52話 それぞれの目的――『動き出し』
5人は、各自持っている情報を洗いざらいし、互いに共有し合う。
彼らはこの先、どのような目的を持って動き出すのか――
――みたはしばらく、全員の顔をじっと眺めていた。
「……よし」
一人ずつにまっすぐな視線を向け、満足げに頷く。
「とりあえず、わしの話だけでは分からぬことが多すぎる。蒼真以外のこと、まだほとんど知らぬからの」
みたの言葉をきっかけに、それぞれが自身のこれまでの歩みや、宿している『異能』について詳しく話し始める。
澪華がその目に宿る異能――『カルサイト眼』の秘密を語り。
五葉が、多様な属性を使いこなす規格外の異能について説明する。
蒼真もまた、自身が扱える力について、改めておさらいするようにみたの前で話し添えた。
みたは、時折「ほう」と感心したように頷いたり、鋭い質問を挟んできたりする。
そして最後に、みたは俺――榮へ視線を向けて、
「では、お前さんは?」
「俺は……」
榮は、少し言葉に詰まった。 向けられた静かな視線を受け止めながら、思考を巡らせる。
自分はよく、周囲の人から言われていた。『あなたは人やものの本質を見抜くことが、誰よりも一枚上手だね』と。
さらに、この間みたから告げられた、あの言葉。
『お前さんはわしの知るかみしろによく似ている』
これらが、みんなの言う『異能』というものに関係しているのではないか。 みたに言われたその時から、そう薄々と感じていた。感じてはいたのだが――。
「たぶん、異能ってものは持ってない」
「……たぶん?」
みたが、俺の言葉の端を捉えるようにオウム返しにする。
「いや、正確には……自分は何も使えない」
そう、俺は使えない。異能なんてものは持ってない。
俯きかける俺の目を、みたはじっと見つめてきた。
まるで、俺の心の奥底まで全て見透かそうとするかのような、鋭い眼差しで。
「じゃが、お前さんの目は普通とは少し違う」
「え?」
予想外の言葉に、榮は思わず声を漏らした。
「異能を持っておらぬのは間違いないが――」
「『見えているもの』が他の者とは違うようじゃ。……わしは、それを『固有特性』と呼ぶことにしよう」
榮は驚きに目を瞬かせる。
「固有特性……」
「異能とは別物じゃ。能力として何かを生み出したり、現象を起こしたりできるわけではない」
「ただお前さんの場合は、他の者よりも『異能』や『異常なもの』を捉えやすいのかもしれぬな」
それが、自分だけの特性。 そう言われると、これまでの人生で感じていた違和感の正体が分かった気がして、俺の胸に妙な納得感が落ちていくような――。
「まあ……なるほど。つまり、ここにいる者のうち、異能を持っておるのは蒼真、五葉、澪華」
「わしは……まあ、今は置いておく」
みたは何気なくそう付け足すが、俺たちも「ん? あぁ、そうか」くらいの軽い気持ちで、その言葉を特に気に留めず、次の話題へと意識を向ける。
――そして、話し合いの中で俺たちが今後追うべき標的も、次第に整理されていく。
「まず、俺はアスピラについて調べたい」
蒼真は全員の顔を見据え、最初に口を開いた。
「今日のこともそうだけど、あの女にはまだ何かある気がするんだ。このまま放っておいていい存在じゃない」
蒼真の言葉に、みたは「よかろう」と短く、賛同の意を示す。
続いて、澪華が静かに手を挙げる。
「アスピラの件とは関係ないですが……私は、『かみしろ』について調べたいです」
「私も……! ずっと追ってきた『かみしろ』が何なのか、もっとちゃんと知りたいから」
その言葉を待っていたと言わんばかりに、五葉も勢いよく頷く。
「かみしろ……そしてアスピラ。どちらも、わしも気になるところじゃ」
みたはそう言って、どこか遠くを見るような目で呟いた。
みたは俺たちの意見をまとめると、満足そうに頷き、
「ならば、今後はその二つを中心に動くとしよう。アスピラのこと、かみしろのこと。分かったことがあれば、互いに共有する。もちろん、わしもその2つに協力していくぞ」
それぞれの顔に、これから始まる戦いへの決意が宿る。
みんな、強いな。自分にできることが分かっている。
……だけど、俺は。 俺だけは、どうしても前向きな表情を作れずにいた。
なにせ、俺には異能がない。みんなみたいな特別な力は何一つ使えない。
今日の戦いだって、ただ守られるだけの足手まといだった。 もし、またあんなバケモノみたいな奴に1人で巻き込まれたら? 考えたくもないが……次は絶対に、死ぬ。
そしてそれは、ここにいる誰も否定できない事実だし。
「――そして、お前さんじゃ」
急に名前を呼ばれ、俺はハッとして顔を上げたとき、みたが、じっと俺を見つめている。
「俺……?」
「うむ。お前さんを1人にしておくのは危険じゃ。今日のようなことが、また起きぬとも限らぬしな」
「……」
「じゃから、仕事や学校がある日以外は、わしらと行動を共にするとよい。別に強制というわけではないが……異能を持たぬからこそ、1人で動くよりも安全じゃろ?」
榮はみたの顔をじっと見つめながら、その言葉を頭の中で咀嚼した。
(確かに、みたや五葉たちと行動したほうが身の安全も守れる。1人でいる時に誰かに襲われる心配も、格段に少なくなるはずだ。……よし)
「……分かった。しばらくみんなと一緒にいるよ」
――こうして俺たち5人は、それぞれの目的を胸に、仕事や学校以外の時間はたまに、共に行動することになった。
アスピラの正体。
かみしろの謎。
そして、俺自身の目に宿っているという、固有特性の秘密。
――まだ、何一つ答えは出ていない。
これから先、どんな危険や人が待ち受けているかも分からない。
それでも、俺たちの心に宿った灯火は、もう消えそうになかった。
ただ、この夜を境に。 俺たちが追い求めるものは、確かに、はっきりと形を持ち始めていたのだ――。
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