5話 巡り合わせ
母の命日を迎えた榮。過去と向き合う中で、思いがけない再会が――
◇
チュン、チュン――。
窓の外から聞こえる鳥のさえずりが、静かな朝を知らせている。ゆっくりと瞼を開き、天井をぼんやりと見つめながら「はぁ……」と息を吐く榮であった。
「……朝か」
昨日は珍しく、熟睡することができたと思う。
あの白髪少女のこと、澪華という女のこと。そして、最後に耳へ残った『かみしろ』という言葉。
考えたところで答えは出ない――そう自分に言い聞かせ、昨日の夜は布団へ潜り込んだ。そのおかげなのか、今朝は頭が少しだけ軽い感じがする。
「よいしょっと」
布団から出て、軽くグッ―と背伸びをして一階に降りた。すると「おはよう、榮」と、キッチンから祖母が優しく声を掛けてくる。
「今日はよく眠れたみたいだね」
「うん。久しぶりに」
祖母は安心したように微笑んで食卓へ朝食を並べ始め、すでに食卓にいた祖父は新聞を読みながらお茶を飲んでいる。
「おはよう、じいちゃん」
「おう、おはよう」
朝の挨拶も済ませ、木の椅子へと腰を下ろす。
焼き魚に味噌汁、炊き立てのご飯。変わらない朝の食卓。
そんな何気ない時間が、榮にとっては何よりも大切なのだ。
淡々と朝食を食べていると、祖母がふと箸を止めて、
「今日は、お母さんの命日だね」
「………」
母さんの命日。できれば、その言葉を口に出してほしくなかったのだが。
「そうだね……先に行ってくるよ」
「分かったよ。私たちも後から行くからね」
――母さんはよく笑う人で、どんなに疲れて帰ってきても、俺の前ではいつも笑顔だった。
『榮は笑ってる顔が一番似合うね』
それが母さんの口癖。
しかし、そんな母さんが突然病に倒れ、そのまま帰らぬ人となった。
母さんが亡くなったのは、自分が十三歳の春。最初は風邪だと思っていた。だけど病状はあっという間に悪化し、病院で眠る時間ばかりが増えていく。
それっきり、母さんは二度と家へ帰ってくることはなかった。
心の準備など、できているはずもなかった。まさか死んでしまうなんて、思ってもいないことだったのだから。
なのに、その悲しみが癒える間もなく、父さんまで俺の前からいなくなったのだ。
――でも。
父さんは事故じゃない。誰かに殺されたと警察は言っていた。警察は犯人を懸命に探してはいたものの、結局、真相も分からないまま時間だけが過ぎていってしまったのである。
食事を終えた榮は、仏壇へしっかりと合掌してから家を出る。
墓地へ向かう道を歩く際、榮は何も考えないようにしていた。それは考え始めれば、思い出したくないことまで思い出してしまうからだ。
◇
墓地へ到着し、母の眠る墓の前へ立つ。サッと花を供え、線香へ火を灯す。
「………」
――思えば、もう三年か。
あの日から、俺の日常は変わった。両親が亡くなって、高校へ進学することも考えられなくなり、今は祖父母の家で暮らしながら、バイトなどをしている。それでも、祖父母は一度も俺を責め立てることなどは一切しなかった。
『榮が元気でいてくれれば、それでいい』
二人のそんな言葉に、何度救われたんだろうな。
「……母さん。俺はちゃんとやってるよ。じいちゃんとばあちゃんにも、本当に感謝してる。だから……安心して」
もう一度、ゆっくりと頭を下げる。
「……また来るよ」
立ち上がってホッと息を吐く。墓石へ深く一礼し、その場を後にした。
墓地の通路を歩き始めたその時――ふと視界の先に小さな人影が映り、思わず足が止まった。
「ん……?」
五メートル程離れた場所にある墓石の前。一人の少女が無言に手合わせしている。横風が吹き、その子の雪のように白い髪がふわっと揺れた。
(はっ………!)
見覚えがある。忘れるはずがない。一昨日の路地裏で出会った白髪の少女だ。
しかし、あの夜とは違う。
白い半袖Tシャツに、黒色のスカート。小さなショルダーバッグを肩から掛けた、普遍的で子供らしい服装。その姿だけを見れば、一見ただの女の子にしか見えない。
「なんで、あの子がここに――」
唐突の出会いに、胸の鼓動が段々と加速していく――。
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