チュバってくれない?
「しかしどうしたものか…。」
昼下がりの小さな公園。二人用ベンチの上で、うなだれているカードゲーマーが一人。
そう、この俺、松ノ上甲聖である。
いきなり家を飛び出したのはいいものの、正直、隆二に話すのが億劫になってきたのだ…。ほら、なんかそ
の、遊ぶ約束した日の前日に行きたくなくなるやつ…みたいな…?
要するに恥ずかしいのだ。
ううむ我ながら情けない。19年間生きてきて、恋なんてろくに経験したことがない。ましてや恋愛について誰かに話すなどもってのほかだ。こんな純粋無垢な少年が恋心を曝け出す、そんなこと許されるはずがない…!
「うん、仕方ない」
なんとか理由を見つけ、恋心の秘匿を遂行することに決定した。晴れやかな罪悪感が襲ってくるが、一旦無視することにする。
「お~い、甲聖~!!」
聞き慣れた野太い声が聞こえる。
目線を上げると、隆二が見えた。そして後方にはアメフト部の連中が…。
ん!?
なぜアメフト部がここにいる。それも揃いも揃って皆さまご登場だ。
「よう甲聖!元気してたか~」
いつもより馴れ馴れしい隆二。嫌な予感がする。
「遅かったじゃないか。てかあそこの方々は何…?」
「ああ、わりいわりい。俺アメフト部入ってさ」
それが理由になると思っているのか…?こいつのいい加減さには心底呆れる。
「そーだったのか。で、なんであいつらがいるんだよ」
「いやあ、今日は甲聖に呼び出されて参上したわけだけど、実はちょっとお願いがあってね…。」
「なんだよ。」
「実は今度の大会、演奏してくれる予定の吹奏楽部サークルがあったんだけど、チューバの子が体調崩しちゃってね…。ほら、甲聖って高校の時チューバ吹いてただろ?やってくれないかなーって」
なるほどそういう魂胆か。しかし俺とて譲れない。
「なんで俺が…。すまんが他の人に頼んでくれ。」
「そこを!そこをどうにか!」
しつこく食い下がる隆二だが、俺にもプライドがある。俺に大して見向きもしなかったアメフト部に手なんぞ貸してやるか。
「ねぇ、君チューバ吹けるんだって!?」
突然後ろから声がした。振り返るとそこには彼女が立っていた。
「あれ?君、会ったことあるよね!ほら、新歓の時!」
思考が停止し、刹那、フルスピードで稼働する。加速する思考回路で導き出した俺の答えは──
「ッス。」
誰か俺を殺してくれ。
死にかけの俺に、なおも彼女は続ける。
「お願い!少しでいいから手を貸してくれないかな?」
「あ、はい。」
火照る頬に思考は焼き尽くされていた。




