26話 一夜明けて……
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路地裏の事件から数時間後――澪華が病院へ運ばれた後、五葉と榮の行動とは――。
いつも見てくださっている方々に感謝いたします。
――サイレンの音が、夕方の街へ響き渡る。
赤色灯を点滅させたパトカーは、澪華を乗せたまま交差点を曲がり、その姿は徐々に小さくなっていった。
榮は、その車が完全に見えなくなるまで立ち尽くしている。胸の奥には不安だけ。あれほど冷静だった澪華が、自分の足で立つこともできないほど苦しんでいたのだから。
『毒』
その言葉が何度も頭をよぎる。
「……」
隣では、五葉も黙ったままパトカーが去った方向を見つめ、明るい表情はどこにもなく、拳を小さく握っていた。
しばらくどちらも口を開かない。夕風だけが二人の間を静かに吹き抜ける――。
「……五葉。」
名前を呼ばれ、五葉がゆっくり振り向く。
「今日は、一回家に戻らないか。」
五葉は少し驚いたような顔をする。
「家?」
「ああ。病院に行っても、俺たちが今すぐできることは多分ないし……」
その言葉に、五葉は何も返せない。
「それに……」
榮は少し視線を落とした。
「じいちゃんとばあちゃんにも心配かけたくないから……」
「病院へ行くなら、そのあとでも遅くないと思う。」
五葉は静かに考え込む。
澪華の容体は気掛かり。が、警察が病院へ搬送した以上、医師の処置はすぐ始まるはず。それに、自分たちが今すぐ駆け付けても、警察から事情を聞かれる可能性は高い――。
今は少しでも状況を整理する時間が必要……か。
五葉は小さく頷く。
「……分かった。一回、お家に戻ろう。」
榮も安心したように息をついた。
「よし。」
二人はゆっくり歩き始める。先ほどまでの騒動が嘘だったかのように、住宅街は静かである。しかし、その静けさとは裏腹に、二人の胸には同じ思いが渦巻いている。
――澪華は無事なのか。
その答えを知るには、まだ少し時間が必要だったのである。
――その後二人は家に着いたが、祖父母から心配の声が止まなかった。少しだけ明日の事を五葉と話して、ご飯を食べ、風呂に入り、すぐに就寝する。
――翌日。
昨夜まで降り続いていた不安を包み込むような、穏やかな朝。
榮はゆっくりと目を開け、ぼんやりと天井を見つめながら、昨夜の出来事を思い返していた。
アスピラとの遭遇。突然始まった戦い。毒に侵され、苦しそうに倒れた澪華。
そして、夜に病院から届いた一本の電話。
――『容体は少しずつ良くなっています。』
その言葉だけが、今の榮の心を支えている。
「……行こう。」
ベッドから起き上がると、誰に言うでもなく呟き、着替えを済ませて部屋を出ていく。
――居間では祖父が新聞を読み、祖母が朝食を並べている。
「あ、おはよう。」
祖母が優しく微笑んだ。
「おはよう。」
榮も軽く頭を下げ、席へ座った。
食卓には焼き魚、味噌汁、卵焼き。いつもと変わらない朝の食卓。その温かな空気に触れ、榮の肩から少しだけ力が抜け、
「昨日はよく眠れたかい?」
祖父が新聞を畳みながら尋ねる。
「まぁ……あんまり。」
「そうか。」
祖父はそれ以上聞かなかった。昨夜の榮の表情を見れば、何か大変なことがあったのは十分伝わっているはずだからだ。
祖母は温かいご飯をよそいながら言う。
「今日はどこか行く予定なんでしょ?」
「うん。」
「昨日怪我をした知り合いの様子を見に、病院へ行こうと思ってる。」
「そうかい。きっと、その人も榮が来てくれたら安心するね。」
「気を付けて行っておいで。」
「ああ、ありがとう……」
朝食を食べ終えると、食器を流しへ運ぶ。
「ごちそうさま。」
そう言って玄関へ向かうと、ちょうど廊下の向こうから五葉が姿を現す。昨夜よりは落ち着いた表情をしているものの、その瞳にはまだ心配の色が残っていた。
榮は小さく笑みを浮かべ、
「行こうか。」
五葉は真っ直ぐ榮を見つめ頷く。
「……うん。」
二人は靴を履き、玄関の扉を開ける。
朝の澄んだ空気が頬を優しく撫でた。見上げれば、昨日とは打って変わって雲ひとつない青空が広がっている。
榮は空を見上げ、小さく息を吸い込む。
――澪華は、本当に大丈夫だろうか。
その思いを胸に、二人は病院へ向かって歩き始め――。




