61話 狐神と毒蜂
五葉に続いて、澪華も異能を見せるかと思いきや――
8月21日 48,49話を読みやすく修正しました。
「なるほどのぅ……」
みたの視線は、いまだ五葉から離れない。その大きく開いた瞳からは、深い感心とほんの少しの警戒の色が混じっている。
「火に風、そして身体強化……。単一しか能力を所持していないのが基本ではあるが、お前さんは例外――極めて稀じゃな」
五葉は、さきほどまで『火』を灯していた手のひらを軽く見下ろす。
「うん。でも、使ってて特に変な感じとか、違和感もしないよ?」
彼女の呼吸は一息も乱れていない。故に、どこかに痛みを感じたり、体力に異常に消耗している様子も見当たらないのだ。
(少なくとも――蒼真さんや澪華さんのように、異能を使うこと事態が命を削るような大負担になるわけじゃなさそう……)
いや……それならそれでいいんだ。
「ふむ。見る限り、蒼真のような『体力を削る異能』ではない。それは一安心というところか」
「じゃあ……もしかして私の力って、結構便利で凄い感じ?」
と、どこか期待に胸を膨らませるように、五葉が小首をかしげて尋ねる。
「うむ、そうじゃな。手札が多いという意味では、これ以上にないほど便利であろう」
みたは少しだけ口元を緩め、五葉の無邪気な反応を優しく見守る――。 だが、すぐにその瞳に真剣な光を宿らせ、
「じゃが、五葉よ。便利であることと、危険でないことは全く別の話じゃ」
静かだが重みのあるその言葉に、五葉はハッとしたように少しだけ顔を引き締める。
――五葉の異能を一通り確認し終えたあと、みたはひそかに、澪華へと視線を向けた。
「では、次はお前さん、澪華じゃな」
「……」
水を向けられた瞬間、澪華の端正な表情が僅かに、だが明確に曇った。彼女は小さく息を吸うと、淡々と、しかし拒絶の色を隠そうともせずに告げる。
「私は……できま――できれば、遠慮させていただきたいです」
「え、澪華?」
澪華の意外な言葉に、少し驚いた蒼真がふと言う。
「大丈夫だよ澪華。みた様は治癒の能力があるから、代償のことは心配しなくていいと思うけど」
「澪華……」
「……今は、見せたくないです。すみません」
「……そうか。ならば、無理に見せる必要はない。お主がそう決断したなら、それが正解じゃ」
そして、自分の配慮が足りなかったことを悔やむように、みたはしょうし申し訳なさそうに眉を下げて破顔した。
「わしも少々、焦って手荒な形で事を進めてしまった。嫌な思いをさせてすまなかった。澪華、それに蒼真と五葉も」
「あ、いや、別に俺はいいけど……」
「うん。私も別に、ね」
まさか謝られるとは思っていなかったのか、澪華は目を見張ったあと、小さく首を横に振る。
「いえ……私も、あなたのご期待に添えず、申し訳ございません……」
みたの『神域』から、境内に戻ってきた五人――。
話も一段落したところで、みたは優しく目を細め、四人へ帰るよう促した。
「さて、色々と話し込んですまなかったの。今日はもう遅くなる前に戻るがよい」
促されて、まずは俺がすっと立ち上がった。
それに続くようにして、五葉、蒼真、そして澪華もそれぞれ静かに神域を後にする。
鳥居をくぐり、彼らの気配が完全に消え去っていく。
◇
四人を見送ったみたは、休息を取るため再び神域に戻ろうとする。
「茶でも煎じて、休憩するとしようかの」
と、その時。
「……?」
おもむろに鳥居のほうへと視線を向けた。
(なにか不自然……)
彼らが去る直前までとは明らかに――異質。まるで全く別の空間に変貌してしまったかのように、どろりと重く淀んでいる境内。
吹いていた風もピタリと止まって、ザワザワと騒がしかった木々の葉が、まるですべての息の根を止められたかのように、不自然なほど静まり返る。
そして、じっとりと暗い境内の奥から、何者かの不気味な気配が、じわじわと吸い付くに漂ってくる。
これは、人のものなのか――。
「……誰じゃ!」
神聖なる鳥居の向こうから、一人の綺麗な金髪の女が、陽だまりに溶け込むようにして悠々と姿を現した。
日に照らされた、美しいが狂気さも感じるその顔には、どこか愉しげな薄い笑みが浮かんでいる――。
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