9話 見えざる力
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神代 榮はここから知ることになる――
◇◇ 二人組の男の視点
公園を飛び出した二人の男は、人気のない路地裏に辿り着く。
「はぁ……はぁ……」
肩で息をしながら、壁にもたれかかる。先ほどまでの威勢は消え失せ、二人の表情には焦りと恐怖だけが残っていた。
「なんだったんだ……あのガキ」
吹き飛ばされた男が、震える声で呟く。
「ただの子どもじゃねぇ……」
もう一人の男も黙ったまま唇を噛んでいる。
あの白い髪、淡い黄色の瞳。そして、何も触れられていないはずなのに自分だけ吹き飛ばされた不可解な力。
思い出すだけで背筋が凍るように冷たくなった。
「あれが、本当に……」
言葉を続けようとした、その時――
『──で?』
突然、頭の中に若い女の高い声が響く。
『終わったんなら、早く報告してくんない?』
その声で反射的に姿勢を正す二人。
(……任務は失敗しました。すみません……)
『……は? マジで?』
少し呆れたような笑い声が混じり、嘲笑した女。
『あんなガキに負けたわけ? 弱っ』
(……対象は、報告以上の力を持っていました。そして……接触もできませんでした……申し訳ございません)
――一刻の沈黙が流れたが、やがて女は小さくため息をつき、
『あー、もういいや。やっぱあんたらじゃ無理だったか。……帰れ、あとは私がやる。変に足引っ張られてもダルいしさぁ』
と、女の声はそこで途切れる。
(クソッ……! あの女もガキも……ちっ。――だが、何も言えねぇ)
二人はしばらく、その場に呆然と立ち尽くしていた。
少女に植え付けられた恐怖。そして、あの声の主への恐怖。どちらが上なのか、は自分たちにも分からない。
ましてや、声の主に反抗しようものなら、間違いなく瞬殺されるからこそ恐怖に怯えているのだ。
「こんな仕事、引き受けるんじゃなかった……」
男二人は、少女と声の主に対して恐怖心と苛立ちを覚えながらも、黙々と路地裏を後にしたのであった。
◇
――その一方で。
公園には、先ほどまでの騒ぎが嘘のような静けさが戻っていた。逃げ惑っていた人々も恐る恐る戻り始め、今ではブランコで子供が遊んでいる姿もある。
「……うーん」
榮は少女を直視したまま、足を動かせずにいた。
――あの瞬間。一瞬だけ、彼女の淡い黄色の瞳が光ったこと。男だけを吹き飛ばした見えない力。虚勢を張っていた男たちが、少女を見た途端に『恐怖』で後ずさった姿。
どれも常識では説明がつかない。
「……お前、一体何者なんだ」
「えと、難しい質問だね……」
「ごまかさないでくれ。さっきの変な力は何だった。それに、あいつらは何者なんだ」
「……私にも、突然のことだから詳しくはわからない。でもあの人たち、普通の人じゃないと思う」
「普通じゃない?」
「うん」と少女は首を縦に振った。
「異能を持ってる人たち……だと思う」
「……異能?」
聞いたことがないわけではない。でも、それは現実とは結びつかない、都市伝説とか陰謀論の話だと思っている。
「世間ではほとんど知られてないから……ね。都市伝説とかだったり」
一瞬考え込んでから、少女に尋ねてみる。
「……待ってくれ。えっと……まず、その異能って何なんだ?」
「異能はね……生まれつき持っている、特別な力のこと。人によってできることは全然違うの。火を操る人もいれば、水を操る人もいる。人の心を読める人もいるし、身体能力がすごく高い人もいる――ごくわずかな人だけだけどね」
そんなものが本当に存在するのか。信じがたい………けれど。
「……じゃあ」
榮はパッと少女を見据えて言い放った。
「お前も、その……異能を持ってるのか?」
風が静かに吹き抜け、白い髪が揺れ、夕暮れの光が淡い黄色の瞳に映り込む。
「……そうだよ」
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