3話 再会は冷気の中に
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昨日の今日で、まさかの再会。完全に目を付けられてしまった榮の運命は――
◇
「……君、昨日の」
甘いケーキの香りが漂う店内に、彼女――澪華の低い声が静かに響いた。ゆっくりとこちらを振り返る彼女の目は、鋭く榮を射抜いている。
「奇遇ですね。……私の後をつけてきたのですか?」
昨日と全く変わらない、氷のように冷徹な眼光。だが、その奥にあるのは、昨日あの路地裏で俺に向けられたものと同じ――強烈な「警戒」と「疑い」の視線だった。
(しまった……目をつけられてる……)
昨日、直感による行動で少女を追ってしまった。そして追った先は、まさに眼前にいる澪華。
あの少女と澪華が、互いに厚い信頼で結ばれているのなら、澪華が理由もなく少女を尾行してきた男(榮)を怪しむのは当然のことである。
やはり、追うべきではなかったのだ。
「うっ……」
心臓が痛いほど跳ね上がり、喉の奥が一瞬で乾きそうになった。
それと、もしここで怪しい動きをすれば、何をされるかわからない。
「ち、違います! 本当にただの偶然です! バイトの帰りに、その、甘い物が食べたくなって……!」
榮は両手をぶんぶんと振って、必死に弁明する。しかし、澪華はピクリとも表情を変えない。それどころか、すっと距離を半歩詰め、声をさらに低くした。
「本当に、ただの偶然? そのような言い訳が通用するとでも……」
冷たい声が顔に突き刺さる。さらに澪華の怪しむ顔が至近距離にまで接近してきたので、榮は苦笑いするしかなかった。
「あ………」という声が不意に出てしまったその際、
彼女の右手が、上着のポケットの中に深く差し込まれていたことに違和感を覚える。
(まさかね………)
――昨日あの薄暗い路地裏で、たじろぐ俺を見下ろす彼女の手元にちらりと見えた、あのギラリと光る『凶器みたいなもの』。
それが今、ポケットの中で自分の喉元を狙って握られているんじゃないか。
そう思うだけで、背中に嫌な汗がドッと溢れ出た。
その時――
「お待たせいたしましたー! イチゴのショートケーキ、三個になります!」
奥の厨房から、店員さんがなんとも場違いな呑気な声を出して、可愛らしいリボンのついた箱をカウンターに置く。
(……え?)
脳が一瞬フリーズした。
イチゴのショートケーキ。しかも、三個。
今にもポケットから凶器を突き出し、俺を消そうとするかもしれない、この氷の殺人鬼のような彼女が、可愛らしいケーキを買いに来たというのか……。
店員さんの声に反応して、澪華はやっと顔を遠ざけてくれた。その後、ポケットからスッと右手を出した。
てっきりまた凶器でも握っているのかと思ったら、彼女がつまんでいたのは、上品な黒い皮の財布。
「……お釣りは、結構です」
冷たくて低い声のまま、澪華はトレイの上に千円札を数枚、多めに置いた。
お釣りを受け取る時間さえ惜しむように、彼女はそのまま素早くケーキの箱を持ち、こちらに顔を振り向けた。
その目はまだ冷たくて鋭かったけれど、さっきまでの「殺すか生かすか」という最悪の殺気は、心なしか薄れているように見えた。
そして、カランカラン、と小気味いいドアベルが鳴り響く直前。彼女の薄い唇から、吐息のようなごく小さな呟きがこぼれ落ちる。
「――かみしろ」




