↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
特異社会の『傍観者』として  作者: はるぱる
第一章『日常裏の世界への入口』
14/75

11話 『家族』の温もり

お読みいただきありがとうございます。


日曜日以外の週3で投稿しております。よかったら、暇なときや興味があったときに見ていってください。


「榮のお家に、行かせてもらえないかな」



少女は静かにそう言うと、不安そうな表情で榮を見据える。



「あ、えっと……」



唐突のお願いに、榮は困惑する。しかし少女の瞳に打算や嘘は感じられなかった。



――澪華は東京に行っている。今日は家に誰もいない。



脳裏に少女が述べていたキーワードのようなものがよぎる。

しかし、同時に新たな疑問が浮かぶ――



(……この子、普段はどうやって暮らしてるんだ? あのときランドセルを背負っていたし、学校には通ってるのか。親は……話してみ――)



そこまで考えたところで、榮は思考を打ち切った。


今それを踏み込むのは違う気がする。彼女にも、触れられたくない事情があるのかもしれない。



軽く息を吐き、少女を見つめ返す。



正直いって、不安はある。なにせ異能という存在を今しがた知ったばかりだ。

けれど、目の前の少女が『危険』な人物だとはも(・)う(・)思えない。

俺のことを助けてくれたのは事実でもあるし。



少女の真っすぐな瞳を眺めた。



さっき見せた笑顔。祖父母に丁寧に挨拶をしていた姿。

やはりどれも演技には思えないな。

よし――



「分かった……」



榮の答えに、少女の肩がぴくりと跳ねた。



「……えっ?」


「ただし、俺一人じゃ決められない。じいちゃんとばあちゃんにも聞いてみる。それで二人がいいって言ったら――一緒に来てもいい」


「ほ……ほんと?」


「ああ、でも約束はできないけど」


「ううん、ありがとう」



そのニコッとした笑顔はどこか嬉しいような、安心したような笑顔にも見えた。





――その後。


榮と白髪少女は公園から出て、夕日に染まる住宅街を並んで歩いていた。



「………」



そんな時間が流れていた。


そこでふと、一人の若い女が向かい側から歩いてくる。


榮と同じくらいの年齢、背丈。髪は薄い金髪で右耳にはピアス。一言で言えばギャルだ。

どこか気だるそうに歩きながら、片手を制服のポケットに突っ込んでいる。その表情には退屈そうな笑みが浮かんでいた。


彼女とすれ違う、まさにその一瞬――彼女の視線が白髪の少女を捉える。



「……あ」



彼女から小さな声が漏れ出て、白髪の少女も無言のまま視線を返した。


二人の間に張り詰めた空気が流れているが、麗しい金髪を風に靡かせた女は口元をわずかに吊り上げ、


「へぇ」と小さく呟き、あっけなく興味を失ったようにそのまま歩き去っていった。

榮は遠ざかっていく気だるげな靴音を、背中で聴く。



「知り合いか?」


「……ううん」



少女の答えに榮は深く追及することはせず、「そっか」とだけ返して歩き出す。




――夕焼けは少しずつ色を落とし、街には明かりが灯り始める。自宅の周辺に入ると、どこからか夕飯の香りが漂ってきた。



「もうすぐ着く」



辺りを見回す少女。どことなく落ち着く雰囲気に静かに目を細めていた。

やがて、和風な一軒の家の前で榮が足を止める。



「ここが俺の家」



窓から漏れる温かな明かり。庭先に咲く季節の花。初めて訪れるはずなのにど(・)こ(・)か(・)懐(・)か(・)し(・)さ(・)を(・)感(・)じ(・)さ(・)せ(・)る(・)ような、穏やかな家。



