番外編 至高のカレーライスをつくろう 前編
お読みいただきありがとうございます!
本編の内容を読みやすくしています。なので更新が遅くなるかも。
まずは自己紹介させてほしい。
俺の名前は青石 蒼真。普通の、どこにでもいるような高校生。
特技は料理、趣味も料理と……いや、悲しいなぁ。
何故かって?
それは男子高校生の趣味が料理というのは、現代社会において少々『家庭的すぎてモテない』というバグを抱えている気がしなくもないから。
あとたぶん、それがモテない理由に直結しているんだと思う……。(勉強が出来て顔が良くても、性格や趣味がアレってよく言われる)
だが、そんな周囲からの評価などはどうでもいい。なぜなら今日、俺の目の前には、子どもたちの欲望を具現化したような『完璧な戦場』が広がっているのだ。
――そう、今日のメニューはカレーライス。
◇
休日、親が仕事で留守にしている我が家のキッチンで、俺は静かに闘志を燃やしていた。
一口にカレーと言っても、市販のルーをただ溶かすだけの安易な道を選ぶつもりは毛頭ない。かと言って、何十種もあるスパイスを調合する、引き返せない暗黒に足を踏み入れる気もない。
目指すは『市販のルーを極限まで美味しくさせる、究極の家庭的カレー』。
「まずはお前だ、玉ねぎ」
まな板の上で、玉ねぎを小気味よい音を立てながらくし切りにする。
くし切りにしたほうが煮たときに煮崩れしずらく、玉ねぎの存在感やしっかりとした(シャキシャキ)食感を楽しめる。人によってはみじん切りだの薄切りだの言っているが……食べやすければいいのだ。
続いて人参とじゃがいもを一口大の大きさに切る。特に人参はしっかり洗えば皮ごといける。十分に煮込めば皮なんて気にならなくなるし、なによりそのままの方が栄養も高い。
でもじゃがいもの緑色に変色した部分があるやつはダメだ。基本だけど――
野菜を切り終え、蒼真は肉の工程へと進む。
使うのは豚肉の薄切り。豚肉は火も通りやすく、時短になるから今回選んだ。
煮たときにとろけ出る、程よい濃厚な脂。カレーのマイルドさを引き立てる味。あとリーズナブル。
きっと豚肉は、今回の『目的』に最も貢献してくれると思う。
早速、キッチンバサミで肉を手頃な大きさにカットしていく。
豚肉問わず肉全般はベタつくし、筋があるからとにかく包丁だと切りづらい。
(煮込むと少し小さくなるから、大きめに切るか)
肉の工程が終わり、続けて具材を炒める工程に入る。
サラダ油を引いた鍋の中に、玉ねぎ⇒じゃがいも⇒人参⇒豚肉の順で投入。
具材に大体でいいので、火が通ったら水を加える。アクを丁寧にすくい取りながら弱火でじっくりと煮込んでいく――。
「よしよし、いい感じだ」
頃合いを見て火を止め、市販のルーを鍋に入れる。時々鍋を底からよくかき混ぜて、焦げないように数分煮込む。
以前、かき混ぜないで作ったときは大失敗したからな。見た目が良くても匂いが焦げ臭くて、食べる気にもならなかった。
(結局、試しに一口食べたら腹下した記憶が……)
そんな事を考えていると、もう『カレー』は完成しているのであった。
「よし、完璧だ。えっと……福神漬は――」
その時、ピンポーンと家の呼び鈴を鳴らす音が聞こえた。
「ん、誰だ?」
玄関の扉を開けると、そこには 神代 榮 が何気ない表情で立っていた。
「あぁ。なんだ」
黒髪で小さい癖っ毛がところどころにあるマッシュ。丸目で二重。身長は百六十後半。
なんとなく犬系男子とやらを彷彿とさせる見た目だが、実際はひん曲がって違う。
こいつはとにかく、どんな事に対しても素直になれない。たまに何考えてんのかわかんない表情になる。中学校で同じ生徒会をしてたときも、自分から意見を出すことなど一切していなかった。
つまり、引っ込み思案なのだ。
――でも、本当は優しいんだよなぁ。
「どうした榮。何か用か?」
「あ、いえ、借りていた本を返しに来たんですが……」
「何これ……なんか美味しそうな匂いがする」
突然、榮の話を遮る甘くて幼い声が遮る。榮の背後から、白い髪の少女がひょこんと顔を覗かせた。
「蒼真、こんにちは。……これやっぱりカレーの匂い?」
「そうだけど、どうした」
「いや、なんかカレーだなって」
いかにもカレーが食べたい、ってことが丸分かりなこの少女の名は 五葉。
雪のように白く、腰まで伸びた髪、淡い黄色の大きな目。誰が見ても可愛いと思えるような可憐な顔立ち。身長は百四十センチ真ん中あたり。
そして、榮の家に居候している訳あり小学生。年齢の割に落ち着いて、俺達のことも対等に名前で呼ぶしっかり者だ。
相変わらず、小さな鼻をヒクヒクさせて、扉の奥の匂いを嗅ぐ五葉の姿はとても可愛らしい。
「榮に五葉か。ちょうどカレーが出来たとこだけど」
「すみません、返すだけなのですぐ帰るつもり……」
そういうものの、榮の視線は蒼真を向いておらず、扉の奥に釘付けである。
本当はカレー食べたいんだろ。
「榮? あからさま態度に出てるよ? 本当は食べたいんでしょ?」
と、俺の憶測をピシャリと言い当てた五葉。
「え、いやぁ……そんなことないけど」
「でもお腹の音も聞こえてきたし、なにより朝ごはん食べてないんだよね?」
「う、うん」
なるほど。どうりでカレーが食べたいってわけね。ならいっそ、食っていってもらうか。
「別に食べていってもいいぞ。カレーも一人で食べられる量じゃないし」
「え、いいの? じゃあお言葉に甘えて」
言ったそばから、リビングに向かってスッと小走りする五葉。
やっばガキだな。
「蒼真さん、本当にいいんですか?」
「ああ、これといって断る理由もないしな」
「じゃ、じゃあ、遠慮せずにいただきます」
こうして、今にもカレーを口にしたいであろう榮は、足早にリビングに歩いていった。
「よし……。でもあと一人くらい誘おうかな」
五葉。榮。俺でカレーを食べてもいいんだが、この三人はそんなに食べるといったメンツじゃないんだよなぁ。
誰か、今から家に来れそうな人はいないかな。
――あ、この人でいいか。誘っちゃおっと。




