14話 迫る影『アスピラ』
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仕事から帰ってきた澪華と、京都に来た謎の女とは――。
これからも皆様が面白いと思えるような作品づくりをしていきます!
――東京駅を出発した新幹線は、静かな音を響かせながら西へと走っていた。
窓の外を流れる景色を眺めながら、澪華は静かに息をつく。
今回の任務は無事に終わった。大きな被害もなく、予定より早く片付いた。それだけなら、何も問題はない。
だが――。
澪華はゆっくりと目を閉じ、
脳裏に浮かぶのは一人の少年……ごく普通の少年。それなのに、どうしても違和感が拭えない。
――神代 榮。
その名前を澪華は知らない。知っているのは、あの少年の姿だけ。そして、あの時。思わず口から零れた一つの言葉。
『……かみしろ。』
あれは確信ではない。ただ、特徴があまりにも似ていた。だからこそ、あの名が頭をよぎっただけ。もし違うのなら、それでいい。けれど、もし本当に――。
「……」
澪華は小さく首を振る。
今の自分に結論を出すことはできない。確証もないまま動くのは、自分のやり方ではなかった。
――車内アナウンスが静かに流れる。
『まもなく、京都。京都です。』
澪華は荷物を手に取り、静かに立ち上がる。
2日ぶりの京都。その街で、再び何かが動き始めようとしていたのだ。
扉が開くと同時に、人々が一斉に降り始めた。その流れの中を静かに歩いていく。肩まで伸びた黒髪が、駅構内の風にわずかに揺れ、澪華は小さなバッグを肩に掛け直し、改札へ向かう。
京都駅を出ると、夕暮れの柔らかな光が街を包んでいた。住宅街を数分ほど歩き、見慣れた家の前で足を止める。
澪華は鍵を取り出し、静かに玄関の扉を開け、
「……ただいま。」
小さく声をかける。しかし、返事はない。いつもなら、奥の部屋から小さな足音が聞こえてくる。あるいは、読んでいた本やゲームから顔を上げて、
「……おかえり。」
と、短く返してくれる。だが今日は、家の中は驚くほど静かだ。
澪華は靴を脱ぎ、ゆっくりと廊下を歩く。
居間。台所。五葉の部屋。一つずつ確認していく。
「……」
やはり、誰もいない。そして窓から差し込む月の光を見つめ、小さく考え込む。
「外出、でしょうか。」
五葉が勝手に出歩くことは滅多にない。当然不思議だ。
澪華は荷物を部屋の隅へ置くと、ソファへ静かに腰を下ろす。東京での疲れが残っているのか、小さく息をつく。
「まあ……もう少し待ってみましょう。」
そう呟くと、部屋には再び静けさが戻る。壁掛け時計の秒針だけが、規則正しく時を刻んでいる。
――澪華が駅のホームから出た後の数時間後。
京都駅。ホームへ到着した列車から、一人の女が軽い足取りで降り立つ。肩まで伸びた髪を揺らしながら、周囲を見渡す。年齢は十六、七歳ほど。
街を歩いていても、ごく普通の女子高生のようにしか見えない。が、その瞳には年相応の無邪気さではなく、獲物を探すような鋭さが宿っていた――。
「ここが京都かぁ。」
女は小さく伸びをすると、口元を緩める。
「思ったより人、多いじゃん。」
楽しそうに呟きながら、改札へ向かって歩き出す。
――数日前。二人の部下から届いた報告を思い返す。
――『任務は失敗しました。対象は報告以上の力を持っていました。』
――『接触もできませんでした。』
「ほんっと、使えないんだから。」
女は呆れたように笑う。
「まああんな雑魚二人じゃ、最初から期待なんてしてなかったけどね。」
肩をすくめると、人混みの中へ紛れていく。
「ま、だからこの私が来たんだけど。」
その笑みには、獲物を前にした猛獣のような危うさがある。
――改札を抜けた女は、京都の街を気ままに歩いていた。
「ん~……」
目的地を決めているようで、決めていない。そんな足取り。
部下から聞いているのは、ごくわずかな情報だけ。それでも、焦る様子はない。
「ま、そのうち見つかるっしょ〜」
鼻歌交じりに歩きながら、周囲へ視線を向ける。
夜なのに観光客で賑わう通り。並ぶ飲食店。土産物屋。どれも女にとっては興味のないものばかりだった。
その時――。
「……ん?」
ふと、一軒の店が目に入る。ガラス越しに色とりどりのケーキが並ぶ、小さな洋菓子店。
アスピラは店先で足を止め、
「ケーキ屋?」
ショーケースを覗き込み、小さく笑う。
「へぇ……」
並んだケーキを眺めながら、口元を緩める。
「せっかくだし、ちょっと甘いものでも食べようかな。」
何の警戒もなく店の扉へ手を掛けた。カラン、と軽やかなベルの音が鳴り響く。
――アスピラは何も知らない。
数日前、この店で澪華が榮と出会っていたことも。そしてその出会いが、少しずつこの街を動かし始めていたことも。
時系列がおかしくなっていた部分を訂正しました。




