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特異社会の『傍観者』として  作者: はるぱる
第一章『日常裏の世界への入口』
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32話 とある神社の情報屋

第32話をお読みいただきありがとうございます!



――重い沈黙が三人の間に流れる。


店内には静かなジャズが流れ、周囲の客たちは楽しそうに談笑している。

しかし、榮たちの席だけは別世界のようだった。


蒼真はコーヒーカップへ手を伸ばす。


一口だけ口をつけると、静かにカップを置いた。


「……正直に言うよ。」


榮と五葉が顔を上げる。

蒼真は二人を見つめ、ゆっくりと口を開いた。


「俺は、あの女が許せない。」


「澪華をあんな状態にした。」


「君たちまで命の危険に巻き込んだ。」


「だから……。」


蒼真は少しだけ視線を落とす。


「復讐したいと、思ってしまっている。」


その言葉に、榮も五葉も黙り込む。


「自分でも、こんなことを口にするのはらしくないって分かってる。」


「でも、それくらい頭にきてるんだ。」


榮は静かに言う。


「……気持ちは、分かります。」


五葉も小さく頷いた。

蒼真は二人の反応を見て、小さく息を吐く。


「もちろん、感情だけで動くつもりはない。」


「問題は――。」


「肝心の本人が、どこにいるのか全く分からない。」


財布から身元は判明した。

だが、現在の居場所までは掴めていない。


「警察も探してはいる。」


「でも、時間が掛かるだろう。」


そこで蒼真は何かを思い出した。


「……そうだ。」


榮が首を傾げる。


「何かあるんですか?」


「一人だけ、心当たりがある。」


「数年前からの知り合いなんだけど。」


「人の情報を集めることに関しては、右に出る者がいないくらい優秀な人なんだ。」


五葉が尋ねる。


「探偵さん?」


「探偵……というよりは。」


「情報屋に近いかな。」


「ただ、その人は少し変わっていてね。」


「普段は神社にいる。」


榮は思わず聞き返した。


「神社?」


「うん。」


蒼真は頷く。


「運が良ければ、今日もいるはず。」


蒼真は席を立ち、会計伝票を手に取る。


「行ってみよう。」


「話を聞くだけでも、何か手掛かりが得られるかもしれない。」


榮と五葉は顔を見合わせ、小さく頷いた。


「……はい。」


三人は席を立ち、カフェを後にする。



――夕方の京都の街は、観光客や学生、仕事帰りの人々で賑わっている。


蒼真を先頭に、神社へ向かって歩き始めた。

榮は隣を歩く五葉へ小さく尋ねる。


「神社にいる人って、どんな人なんだろう。」


五葉は首を横に振る。


「私も初めて聞いた。」


「蒼真さんの知り合いなんだよね。」


「ああ。」


前を歩く蒼真が振り返る。


「少し変わった人だけど、腕は確かだ。」


「人や物の情報を探すことに関しては、本当に優秀なんだ。」


榮は少し驚いたような表情を浮かべる。


「そんな人がいるんですね。」


「普通なら、俺も信じないよ。」


「でも、今まで何度も助けられてきた。」


「だから今回も、一度相談してみようと思った。」



そして数十分後――。


「……ここ。」


「伏見稲荷大社にいる。」


目の前には、京都を代表する神社の一つである伏見稲荷大社が静かに佇んでいた。

夕暮れの光を受けた朱色の鳥居は幻想的な雰囲気をまとい、参道には屋台や土産物店が並んでいる。

観光客で賑わう境内とは対照的に、どこか神秘的な空気も漂っていた。


五葉も辺りを見回す。


「……ここに、その人がいるの?」


蒼真は静かに頷く。


「ああ。」


「普段は本殿の近くにはいない。」


「もっと奥。」


そう言って、千本鳥居が続く参道へ視線を向けた。


「この先にいる。」


榮と五葉も、その先を見つめる。

幾重にも連なる朱色の鳥居。

夕日に照らされ、その奥はどこか異世界へ続いているようにも見えた。


「行こう。」


「たぶん、もう待ってるはずだ。」


三人は並んで鳥居の中へ足を踏み入れた。



一つ、また一つ。


どこまでも続くような鳥居の回廊を歩いていく。

最初こそ多くいた観光客の姿も、奥へ進むにつれて少しずつ減っていった。

辺りは次第に静かになり、聞こえるのは木々を揺らす風の音と、自分たちの足音だけ。


「……こんな奥まで来るんですね。」


榮は思わず辺りを見回す。

蒼真は前を向いたまま答える。


「ああ。」


「もう少しだ。」


さらに数分歩く。


やがて視界が開け、小さな広場のような場所へ出た。

そこには、大小さまざまな狐の石像が何体も並んでいる。

どの狐も口に鍵や巻物、玉をくわえ、静かにこちらを見つめているようだった。

榮は思わず息をのんだ。


「……すごい。」


五葉も静かに辺りを見渡す。


「こんな場所、初めて来た。」


その時――。


先頭を歩いていた蒼真が、不意に足を止める。

榮と五葉も立ち止まり、不思議そうに蒼真を見る。

蒼真は狐の像が並ぶ奥へ視線を向けると、静かに口を開いた。


「――稲荷様。」


一拍置く。


「いますか。」


その一言が静まり返った境内に響いた。


「……。」


榮は目を見開く。


「え……?」


思わず蒼真を見る。

五葉も同じように驚いた表情を浮かべていた。


「い、稲荷様って……。」


「まさか、本当に神様を呼んでるんですか?」


五葉も戸惑いを隠せない。


「……?」


二人は顔を見合わせる。

冗談を言っているようには見えない。

蒼真は真剣な表情のまま、狐の像が並ぶ奥を静かに見つめ続けていた。


辺りには風が吹き抜け、木々の葉がさらさらと揺れる。

しかし、それ以外に返事はない。

榮が「やっぱり誰も――」と言いかけた、その瞬間だった。

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