「……素敵なお家だね」


「ありがとう」



そう言って榮が千本格子の扉を開けると、家の奥から祖母の声が聞こえてきた。



「ただいま」


「おかえり榮」



廊下へ出てきた祖母は、榮の背後に立つ白髪の少女に気付き、少しだけ驚いた表情を浮かべる。



「あら?  さっき公園で会った子だね」



少女はぺこりと頭を下げた。



「……こんばんは」


「こんばんは」



祖母は優しく微笑み返す。その光景に、榮は少し照れくさそうに頭をかいた。



「あのさ、ちょっとした話があるんだけど」



榮がそう言うと、祖母は「どうしたの?」と不思議そうに首を傾げた。

俺の声に反応したのか、奥の居間にいた祖父も新聞を畳み、こちらへ歩いてくる。



「何かあったのか?」



榮は後ろに立つ少女へチラリと視線を向けた。少女は肩をすくめ、少し緊張した面持ちで佇んでいる。



「実は、この子が今日だけ家に上がらせてほしいって。俺ともう少し話がしたいらしくてさ……」



祖父母は顔を見合わせた。



「もちろん、俺一人じゃ決められないと思って……だから、二人が嫌なら無理には――」



果たして許可してくれるかどうか……



「私は構わないよ」



榮が言い終わる前に、祖母は和やかに微笑んだ。



「困ってる子を玄関先で帰すなんて、かわいそうじゃない」



祖父も深く頷き、破顔した。



「榮が連れてきた子なんだろう?  なら、わしらに異論はないよ。歓迎する」



少女は驚いたように目を見開いた。



「いいの……?」


「もちろんよ。遠慮しなくていいから、さあ、中へおいで」



少女はしばらく棒のように立ち尽くしていたが、やがて小さく頭を下げ、



「……ありがとうございます」



その声は、どこか途切れがちに、けれど深くほっとしたように響いた。

そっと靴を揃えて脱ぐと、ゆっくりと玄関へ上がる少女。



「……お邪魔します」



まだ少し緊張を孕んだ声。

榮は苦笑いを浮かべながら、優しく声をかけた。



「そんなにかしこまらなくていいよ」



祖母は優しく笑い、少女を居間へ案内する。祖父も穏やかな表情でその後を歩き、榮はそんな二人の様子を感慨深く見つめた。


二人は何も聞かなかった。少女の家族のことも、どうして一人なのかも。


きっと二人とも、気になっているはずだ。少女の佇まいを見ていれば、何か事情があることぐらいは察しがつくだろう。


しかしそれでも、初めて会ったばかりの相手に無理に聞くことではない……そう考えているのかも。



(……じいちゃんも、ばあちゃんも。やっぱり優しいな)



胸の奥が少しだけ熱くなるのを感じながら、榮も二人の後を追って居間へと向かった。





――居間へ入ると、食卓にはちょうど夕食の準備が整えられたところだった。


祖母は振り返り、にこりと微笑む。



「ちょうどご飯ができたところなの。よかったら、一緒に食べていって」



促されるまま、少女は静かに席へついた。目の前には、湯気を立てる出来立ての料理が。



「「「いただきます」」」



◇◇



四人はパン、と手を合わせ、少女も自然にその言葉を口にし、料理へ箸を伸ばす。


デミグラスソースが掛かったハンバーグ。

一口食べると、優しさに溢れる味が口いっぱいに広がった。



「……おいしい」



思わず漏れたその一言に、祖母は目尻を下げて嬉しそうに笑う。



「そう言ってもらえると、作った甲斐があるよ。いっぱいあるから遠慮しないで、好きなだけおかわりしておくれね」



続けて祖父も嬉しそうに言葉を足す。



「君はまだまだ育ち盛りなんだから気にせず食べるといい。好き嫌いがなければ、いくらでもおかわりはあるぞ」



賑やかになった食卓に、榮は思わず笑いを漏らした。



「じいちゃん、そんなに勧めたら困るって」



食卓に小さな笑い声が広がり、少女は三人の顔をじっと順番に見つめていた。


楽しそうに笑う榮と、それを優しく見守る祖父母。何気ない会話と、絶えない笑顔。

それは少女にとって、まぶしすぎるほどの光景。


――胸の奥が、じんわりと熱くなる。その温もりに包まれた瞬間、少女の瞳にふっと光が溜まり、小さく潤んだ。



「………」



ぽたり、と一粒の涙が膝の上へ落ちる。少女は慌てて袖で目元を拭った。



「ご、ごめなさ――」


「謝らなくていいんだよ」



祖母は理由を聞くこともせず、自然に続けて、



「ここでは、ゆっくりしていきなさい」



どこまでも温かいその言葉に、少女はあふれそうになる涙を必死にこらえながら、強く頷いた。



「……はい、ありがとうございます」



それは、心の底から安心したような声であった。少女はそっと、もう一度箸を手に取る。



「……いただきます」



小さく口を開き、料理を一口、また一口と噛みしめるように味わっていく。


食卓を包み込む、祖父母と榮の穏やかな笑い声。少女はその温かな声に耳を傾けながら、微かながらに笑いを見せた。

頬を伝っていた涙も、いつの間にか止まっている。


こんなにも温かい時間が世界にあることを、少女は初めて知った――。



「優しいなぁ……この家族は……」







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。