50話 少し度肝を抜かれる会話
50話をお読みいただきありがとうございます。
それぞれ異能について知る榮。彼らはどのような異能を持ち合わせているのか――
「さて……次は蒼真と五葉について話しますか」
澪華が、場の空気をスパッと切り替えるように、そう切り出した。
澪華さんの異能は、あらゆるものを一瞬で破壊できるが、その分の代償がある――『カルサイト眼』
では、他の二人はどんな異能を所持しているのか――
澪華は一度歩みを止め、榮の方を少しだけ振り返りながら話し始める。
「五葉は、
・火
・水
・電気
・身体能力強化
など、それぞれを巧みにコントロールできるというものですね」
(――火、水、電気……それに身体能力強化だって……!?)
初めて五葉に出会ったあの日の光景が、激流のように脳裏に押し寄せる。
あの時、周りの空気をピリピリと圧迫していた、恐ろしいほどの雰囲気。
普通の人間からは絶対に感じられない、あの異様な気配。 そして――鮮やかな白髪と、夜闇に妖しく光る、淡い黄色の瞳。
さらに、公園で男を軽々と吹き飛ばしたときの風のようなもの。
これらすべての記憶を今、改めて脳内で噛み砕く。
(普通ではないことくらいは……薄々勘付いていたけど……)
やっぱり、五葉という存在は、どこか他の誰とも決定的に異なっている。
という、そんな確信を榮は内心抱いていた。
思考を巡らせている榮を置いて、澪華は続けて言葉を紡ぐ。
「そして、蒼真についてですが――彼は自分自身の『体力』を、『波動』に変換して放つ能力だと……本人は言っていました」
「……体力を、波動に?」
「はい。ただ、私は彼の異能を直接目で見たことがないので、実際にどんなものなのか、はたまたどんな現象が起きるのかまでは分からないのですが……」
――蒼真さんの異能も、これで分かった。でも、彼にそんな超常の力があるなんて、今日この時までまったく気付かなかったけれど。
「……というふうに、ここまで私含め三人の能力について説明しました。他に聞きたいことがあればどうぞ」
「あ、いえ……もう大丈夫です。ありがとうございました」
そこで、澪華との少し度肝を抜かれた会話は幕を閉じ、再び伏見稲荷への歩みへと変えていった――。
◇
京都の夜もすっかり黒に染まり、伏見稲荷へ着いた頃は、もう七時をとっくに過ぎていた。
「遅かったね」
着いて目の前にいたのは、夜の夜風に白髪を波打って揺らしている五葉の姿。
「ああ、ごめんな。警察への説明に思ったより時間がかかってさ。それと異能のことについて、澪華さんと色々話してきた」
「……そっか」
五葉は不思議と手短に会話を切る。
普通は「どんなことを話したの?」とか聞くと思うのだが――ますます疑問が浮かぶ。
(まあ、今はいいや……)
「こっち」
五葉に案内されながら神社の奥へと進んで行く。
一度歩いた道のはずなのに、不思議と空気が違って感じられた。
――前を歩いていた五葉が、ピタッと足を止める。
「着いたよ」
その視線の先にいたのは、薄暗い境内の、石段の脇へ腰を下ろしている蒼真。
彼の右脚には、応急処置の包帯が何重にも巻かれ、傷口を固定されている。顔色はまだ優れないものの、こちらを見据えるその意識だけは、はっきりとしていた。
「蒼真さん……!」
榮のその声に気付いた蒼真はこちらを向く。
「榮か、心配かけたな……」
「もう怪我は平気なんですか?」
「まあ走るのは少し厳しいけど、命に関わる傷じゃない」
「はぁ……よかったぁ……」
榮がホッとして顔を横に向けると――みたが、蒼真の右脚の傷へ向けて手をかざし、静かに目を閉じている。
「……みた様」
「む、すまんがもう少し静かにしておれ。傷を癒やしておる最中じゃ」
――それからしばらくして、みたが静かに手を落とす。同時に、蒼真の脚元を包んでいた『柔らかい光』が消えていく。
「これでよい。どうじゃ蒼真、少しは楽になれたかのう」
みたの言葉を聞いた蒼真は、恐る恐る右脚を動かしてみる。
が、先ほどまで走ることすら困難だった痛みはほとんど消え、足に力も入る。
「ありがとうございます、みた様」
「……礼を言うにはまだ早いぞ。お前さんの傷そのものは癒した。じゃがお前さんの脚には別のものも残っておったぞ」
「別のもの……?」
「うむ。――それは『毒』じゃ」
みたは、蒼真の脚元を小さく指差す。
「ナイフが刺さった傷口から、ごく微量の毒が入り込んでおった。量はごくわずかじゃが、そのまま放置しておれば、時間とともに全身へ回っておったじゃろう」
自分の右脚へと、蒼真はそっと視線を落とした。
あの一投には、ただ傷を負わせる以上の意味があったのだ。
「幸い、気付くのが早かった。肉体の傷と一緒に、毒もすべて取り除いておる。今は特に心配せんでもいい」
その言葉を聞き、蒼真はようやく憑き物が落ちたように安堵の息をつく。
――アスピラが残していった傷跡は、蒼真の脚だけではない。五人それぞれの胸にも、強い緊張といくつかの疑問が重く残っていた。
「さて……蒼真の傷も癒えたことじゃ。いつまでも考え込んでおっても始まらぬ」
いつもの、優しい笑顔のみたに戻る。
「早速、話を整理するとしよう」
澪華も暗い雰囲気を捨てて、真剣に話に乗り出す。
「そうですね。今日だけでも、分かったことが多すぎます」
「分かったことより、分からないことのほうが多い気もするけどね」
五葉も先程まで下を向いていたが、今は綺麗な白髪の髪を揺らし、淡い黄色の目を、見開きながら話す姿があった。
蒼真は何気ない表情をしているが、病院で話したときと同じく、爽やかな表情でいる。
「確かに、五葉の言う通りじゃの。じゃからこそ、一つずつ確かめていく」
「まず今日起きたこと。そして、お前さんらが知っていること。そこから順を追って、整理していこうではないか」




