27話 青石 蒼真
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――二人は病院に着き、自動ドアをくぐって受付へ向かった。
受付には一人の女性職員が立っていた。
「すみません。」
榮が声を掛ける。
「昨日搬送された人のお見舞いに来たんですが。」
受付の女性は穏やかに微笑み、尋ねる。
「患者様のお名前をお願いします。」
榮は一瞬だけ言葉に詰まる。
なにせ澪華の名字を知らない。
知っているのは名前だけ。
「あの……澪華、という名前なんですが。」
女性は少し考えるような表情を浮かべたあと、端末を操作する。
数秒後、小さく頷いた。
「確認できました。」
「五階の五〇七号室になります。」
「ありがとうございます。」
榮は軽く頭を下げる。五葉も小さく会釈をした。
やがて、507号室。
榮は病室の前で足を止め、小さく深呼吸をする。
昨日の苦しそうな澪華の姿が頭をよぎった。
「……入ります。」
五葉が静かに頷く。
榮はゆっくりとドアをノックした。
返事はない。
そっとドアを開ける。病室の中は静かで、ベッドでは澪華が静かに眠っていた。
昨日より顔色は少し良く見えた。
榮は思わず胸をなで下ろす。
しかし、その隣に座る人物を見て足を止めた。
椅子へ腰掛けていたのは、一人の青年だった。
年齢は榮と同じくらい。
短く整えられた黒髪に、涼しげな目元。
どこか爽やかな雰囲気をまとい、落ち着いた表情で眠る澪華を見守っていた。
ドアの開く音に気付き、青年はゆっくりと振り返る。
「あ。」
目が合った。
「君たちがお見舞いに来てくれた人かな。」
落ち着いた優しい声だった。
榮も慌てて頭を下げる。
「はい。」
「昨日、澪華さんと一緒にいた神代榮です。」
青年は小さく微笑んだ。
「そうか。」
「話は少しだけ聞いてる。」
榮は青年を見つめる。見覚えはない。
少なくとも昨日まで会ったことはなかった。
「あの……。」
榮は少し遠慮がちに尋ねる。
「失礼ですけど……あなたは?」
「ああ、ごめん。」
「まだ名乗ってなかったね。」
青年は榮へ向き直る。
「俺は――」
一度だけ軽く会釈をしてから名乗った。
「青石蒼真。」
「澪華とは、昔からの知り合いなんだ。」
その穏やかな笑顔には、不思議と人を安心させるような温かさがあった。
「……。」
榮は少し不思議そうに首をかしげる。
その視線に気付いた蒼真が、小さく笑った。
「ごめん。」
「君の顔を見てたら、なんとなく思い出しそうで。」
「……どこかで会ったこと、なかった?」
榮は少し考える。
「いや……俺は初めてだと思いますけど。」
「そうかな。」
蒼真は腕を組み、記憶をたどるように天井を見上げた。
「学校……。」
「いや、違う。」
「でも制服姿だった気がするんだよな。」
榮も記憶を探る。
爽やかな青年。落ち着いた話し方。
どこか見覚えがあるような、ないような。
「……あ。」
蒼真が小さく声を漏らした。
「思い出した。」
「中学校だ。」
そして榮が顔を上げる。
「中学校?」
「うん。」
蒼真は笑顔で頷く。
「委員会で何度か顔を合わせてた。」
その一言で、榮の記憶も一気によみがえった。
「あ……。」
思わず声が漏れる。
「もしかして……。」
蒼真は少し照れくさそうに笑った。
「そう。」
「俺、生徒会長だったでしょ?。」
その瞬間。
榮の頭の中で、中学時代の景色が鮮明によみがえる。
放課後の職員室前。委員長会議。生徒総会の準備。
その中心には、いつも一人の生徒会長がいた。
「蒼真先輩……!」
榮が思わずそう口にすると、蒼真は苦笑した。
「やっと思い出してくれた。」
「中学から結構経つし、無理もないけど。」
榮は少し申し訳なさそうに頭をかく。
「すみません……。」
「髪型も雰囲気も少し変わってたから。」
「いやいや。」
蒼真は笑いながら首を横に振る。
「俺も最初は自信がなかったし。」
「でも、話してるうちに思い出したよ。」
そして少し懐かしそうな表情になる。
「神代って、生徒会じゃなくて図書委員だったよね……って一瞬思ったけど。」
すぐに「ああ、違います。」と笑う。
「そうだ。」
「生徒会の会計だった。」
「会計じゃなくて、書記です。」
「あ、そうだった。」
蒼真は少し恥ずかしそうに笑った。
「さすがに細かいところは忘れちゃうな。」
病室に、穏やかな空気が流れる。
張り詰めていた空気が少しだけ和らぎ、五葉も二人のやり取りを静かに見守っていた。
まさか、こんな場所で中学時代の知り合いと再会するとは――。
榮自身も、思ってもみなかった出来事だった。




