13話 可憐な白髪少女の『名前』
お読みいただきありがとうございます!
週に3回投稿してるので、よかったら見ていってください。(時折、投稿が遅れることもありますが悪しからず)
考察が多いです。
「結局聞けなかったことがあるんだけど、いいか……?」
「え……う、うん」
「異能」のことについて詳しく知りたいのは山々だが、今、一番確かめなければならないのは――
「……あのさ」
少しのしかかった声でそういうと、少女はこちらの聞きたいことに勘付いたのか、明らかに動揺していることが分かった。
大きく見開かれた瞳が、小刻みに揺れている。
「な、なに……!?」
別に脅かすような質問はしないつもりだが。名前を聞かれることに、余程の抵抗があるのか?
まあいい。
「俺はまだ、君の名前を知らない。教えてくれ」
俺は名前を教えたのに、この子からはまだ教えてもらってない。今までの緊張はもう溶けたのだから、そろそろ教えてもらわなければ。
「―――」
ほんの束の間、少女は答えないまま俯いていた。
「えっと……本当に言えない理由があるなら、別に――」
言いたくないなら、それでもいい。もう仕方ない。
諦めて言葉を引っ込めようとした時、少女がゆっくりと顔を上げた。答える気になったのか、淡い黄色の瞳で実直に榮を見つめ、
「……五葉。五つの葉って書いて、五葉」
「五葉、五葉か――、綺麗で可愛らしい名前だな。教えてくれてありがとう、五葉」
「べ、別に名前の評価はいいよ……。でもごめんね、ずっと名前を隠してて」
「あぁ。特に気にしてないから大丈夫だよ」
素直に教えてくれたのだから、それで良いのだ。
怒るようなことでもないし。
そして五葉は白髪をチロチロといじりながら、「あと」と前置きして言葉を続けた。
「私は、簡単には名前を教えない」
「え……?」
「名前を知ることは、その人を知ることだから。本当に信頼できる人にしか教えないの」
眼光を大きくさせ、真剣な眼差しでこちらと目線を合わせた五葉。
「そうか。じゃあ……ありがとうな」
本当に信頼できる人にしか言わないというのなら、俺はかなり信頼されているということなのだろうか。顔を合わせてまだ二回ほどなのに、都合が良すぎる気がするが。
だが、そう至った理由として思い当たる節がひとつなくもない。
……それは、「家族での食事」という出来事だ。
一緒に食事をしていた時、ふと五葉がポロポロ涙を零していたのが見えた。あれが何を意味しているのか。
俺なりの答えは、『家族がいない』ということ。
十中八九合ってるとまでは言えない。が、食事が泣くほど美味しかった、祖父母が優しすぎて感動した。それらの理由で泣いたのであれば、わざわざ隠す必要などないはず。
だとしたら、あの涙は――温かい家族の雰囲気に触れたからこそ、溢れ出てしまったのではないだろうか。
そして、あの澪華という女との関係性は未だに不明だ。五葉が大人であろう澪華を従えていたことから、家族関係であるのは真っ向から否定できる。(子供が大人より立場が上など、普通に考えたらおかしいし)
俺や祖父母が五葉に対して、まるで家族であるかのように接したから――理由はおそらくそれだ。
そう考えれば、知り合って間もない俺達に彼女がこれほど信頼を寄せてくれるのも、必然として納得がいく。
中でも、この 神代 榮 は特に深く信頼されているのかも知れない。俺が意図せぬした行動に、五葉が感銘を受けたのかも――。
「榮?」
ぼーっと床を一点に見つめていた榮だが、突然顔の下から覗き込んできた五葉に思考を遮られた。
彼女は少し心配しているような、困惑しているような、複雑な困り顔の表情だ。
「ん……!? す、すまん、少し考え事してた」
「大丈夫? なんかブツブツと独り言言ってたけど」
「大丈夫大丈夫。ほんとに………」
思考の深追いが過ぎたか。
まあ、とにかく収穫はあった。ひとまず、この少女の名前を掴めただけで第一段階はクリアだ。
しかし、まだ聞き出したいことは残っている。
「最後に一つ聞きたいことがあるんだけど」
「うん。いいよ」
――榮はあのときの疑問光景を思い浮かべた。
公園で、五葉に襲いかかろうとしていた二人の男。
「公園で男二人と相対したとき、覚えてるか? その時、俺はこの目で見てんだ」
「なにを?」
「君はあの二人組に触れてさえいなかった。それなのに、一人は唐突に吹き飛び、もう一人はパニックを起こして逃げ出した。……あれは、君が何かをしたのか?」
問いかけを受けた五葉は、しばらく唇を閉ざしたまま固まっていた。
落ち落ちと流れる沈黙の後、彼女はゆっくりと口を開く。
「一応、異能を使ったの。でも詳しくは言えない……ごめん」
「そうか。無理には聞かないよ」
本当はより詳しく知りたかったが、彼女のことを思ってそれ以上は踏み込まなかった。
「……でもね」
ハッとして榮が顔を上げる。五葉はどこか遠くを見るような目で、静かに続けた。
「その時に伝えたかもしれないけど、あの人たちは、私を傷つけようとした。だから、止めただけ。それ以上でも、それ以下でもないよ」
彼女の言葉は淡々としていた。まるで当たり前のことを話すように。
しかし、その「止めただけ」という一言の裏に、あの場で見せつけた圧倒的な力が隠されていることは間違いない。
――壁掛け時計の針は、いつの間にか十一時を疾うに過ぎていた。
「あれ、もうこんな時間か」
長々と質疑応答し過ぎてしまった。だが、結果的に聞きたいことは聞けたから良しとしよう。
「っと、そろそろ寝るか」
「そ、そだね」
榮は銀白色の押し入れを開けた。中から布団を取り出しながら口を開ける。
「俺の部屋で寝てもいいけど……いや、さすがに狭いか」
なにせこの部屋は六畳しかないのだ。家具は少ないが、参考書や置物が雑然と散らばっているようなきったねえ部屋である。こんな部屋に、初めて家に訪れた女の子に寝られるわけには――
「榮はどこで寝るの?」
「俺?」
榮は少し苦笑しながらも答えた。
「俺は居間でも寝られるし、この部屋でも平気だけど。五葉はお客なんだから、ちゃんとした部屋でゆっくり休んでいいよ」
榮の返事に、五葉は賛成できないと言わんばかりに、眉をハの字に下げた。
「でもね、榮」
「ん?」
「私は――」
一度言葉を区切り、花が咲いたような満面の笑顔で榮を見つめてくる。
「榮の近くにいた方が落ち着くんだ」
「え……?」
五葉は照れた様子もなく、ただ自然に事実を伝えるように話し続けた。
「理由は分からない。でも……一緒にいると、なんだか安心するの」
「そ、そう言われると、断り難いな」
かといって、特に断るような理由はないけど。
「……だめ?」
「いや、だめじゃないけどさ。じゃあ、この部屋に布団をもう一枚敷こう」
押し入れからもう一組の布団を取り出し、自分の布団を人一人分離れた場所へ敷く。
「じゃあ、えっと、お休み……」
「うん。お休み、榮」
五葉は俺の部屋を嫌がる素振りも見せず、安心した様子で静かに眠りについてしまった。
(ふぅ……ひとまずこれで終わったな。――一日が)




