48話 嵐の去就
48話をお読みいただきありがとうございます!今回の話から、2章に入ります。
アスピラによる突然の奇襲は幕を閉じ、みた、蒼真、五葉の三人は榮たちと再集合するため――
――数分後。
五葉たちが、榮と澪華が避難していた場所へたどり着くと、真っ先に榮が駆け寄ってきた。
「蒼真さん……!」
少し遅れて追いついた澪華も、蒼真の右脚を見た瞬間、その痛々しさに表情を曇らせる。
「その怪我……まさかアスピラに……」
「安心せい。ひとまず命に別状はない」
その言葉を聞いて、二人は安堵の息を漏らした――。
それから、ひとまず座れる安全な場所に、みたは蒼真の体をゆっくりと下ろす。
「アスピラは……あいつはその後どうなったんですか?」
「去っていった」
「じゃが、完全に諦めた様子はなかった。一時的と言うべきか……今日のところは退いだだけじゃ」
(あの女が何者なのかを、完全に把握したわけではないが……雰囲気、目、そして言葉使い。先程ので、少し見覚えがあったようなことを思い出せた気がするわい)
澪華は蒼真の脚の傷を気遣いつつ、これからの針路を尋ねた。
「これからどうするのですか」
「む……。一度、伏見稲荷へ戻る。まずは蒼真の手当が最優先じゃ。
なにせ、肉体を切り裂いたナイフの傷口に、自身の『異能』を隠して忍ばせておった――などという卑劣な真似、のちのち気付いてからでは手遅れじゃからのぅ」
「手当てをした後、今回の事をすべて整理する」
もちろん誰も異論はない。が、アスピラの無差別で理不尽な殺人により、命を奪われた人たちのこと。彼らの遺体のことや、警察への通報も、一刻を争う最優先事項のはずではないのか。
と、榮が考えていたことを見抜いたかのように、
「……それと、先程アスピラに殺された者の事を、警察に報告しておくれ。報告し終えたら、わしに必ず伝えろ」
みたが、どこか憂いを帯びた顔でそう告げ、
「はい、わかりました。……でも、必ず伝えろって、どうい――」
「黙れ」
「……え」
突然のみたの、地を這うような冷たい一言が、榮の言葉を遮った。
その場にいた全員の身体が、驚きで硬直する。
今のみたの様子は、怒っているようには見えない。なのに、反論を一切許さない圧倒的な『神の威圧』が、そこにはあった。
「あ……すまぬ。少々、気持ちがその……おかしくなっておったようじゃ。今の無礼な言葉は忘れておくれ」
そう言って、みたは首を振る。その顔と声音には、いつもの慈愛に満ちた優しい表情が戻っていた。
(みた様……?)
「……まあ皆、一旦落ち着こう」
蒼真は少し困惑しながらも、 パン、と軽く手を叩いて場を仕切り、すぐに切り替えて次の話に移る。
「今回の件はあまりに急なことだったし、人が殺された現場を見て、皆の脳が混乱していると思う。でも、このまま感情的になってたら、もちろん話は進まないし、建設的な議論もできない。違うかい?」
さすが生徒会長だったと言うべきか――場の空気の切り替えが迅速である。
そんな切り替えの早さに、榮は内心で舌を巻いた。
「……そうじゃの。本当に、蒼真の言う通りじゃな」
澪華も即座に、次の行動へと動き出す。
「それでは、すぐに行動に移しましょう。警察への被害者の報告は、私と神代君が引き受けるので、そちらは先に伏見稲荷に戻ってもらって大丈夫です」
「あぁ、そっちの処理はまかせたぞ」
こうして、五人は二手に分かれることとなった。
榮と澪華は、犠牲者の身元と事件の概要を伝えるべく警察署へ。
みた、蒼真、五葉の三人は、少しでも早く蒼真の刺し傷を癒すため、夜の冷たい空気に包まれていく京都の町を歩きながら、伏見稲荷へと帰還する。
◇
――住宅街がぽつぽつと並ぶ静かな夜、榮と澪華は警察署へ続く歩道を、並んで歩いている。
「……今日は、本当に色々なことがありましたね」
「そうですね。まだ正直、頭の中が整理できていませんが……」
「――」
会話が続かない……なにせ、会話を広げるだけの心の余裕が、お互いに残っていないのだ。
あのアスピラという狂気。そして目の前で失われた命。そんな地獄を味わった直後なのだから、無口になるのも無理はない。
――そう、自分を納得させようとした瞬間。
「ですが、今回の襲撃で、一つだけ分かったことがあります」
「……」
「それは、まだ私達は弱いということです」
榮は言い返すことができない。
事実、自分はなにもできていない。蒼真さんは命を刈り取られるかもしれない状況で、五葉を守ろうとした。五葉も、自分が一番狙われているのにも関わらず、アスピラを足止め、みたは仕切り役として、皆をまとめ上げ助けた。
――自分は誰かを守るどころか、守られる側にいる。
「私も、何か助けれることをしたわけではないので、それを言える立場ではないと思いますが……ただ、率直に感じたことです」
榮は自分の不甲斐なさを実感して、思うように言葉が出せずにいた――。
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