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特異社会の『傍観者』として  作者: はるぱる
第一章『日常裏の世界への入口』
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42話 危機回避

42話をお読みいただき、ありがとうございます!

これまで、感情をあらわにしていなかった蒼真はから、抑えきれないほどの怒りが滲み出ていることが分かった。そんな中みた、榮、澪華の気持ちとは――。

蒼真の言葉を聞いたみたは、すぐには返事をしなかった。じっと、その後ろ姿を見る。


とても長い付き合いではないが、それでも分かることが一つ。

今の蒼真は、勢いで前に出ようとしているわけではない、


当然――怒っている。


だが、理性で抑え込める程度のものではない。みたは小さく目を閉じ、ひとつ息をつく。


「……そうか。」


短く呟くと、蒼真の肩を軽く叩いた。


「ならば、止めはせぬ。わしにもやることがある。」


くるりとこちらに顔を向け、


「榮、そして澪華。」


突然名前を呼ばれる二人は、まだ状況を飲み込めずにいる。


「え……?」


「……何ですか?」


「ここを離れるぞ。お前さんたちは戦える状態ではない。」


みたの声は落ち着いているが、有無を言わせんとする強さがあった。その言葉に澪華は反射的に口を開く。


「ですが――。」


「今は違う。……今この状況、その状態で無理に動こうとすれば、かえって二次被害を生むことになる。」


みたは、澪華の言葉を最後まで言わせない。澪華は悔しそうに唇を噛む。


――反論したい。


だが、自分の身体が万全でないことは、誰よりも自分が理解していた。


さらに、アスピラの前の壁では、五葉が腹部を押さえながら立ち上がろうとしていたが、その動きは鉛のように重たく、そして息を切らしている。



――みたは周囲を見回す。まだ人々は混乱し、現場から逃げ遅れている者もいる。倒れた男女のそばで泣き崩れている人の姿もあった。


「まずは、この者たちじゃ。」


みたは近くにいた人々へ歩み寄っていく。


「安心せい。ここから少し離れた場所まで案内する。」


みたのその落ち着いた声には、不思議と人を従わせる力があり、泣いていた女性も、小さく頷く。

みたは榮へ視線を向けた。


「榮、お前さんはその女性を支えてやれ。」


「……はい!」


榮は迷いを振り切るように返事をすると、女性の肩を支えた。

指示を終えると、みたは壁際へ視線を向ける。


そこには、腹部を押さえながら壁にもたれている五葉。そして、その数メートル手前には蒼真に目を向けつつも、五葉から目を離さないアスピラが立っていた。


この距離では助けに入れない。一歩でも近づけば、アスピラが動く。みたは一瞬だけ考え目を閉じ、


「……すまぬの。」


誰に向けた言葉だったのか、自分でも分からない。だが、今は選ばなければならない。


「五葉は後じゃ……。」


みたの一言に、榮が顔を上げる。


「そんな……!助けないと!」


「……今向かえば、お前さんたちまで巻き込まれる。」


「それに、助けたい気持ちは同じじゃ。じゃが、今はどうすることもできぬ。」


その会話を横目で聞いていた澪華は、視線を壁際の五葉をに変えて見つめる。

爪が食い込むほど力を入れても、その一歩は踏み出ずにいる。


それはみたの言っていることが、すべて正しいから。今の自分では、あそこへ行き着く前に倒されるから。そして、自(・)分(・)は(・)何(・)も(・)で(・)き(・)な(・)い(・)から――。



――「行くぞ。」


逃げる際、榮も澪華も、何度も後ろを振り返った。胸の奥に不安を抱えたまま、一行は住宅街の角を曲がり、現場を離れていく。



夕暮れの路地に残されたのは、三人だけ。壁にもたれながら立つ五葉。その命を狙うアスピラ。そして、その間に立ちはだかる蒼真。


誰も口を開かない。


静まり返った路地に、三人の視線だけが今も交錯している。




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