40話 最悪な事件の勃発
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みたが早速話し始めようとした瞬間、神社の外からは人々の悲鳴が消えてくる――。
みたが全員を見渡しながら、
「ではまず、お前さんから……」
――その瞬間。
「きゃああああぁぁっ!!」
住宅街の方角から、耳をつんざくような甲高い悲鳴が響き渡り、その場の空気が一変。榮は反射的に声のした方向を見た。
「今の……!」
続けて、何かが倒れるような大きな物音。そして、複数人の慌ただしい足音が。
「逃げろ!」
「誰か、警察を呼べ!」
人々の叫び声が風に乗って届く。すぐ横にいた、澪華の表情が鋭く変わる。
「ただ事ではないようですね……」
五葉も無言で住宅街の方向を見据え、みたもその表情から穏やかさが消えていた。
「……妙じゃの。」
住宅街の方角へ意識をピンと集中させるみた。
「どうしました?」
蒼真が尋ねるがみたは数秒黙り、空気を探るように目を閉じ――そして、パッと目を開く。
「……感じる、人ならざる気配じゃ。」
その一言に、榮たち四人の表情が固まって、澪華が察したように呟く。
「まさか……」
「いや、断言はできぬ。じゃが、この気配は普通の人間ではないぞ。」
五葉はすでに一歩前へ踏み出し、
「行ってくる。」
「む……待て。」
みたが五葉を制す。その声は、これまでにない緊張感があるのが分かった。
「相手が何者かも分からぬまま飛び出すのは危険じゃ。」
しかしその直後――、
「た、助けてぇぇぇ!!」
今度は先ほどより近い場所から悲鳴が響く。悲鳴には切迫した恐怖が滲んでいた……
「放っておけない!」
澪華も短く頷き、手早い足取りで動き出す。
「急ぎましょう。」
「……仕方あるまい、全員で向かう。が、決して皆一人では動くでないぞ。」
――五人は住宅街へ向かって石段を駆け下りる。夕暮れの静かな街並みには人々の悲鳴と慌ただしい足音だけが響いていた。
「こっちじゃ!」
みたが迷いなく細い路地へ飛び込み、その後を榮たちも全力で追いかけ、角を一つ、二つと曲がり、やがて人だかりが見え始め――、
「離れてください!」
「救急車はまだか!」
五人はそんな唖然とする人混みをかき分け、その中心へたどり着く。
そして――。
「……っ。」
(遅かった……)
アスファルトの上に、一人の女性が仰向けに倒れている。
胸の左側。正確には心臓のすぐ横に、鋭利な刃物で貫かれたような深い刺し傷。血が静かに広がり、すでに呼吸は止まっている。
澪華はしゃがみ込み、女性の首筋へそっと指を添え、
「……駄目です、もう手遅れ。」
その答えを聞き、榮は拳を強くグッと握り締める。
「そんな……」
しかし、今のみたの視線は女性ではない。
「もう一人おる。」
その言葉に全員が振り向く。
女性から数メートル離れた場所。電柱にもたれ掛かるように、一人の男性が倒れていた。
外傷はほとんどない。だが、その顔色は青白く、皮膚には黒紫色の筋のようなものが首元から腕へと浮かび上がっている。
その男性を見たとき、澪華は瞳が大きく揺れた。
「……これは。」
「どうした?」
蒼真もすぐ隣へ駆け寄る。澪華は男性の腕を見つめたまま、
「私と……同じです。」
「同じって……」
「毒です。」
「私が受けたものと酷似しています。皮膚の変色も、身体の壊死が始まる前の症状も。」
声は震えていないが、その瞳には動揺が隠せていない。すかさず、蒼真は男性の口元へ手をかざした――が、
――呼吸はなく、脈も感じられない。
「こっちも手遅れ……ちっ。」
みたは再度辺りを詮索し、すると狐耳がぴくりと震える。
「……いや、まだじゃ。」
全員がみたを見る。みたは路地の奥をじっと見据え続け、声色を低くして、
「この場には……まだ、人ならざる気配が微かに残っておる。」
そう告げる――その刹那。
ぞくり、と。
榮の背筋を、冷たい悪寒が駆け抜け、
「っ!」
反応するより早く、五葉の目の前の空間がぐにゃりと黒く歪む。まるで、影そのものが剥がれ落ちたかのように、不気味な黒い人影が姿を現す。
「五葉ッ!」
榮の叫びは間に合わなく、黒い影は迷いなく右腕を振り抜いていき――、
ドゴッ――!!
鈍く重い衝撃音が住宅街に響き渡る。拳は五葉の腹部へ深くめり込み、そのまま勢いを殺さず突き抜けた。
「うぐッ……!」
五葉の身体が大きくくの字に折れ曲がる。肺から一瞬で息が吐き出され、声にならない苦鳴が漏れた。そのまま身体は地面を離れ、後方へと激しく弾き飛ばされる。
――だが、
黒い影の狙いは、それだけでは終わらない。五葉を殴り飛ばした勢いのまま、一直線に前へ突き進む。
あまりにも速く、人間の目ではとうてい捉え切れない速度。
「何じゃ、この速さ……!?」
みたが思わず驚愕の声を漏らす。蒼真は反射的に、榮の前へと飛び出した。
「榮!下がれ!」
しかし、影は二人のすぐ脇を風のように駆け抜けていく。
次の瞬間、強烈な風圧だけが周囲を激しく叩きつけた。髪が大きく乱れ、落ち葉や砂埃が舞い上がる。
澪華が即座に振り返った――。




