64話 「神」には毒耐性があるのか
みたが気付いた、体の「異変」とは――
8月27日 1話〜5話を修正済み
トドメの一撃を食らわせてやろう、と一歩踏み出そうとしたとき――
「むっ……」
右足が、みたの意志を拒むように激しくふらつく。視界は急激に歪み、景色の輪郭がグニャグニャに変形し始める。また、心臓が不規則な動き方をすると同時に、冷や汗が全身から噴き出すのを感じた。
「ゲホッ……ゴホッ……」
付随するように血反吐を少し吐いた時、流石にまずいと思って自分の手のひらを覗く。
――そこにあったのは、濃い赤紫に変色した皮膚。網状に皮斑が広がっていて、肉を腐らせ、神経を麻痺させる禍々しい色。
これほどの劇物が、いつの間に体内へ侵入したというのか。
思い当たる節があるとすれば、狐火で三本のナイフを弾いた時。弾き飛ばしたはずのナイフに、最初から目に見えぬ呪毒でも仕込まれていれば――
いや、ナイフはすべて弾いたのだから、直接毒を入れることなどできないはず。
――なら、どうして……。
そこまで思考を巡らせていた時、自身の周囲で今だ燃え続けていた狐火の「熱」
が不自然に揺らいだ。
「……まさか……空気か……?」
火は熱を生む。熱は空気を震わせ、上へと押し上げる。
弾いた瞬間、熱にさらわれた毒は火花と共に一瞬で蒸発し、目に見えぬ煙となって周囲に満ちていた。
ということは、呼吸した際にそれを吸い込むことによって、体に毒が充満し、今の状態になるというわけか。
「防御のため、火の火力を上げたというのに……毒の気化を早めた……ことごとく利用されたか……」
『神』である故に強者としての油断が招いた、致命的なミス。
毒の回る速度は尋常ではなく、アスピラを睨みつけるみたの視界は、すでに真っ赤に染まりつつあった――。
◇◇
みたが『毒』の異変に気付いた時、榮は家屋の物陰に身を潜めていた。
「みたさん、本当に大丈夫なのか……」
みたは「神」だし、負けるような要素が見当たらない。が、決してアスピラも侮ってはいけない。
アスピラはこれまで、澪華や蒼真と相対した時「毒の異能」を使っていた。(五葉に対しては使わなかったけど……)
もし今の二人の戦いで、アスピラがその毒を使っていようものなら、尚更まずい。
それは何故か。
今までのアスピラを見た限りだと、彼女はナイフを基本とした戦い方を好んでいる。だが、さっきはナイフではなく小刀で仕掛けてきた。
しかしそれは、みたと対立することが前提であったからなのだろう。アスピラがみたを十分に警戒しているとすれば、ナイフのような生半可な武器を使うと思わないし。
そこでだ。今回もアスピラが毒を使うとなれば?
みたはアスピラと直接的に戦火を交えるは始めてだと思う。当然、戦法など把握していない。
――要するに毒への対抗策がないということ。
アスピラについて話し合いをした時、澪華が『みたには状態異常(毒)への耐性があるのか』という質問を挙げた。突拍子もない質問だったので、俺は一時戸惑っていたが、今その発言を聞いてもそんなことはないだろう。
まあ自分についてはさておき、澪華の言及についてみたは、
『ない。神じゃからとて毒に耐性があるわけじゃないし、猛毒なら死ぬ。麻痺や火傷でも同じことじゃ。まあ、わしは火傷に対してだけは平気じゃがな……』
と口にしていた。
前言撤回になってしまうが、俺の脳裏に浮かんだ、神だから負ける要素が見当たらないというのは、改めると無かったことになる……か。
「そういえば……」
――ふと思い出した。父と剣道の稽古をしていた時、父がよく口にしていた言葉。
『強者というのは無意識に油断をする。例えそうしないと意識していてもだ』
榮は物陰の横から、二人のいる場所にそれとなく視線を送った。
「油断なんてしてないよな……」
いや、こんなこと俺が言える立場じゃないか……烏滸がましい。




