45話 最終手段
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アスピラだけを遠ざける、蒼真の最終的な手段とは――。
(何か。何かきっかけがあれば……)
そのとき、蒼真は視線をわずかに横へ流した。
アスピラが立っているその奥の壁際。苦しそうに腹部を押さえながらも、意識を失っていない五葉の姿がある。
五葉と目が合い、蒼真はほんの一瞬だけ表情を変えるが声には出さない。アスピラに悟られてはいけないため、視線だけで伝え、
(まだ動けるか……?動けるなら……少しでいい)
(……協力してくれ)
五葉は蒼真の目を見返す。その一瞬で蒼真が何を考えているのか、おぼろげながら理解した。
(この人……私を助けるために)
痛みは消えているわけではない、立ち上がるだけでも一苦労。でも……まだ動ける。ほんの少しだけなら――。
蒼真は五葉のその動きを視界の端で確認すると、再びアスピラだけを見据えた。
その変化に、アスピラはまだ気付いていない。
――五葉は歯を食いしばり、壁に手をつく。腹部に激痛が走るがそれでも、ゆっくりと身体を起こす。
今できるのは……今、自分にできることは一つだけ、
「……おい!」
住宅街に五葉の大きな声が響き、アスピラの耳がぴくりと動く。
「こっちだ!……私を殺したいんじゃなかったの!」
挑発するように叫ぶ。アスピラの視線が、ゆっくりと――五葉へ向いた。
「……やっと立ったね。そのくらい元気がないと、つまらないもの。」
その様子を見た蒼真は、胸の内で静かに息をつく。
(でかした五葉……!その一瞬で十分だ)
鉄パイプを握る手に力を込める。今しかない……!このわずかな隙を逃せば……もう二度と同じ機会は訪れない。
蒼真は重心を落とし、次の一歩へ全神経を集中させる。
――宿れ。
心の中でそう念じる。すると、鉄パイプの表面を淡い青い光がすっと包み込んだ。揺らめく炎のようでありながら熱はなく、静かな輝きだけが刃物のような存在感を放つ。
その光は、蒼真にしか見えていない。アスピラも、壁際の五葉も、その異変には気付かなかった。
今、この一撃でアスピラの意識を五葉から引き離す……そのためだけに、力を込める――。
そして、腹の底から叫び、
「五葉!」
「伏せろ!!」
蒼真の声が響いた瞬間、五葉は考えるより先に身体を投げ出した。地面へ伏せるのと同時に、蒼真は青い光をまとった鉄パイプを力強く振り抜く。
刹那――。
轟音が住宅街を揺らし、蒼い閃光とともに爆発が巻き起こり、アスファルトが砕け、土煙が一気に舞い上がる。視界は一瞬で白く染まり、爆風が路地を吹き抜けた。
アスピラは咄嗟に腕を交差させて、
「……っ!」
予想外の一撃。そのわずかな隙を、蒼真は見逃さない。土煙の中を一直線に駆け抜ける。
「五葉っ!」
蒼真は伏せたままの五葉の腕を掴み、そのまま少し強引に引き起こす。
「立てるか!」
「うん……なんとか……」
腹部の痛みに顔をしかめながらも、五葉は歯を食いしばって足を動かした。
「逃げるぞ!」
――その中から現れたアスピラは、乱れた髪をかき上げながら静かに辺りを見渡すが、先ほどまでそこにいた二人の姿は、もうどこにもない。
「ちっ……逃がした。まあ、けど……」
悔しさを滲ませながらも、黒い瞳には追跡を始める獣のような光が宿り――。アスピラはその場に立ったまま、笑みが消える代わりに、静かな集中がその表情を支配する。
「……」
ゆっくりと目を閉じ、周囲の物音が遠ざかる。
風の流れ、人の足音、住宅街の生活音。そのすべての中から、ある二つだけを探すように意識を研ぎ澄ませた。
「……見つけた。」
「爆発で目くらましをしたつもりなんだろうけど……残念だったね。」
視線は迷いなく一本の路地へ向けられて、そう言うと彼女は地面を軽く蹴る。まっすぐ、ただ、まっすぐに。二人が逃げた先へ向かっていく――。
一方その頃――、蒼真は五葉の肩を支えながら必死に走っていた。
「もう少しだ。」
「人通りの多い場所まで行けば……」
蒼真は五葉を抱えながら、少しでも人通りのある場所を目指している。そして、先程から怪しく感じる背後から迫る気配は、消えるどころか、ますます近づいてくるような……
五葉は苦しそうに息を整えながら、小さく口を開く。
「……蒼真。」
「なんだ。」
「さっきの、青い光の爆発?あれは、もう一回使えないの?」
蒼真は前を向いたまま、小さく首を振る。
「無理だ……すまん。」
「一度使っただけで、体力をかなり持っていかれたから。」
息は少し乱れ、腕には重さが残っている。あの一撃を続けて放てるほどの余力は、もう残っていない。
「もう一度使えば……俺のほうが先に動けなくなる。」
沈黙だけが流れる。が、
「――そう。」
不意に、すぐ後ろから女の声が聞こえ、二人の背筋が凍りつく。振り返るまでもなく聞き覚えのある声。
「それは残念だね。」
そこには、二人との距離など最初から存在しなかったかのように、アスピラが静かに立っていた。




