28話 サシでの会話
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――病室には、先ほどまでよりも少しだけ穏やかな空気が流れていた。
蒼真はふと榮の隣へ目を向ける。
そこには、静かに立ったまま二人のやり取りを見守っていた五葉がいた。
「あっ、ごめん。」
「榮と話してたら、君にもまだ自己紹介してなかったね。」
五葉は小さく首を横に振る。
「ううん。」
蒼真は改めて軽く頭を下げた。
「俺は 青石 蒼真。」
「澪華とは昔から付き合いがあって、今は色々と手伝いをしてる。」
「よろしく。」
五葉もぺこりと頭を下げた。
「……よろしくお願いします。」
蒼真はその様子を見て、どこか安心したように笑う。
「澪華から少し話は聞いてたよ。」
「私のこと……?」
「うん。」
「詳しいことまでは聞いてないけどね。」
「『すごく大切な子がいる』って。」
五葉は思わず眠っている澪華へ視線を向ける。
その言葉を本人から聞いたわけではない。
「……そうなんだ。」
五葉は小さく微笑んだ。
「だから昨日、澪華が運ばれたって連絡を受けた時は、本当に驚いた。」
三人の視線は自然とベッドへ向かった。
澪華はまだ眠っている。
――本当に、助かったんだ。
その時、ベッドの上で眠っていた澪華の指先が、小さくぴくりと動いた。
「……!」
五葉は思わずベッドへ駆け寄る。
「澪華……!」
榮も慌てて近づき、蒼真も静かに立ち上がった。
澪華の指先がもう一度わずかに動く。
「……。」
ぼんやりと天井を見つめる。
意識がはっきりしていないのか、焦点の合わない視線が静かに揺れていた。
「澪華。」
蒼真が穏やかな声で呼びかける。
「……蒼真君。」
掠れた声だった。
「気分はどう?」
蒼真が静かに尋ねる。
澪華は少しだけ考え、小さく息をついた。
「……最悪です。」
その一言に、蒼真は思わず苦笑する。
「それだけ言えるなら、少し安心かな。」
澪華は微かに笑みを浮かべようとするが、すぐに苦しそうに眉を寄せた。
まだ身体を動かすのも辛そうだった。
その様子を見つめていた五葉は、心配そうに身を乗り出す。
「澪華……。」
澪華は五葉へ視線を向ける。
「……無事だったのですね。」
五葉は何度も頷く。
「うん。」
「澪華が守ってくれたから。」
「……それなら、よかったです。」
その言葉を聞いた榮は、小さく息を吐く。
「まだ休んでてください。」
澪華は榮の方へ顔を向けた。
少し驚いたように目を瞬かせ、それから小さく笑う。
「……心配、してくれてたんですね。」
「当たり前です。」
榮は少し照れくさそうに視線を逸らした。
「昨日あんなことになったんですから。」
「そうですか。……ありがとうございます。」
澪華は静かに呟く。
――それからしばらくの間、病室では穏やかな時間が流れた。
澪華はまだ本調子ではないものの、先ほどよりも表情は落ち着いている。
医師からも「長時間の面会は控えてください」と伝えられていたため、榮たちは適当なところで席を立つことにした。
「それじゃあ。」
榮は澪華へ軽く笑みを向ける。
「また来ます。」
「……はい。」
五葉もベッドのそばへ歩み寄る。
「ちゃんと休んでね。」
「無理したら駄目だから。」
「……五葉に言われるとは思わなかったです。」
「え?」
五葉がきょとんとした表情を浮かべると、病室に小さな笑いが広がる。
「そのくらい元気なら安心かな。」
澪華は照れ隠しのように視線を逸らした。
「……もういいです。」
そのやり取りに榮も思わず笑みを浮かべる。
昨日の張り詰めた空気とは違う。
こうして笑い合えることが、何より嬉しかった。
「じゃあ、行こうか。」
榮が五葉へ声を掛ける。
「うん。」
二人は病室を後にした。
静かにドアを閉め、廊下を歩き始める。
エレベーターへ向かおうとした、その時だった。
「――神代。」
後ろから声が掛かった。
榮が振り返る。
病室から出てきた蒼真が、こちらへ歩いてきていた。
「少しだけ、いいかな。」
その表情は先ほどまでと変わらず穏やかだったが、どこか真剣さも感じられる。
「俺ですか?」
「あぁ。」
蒼真は静かに頷く。
「君と、少しだけ話がしたい。」
榮は一瞬だけ五葉を見る。
葉も不思議そうな顔をしていた。
蒼真はそんな二人を見て、小さく笑う。
「そんなに構えなくて大丈夫。」
「ほんの少しだけだから。」
「……分かりました。」
蒼真は五葉へ視線を向ける。
「悪いけど、少しだけさっきの病室で待っててもらえるかな。」
五葉は榮を一度見つめ、それから静かに頷いた。
「……うん。」
そう言うと、五葉は再び病室へ戻っていく。
その姿を見送った蒼真は、榮へ向き直る。
「じゃあ、少し場所を変えようか。」
そう言って、静かな廊下の奥へゆっくりと歩き始めた。




