44話 執着と復讐
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突如としてナイフを取り出し、刺そうとするアスピラ。それを来ると読んでいたかのように、ナイフを弾き返した蒼真。ここから始める、戦いの行く末とは――。
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甲高い金属音が路地に響く――。
蒼真が咄嗟に拾い上げた鉄パイプ、アスピラの細身のナイフが激しくぶつかり合う。
互いに一歩も譲らない。鉄パイプを押し返そうと力を込める蒼真。それを楽しむように笑みを浮かべるアスピラ。
――その頃。
五葉は壁にもたれながら、今だ浅く息を繰り返している。
「はぁ……っ。」
腹部へ受けた衝撃は想像以上に重く、息を吸うだけでも鈍い痛みが走る。それでも、視線だけは前から逸らさない。
目の前では、蒼真が一人でアスピラと向き合っている。鉄パイプを構え、相手の動きを一つひとつ見極めようとしている姿が見えた。
(……なんで)
――蒼真は異能者ではない……?いや、今はそんなのどうでもいい。たとえ、そうじゃなかったとしても、あの殺人鬼を相手に引くことなく立っている。
しかも、一度目の攻撃を防いでみせた。普通の人なら、恐怖で足がすくんでいてもおかしくないのに……
(無茶だ……)
そう思う一方、蒼真が時間を稼いでいる理由も理解していた。
自分を逃がすため――それだけ。
五葉は壁に手をつき、ゆっくりと身体を起こそうとする。
「……っ。」
腹部に鋭い痛みが走り、思わず動きが止まる。だが、澪華のときとは違う感じがした。立てないわけではないが、身体が思うように動かない――。
視界の先で、蒼真とアスピラがわずかに距離を取り直していたのが見えた。どちらが先に動くか。そんな緊張感が、二人の間に張り詰めている。
五葉は唇を噛む。
(早く……早く動け!私……!)
拳と足に力を込める。けれど、その願いとは裏腹に、身体はまだ痛みに縛られたままである――。
――蒼真とアスピラ。二人は互いの間合いを崩さず、わずかな動きすら見逃さないよう相手を観察している。
先に動いたのはアスピラ。彼女は手にしていたナイフをくるりと指先で回すと、楽しそうに笑みを浮かべる。
「一回防いだからって、安心しちゃったの?」
蒼真は何も答えず、次の攻撃に備える。
「ねえ。」
アスピラは口元を吊り上げ、鉄パイプへ視線を落とし、くすりと笑う。
「あなた、本当にそれ一本で私とやるつもり?……折れたら終わりだけど。」
一歩、また一歩。
「さっきみたいに防いでね?できるならだけど……」
突然、アスピラは空いていた左手をポケットに入れる。やがて、銀色の光を帯びた細身のナイフが、左手にも握られていた。
「……二本。」
蒼真はわずかに目を細める。アスピラは左右のナイフを軽く打ち合わせ、澄んだ金属音を鳴らし、
「一本じゃ物足りないでしょ?せっかくだし、もう一本増やしてあげたよ。」
楽しそうに笑みを浮かべ、
「どうしたの?さっきより黙っちゃったけど。」
夕日に照らされた二本の刃が、不気味な光を放つ。
(……まずいな。)
心の中で蒼真は小さく呟く――。
一本なら、軌道を読むことに集中できる。しかし、今は違う。左右それぞれに刃がある以上、一方を防いでも、もう一方が死角から飛んでくる可能性がある。それ故、鉄パイプ一本では受け切れないかもしれない。
(無理に受け続ければ、押し切られる……)
視線はアスピラの顔ではなく、その両手へ向けられている。手のひらには汗が滲む。
目の前の相手は、力任せに戦うタイプではない。間合いを崩して隙を作り、一瞬で急所を狙う。それが、この女の戦い方……だと思う。
(時間を稼ぐつもりだったが……)
(このままじゃ、長引くほど不利になる。)
蒼真はわずかに重心を落とした。
守るだけでは状況は変わらない。だが、無闇に踏み込めば、その瞬間を待っていたように刃が襲ってくる。
――どう動くべきか。
その答えを探しながら、蒼真はアスピラの一挙手一投足を見逃すまいと神経を研ぎ澄ましていく――。




