42話 危機回避
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これまで、感情をあらわにしていなかった蒼真はから、抑えきれないほどの怒りが滲み出ていることが分かった。そんな中みた、榮、澪華の気持ちとは――。
蒼真の言葉を聞いたみたは、すぐには返事をしなかった。じっと、その後ろ姿を見る。
とても長い付き合いではないが、それでも分かることが一つ。
今の蒼真は、勢いで前に出ようとしているわけではない、
当然――怒っている。
だが、理性で抑え込める程度のものではない。みたは小さく目を閉じ、ひとつ息をつく。
「……そうか。」
短く呟くと、蒼真の肩を軽く叩いた。
「ならば、止めはせぬ。わしにもやることがある。」
くるりとこちらに顔を向け、
「榮、そして澪華。」
突然名前を呼ばれる二人は、まだ状況を飲み込めずにいる。
「え……?」
「……何ですか?」
「ここを離れるぞ。お前さんたちは戦える状態ではない。」
みたの声は落ち着いているが、有無を言わせんとする強さがあった。その言葉に澪華は反射的に口を開く。
「ですが――。」
「今は違う。……今この状況、その状態で無理に動こうとすれば、かえって二次被害を生むことになる。」
みたは、澪華の言葉を最後まで言わせない。澪華は悔しそうに唇を噛む。
――反論したい。
だが、自分の身体が万全でないことは、誰よりも自分が理解していた。
さらに、アスピラの前の壁では、五葉が腹部を押さえながら立ち上がろうとしていたが、その動きは鉛のように重たく、そして息を切らしている。
――みたは周囲を見回す。まだ人々は混乱し、現場から逃げ遅れている者もいる。倒れた男女のそばで泣き崩れている人の姿もあった。
「まずは、この者たちじゃ。」
みたは近くにいた人々へ歩み寄っていく。
「安心せい。ここから少し離れた場所まで案内する。」
みたのその落ち着いた声には、不思議と人を従わせる力があり、泣いていた女性も、小さく頷く。
みたは榮へ視線を向けた。
「榮、お前さんはその女性を支えてやれ。」
「……はい!」
榮は迷いを振り切るように返事をすると、女性の肩を支えた。
指示を終えると、みたは壁際へ視線を向ける。
そこには、腹部を押さえながら壁にもたれている五葉。そして、その数メートル手前には蒼真に目を向けつつも、五葉から目を離さないアスピラが立っていた。
この距離では助けに入れない。一歩でも近づけば、アスピラが動く。みたは一瞬だけ考え目を閉じ、
「……すまぬの。」
誰に向けた言葉だったのか、自分でも分からない。だが、今は選ばなければならない。
「五葉は後じゃ……。」
みたの一言に、榮が顔を上げる。
「そんな……!助けないと!」
「……今向かえば、お前さんたちまで巻き込まれる。」
「それに、助けたい気持ちは同じじゃ。じゃが、今はどうすることもできぬ。」
その会話を横目で聞いていた澪華は、視線を壁際の五葉をに変えて見つめる。
爪が食い込むほど力を入れても、その一歩は踏み出ずにいる。
それはみたの言っていることが、すべて正しいから。今の自分では、あそこへ行き着く前に倒されるから。そして、自分は何もできないから――。
――「行くぞ。」
逃げる際、榮も澪華も、何度も後ろを振り返った。胸の奥に不安を抱えたまま、一行は住宅街の角を曲がり、現場を離れていく。
夕暮れの路地に残されたのは、三人だけ。壁にもたれながら立つ五葉。その命を狙うアスピラ。そして、その間に立ちはだかる蒼真。
誰も口を開かない。
静まり返った路地に、三人の視線だけが今も交錯している。




