46話 「迎えに来たぞ……」
46話をお読みいただき、ありがとうございます!
逃げ切ったはずだと思っていたが、先を読まれたかのように、アスピラに追い詰められてしまった蒼真達は――
左右の手には、それぞれ一本ずつナイフ。
夕日に照らされた鋭利な刃が、鈍く、不気味な光を放っている。
「ちゃんと聞こえてたよ。……もう使えないんだね、さっきのやつ」
底しれない黒い瞳が二人をゆっくりと見渡す。その視線には、獲物を追い詰めた捕食者の余裕だけが宿っていた。
蒼真は思わず五葉を庇うように一歩前へ出が、アスピラはそれを見てニヤリと唇を歪め、
「もう、逃げ場はないよ」
二本のナイフを手にしたまま、彼女は一歩ずつ二人へ近づく。
抱え上げていた五葉の身体を、静かに地面へと下ろし、蒼真は真剣に、持ってきていた鉄パイプを構え直す。
――腕は重く、呼吸も乱れている。先ほど放った一撃の反動、それが全身にのしかかっていた。
(……クソッ、もうここまでなのか……)
しかし、そこで蒼真はこう思いつく。
(やつの狙いは、本当は五葉なのだろう……しかし、状況によって狙いが変わったいたことも見受けられる。もしそうだとしたら、わざわざ二人で逃げる必要などない……)
「……悪いな、五葉」
双刃から一瞬たりとも目を離さないまま、低い声で隣の少女に告げる。
「まだ……走れるか」
「……全力は無理。でも、あいつから逃げるくらいなら」
「わかった」
(わずかな希望だが、その可能性に賭けるしかない……)
冷や汗を拭い、鉄パイプを握る手に、再び限界以上の力を込める。
そんな張り詰めた空気の中――。
――コツ、コツ、コツ。
突如、下駄の足音がアスピラの背後から聞こえてきた。
「……?」
アスピラが深い層に眉をひそめ、ゆっくりとその首を後ろへと巡らせると、
狐耳を揺らし、巫女装束を身にまとった女性――『みた』が、小さな歩幅でアスピラの方へと向かっていた。
「ふぅ」
みたは蒼真たちとアスピラの間、ちょうど死線が交錯する少し後ろの位置でピタリと立ち止まると、小さく肩を回す。
「やれやれ、思ったよりも遠くまで来てしまったのぅ」
目の前で命のやり取りが始まろうとしている状況とは、あまりにも不釣り合いで呑気な口調。
「みた様……!?」
五葉も驚きを隠せない。
「どうして、ここに……?」
みたは二人へちらりと視線を向けると、口元を緩め、
「なあに、ただお前さんたちを迎えに来ただけじゃて」
それだけ言うと、今度はゆっくりとアスピラへ向き直り、顔からさっぱりと笑顔が消え、琥珀色の瞳が細められる。
(わしの友を傷つけたこと、高く付くぞ? 餓鬼)
「さて……今度はわしがお前さんの相手をしてやろう」
「もちろん、殺す勢いでかかってきても、よいのだぞ?」
◇
数分前――蒼真たちがアスピラと交戦している、その裏で。
榮たちは、みたの案内の受け、住宅街から少し離れた空き地まで避難していた。
そこでは、救助された住民たちは肩を寄せ合い、不安そうに現場の方向を見つめて、澪華もまた落ち着かない様子で何度も来た道へ視線を向けている。
「本当に……大丈夫でしょうか」
小さく漏らした、そんな澪華の言葉に、榮は答えられない。
蒼真さん。そして、五葉。二人だけをあの場へ残してきた。頭では仕方のない判断だったと理解していても、胸の奥の焦りは消えない――。
そんなとき。みたがふいに、その場へ立ち上がる。
「……ふむ」
常人には捉えられない不穏な気配を感じ取ったのだろうか。
住宅街のある方向へと顔を向け、そのふさふさとした狐耳をぴくりと動かす。
「どうしたんですか?」
「少し、様子を見てくるわい。お前さんたちは、ここでじっと待っておれ」
「私たちも同行しますか……?」
「いや、不要じゃ。それよりも、この者たちを頼む」
優しく微笑むと、怯えて身を寄せ合う住民たちへと視線を向けた。
「……分かりました」
「よい。では、すぐ戻るからの」
ヒュン――
軽く地面を「トン」と蹴ると、その姿は住宅街の方へ駆けていき、あっという間に建物の陰へ消える。
「みたさん……」
二人は無事なのか――。
評価のほうもよろしくお願いします!




