う。
「ごめんね」
軽い一言は、墓地の静けさの中へ溶け込むように響いて、
「びっくりさせるつもりじゃなかったんだ。あのときは……ね」
「あ、あぁ」
――少女が、嘘をついているようにはあいにく見えない。
しかし、あの夜の異様すぎた光景が頭から離れず、「この子は絶対に嘘をついている」と思ってしまう自分がいる。
(だめだ……頭の整理がつかない)
だが、少女は榮の反応を気にすることなく、小さく空を見上げて言葉を続けた。
「今日は、いい天気だね」
「そ、そうだな……」
こんな状況で、天気の話をするのか。
本当に、何を考えてるんだ? こいつ。
目の前にいる少女は、やはり普通ではない。いやむしろ、普通なわけがない、といったほうが正解なのだろうか。
「でも、ここだとお話ししにくい」
そう告げて、少女は周囲に並ぶ墓石へと目を配った。
「みんな静かに眠ってるし、邪魔しちゃだめだよね」
「うん……」
榮も辺りを見渡す。
ま、まあ、確かに墓地で長々と話し込むのは縁起でもないし、あまり気が引けるな。それに関してはこの子の言うとおりだ。
少女は、墓地の外の道路を指差した。
「あっちに公園があるの。ベンチもあるし、そこでお話ししよ?」
近所の友達を遊びに誘うような口調。けれどすぐには返事をしない。
(……ついて行っていいのか?)
『あの夜』みたく、また巻き込まれるかもしれない――そんな不安が頭をよぎる。
しかし、ここで少女を振ってしまえば、二度と聞きたいことを聞けない可能性も……。
「あの夜のことで、少し気になることがある。だからお前に着いてく」
そう言うと、少女はなぜだか上機嫌な様子で「じゃあ行こっか!」と口にし、軽い足取りで墓地の出口へ歩き始めた。
少女の背中から、ルンルンとした気分が伝わってくる。
その姿だけ見れば至極可愛い。彼女から漂う、圧迫する感じの空気を除けばの話だが。
「……仕方ないか、もう」
たとえ少女が友好的であっても、警戒を解くことはできない。そんな中でも、榮は少女の後を追うように、一歩を踏み出したのであった。
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