薬草と虎 1
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「こりゃ酷い傷だ。しかしうちでは治してあげられんよ」
無事街に着き、早々に怪我をした男を医者に見せたが、開口一番に断られる。
大男が医者に掴みかかったところで、三人がかりで止めに入った。
「落ち着けって!で、なんで治してもらえないんだ?そんなに酷いのか?」
大男の右腕を抑えながら孫権が言う。
すんでのところで逃れた医者は、その迫力に怯えながらも答えた。
「薬草がないんじゃよ」
「薬草を取ってくればいいんですか?」
左腕を抑えながら施然が尋ねる。
「薬草の群生地に虎が出るんじゃよ。それからずっと切らしておる」
「虎か。それは厄介だな」
陳武が後ろから大男を羽交い絞めにしながら言う。
「そんなもの楽勝だ。俺が採ってくる」
大男が言って鼻を鳴らし、全員の手を振り切った。
「場所を教えろ。今すぐ行く」
大剣に手をかけたところで、孫権がその手を止める。
「いや、俺たちで行く。また追手が来るかもしれないだろ?」
言われて大男の手が止まり、孫権の方を見る。
「大事な兄貴の傍にいてやれ、何かあったら悔いても悔やみきれないだろ。俺たちが間違いなく薬草を採ってきてやる」
「……絶対か?」
大男が孫権の方を睨みつけるように見る。
大人でさえも肝がつぶれそうなほどの迫力であったが、孫権は怯むことなくその視線を正面から受け止めた。
「絶対だ。任せておけ。兄貴を想う気持ち、俺にも痛いほどわかるからな」
孫権の視線を大男も受け止める。
しばし思案するように見つめあっていたが、やがて大男は静かに頷いた。
「……頼んだ」
「歴陽向かうはずが、とんだ寄り道ですね」
山道を歩きながら、施然が言う。
「多少道をそれた方が、俺たちの追手がまだいた場合、惑わせることができていいんじゃないか」
「確かにそれもありますけど、わざと置いてきたでしょう。あの大男」
施然の言葉に孫権がニヤッと笑う。
「俺虎一度見てみたかったんだよな」
「それもあるんでしょうけど、っていうかそんなことの為に来たんじゃないですよね?」「虎の毛皮で上着作ろうぜ!かっこいいだろうな」
「本当にそれ目的で来てそうですけど違いますよね。あの大男が脚怪我していたから置いて来たんですよね」
「腰巻も捨てがたいか、どっちがいいと思う?施然」
「孫権殿?一応言いますけど虎ってすごく狂暴なんですよ?気を引き締めていかないと。陳武殿もなんか言ってください」
どこか楽しげな孫権に呆れつつ朱然が陳武に尋ねるが、
「この草とこの草食べられるぞ。あとこれなんかもけっこういけるな。晩飯に使うか。後は鳥捕まえられるといいが、施然は弓で鳥捕まえられるか?」
陳武は陳武で、脇道で野草取りをしていた。
一抹の不安を覚える朱然であったが、陳武に関しては実際食事の担当をしてもらっている都合上あまり文句も言えない。
「鳥は数矢打てば何とか当てられると思います。けど虎に遭遇した時用に持って来たので無駄遣いはできませんよ。ちなみに陳武殿虎と対峙した経験は?」
「幸い今んとこ遭ったことねぇんだよな」
やけに自慢げに言う陳武に、施然が呆れて言う。
「今の私たちにとってはあまり幸いではないですね。陳武殿は虎退治未経験と」
「っていうか言い出しっぺの孫権様こそ虎狩りの経験は……」
陳武に問われて孫権が同じく自慢げに答える。
「兄上の虎狩りにこっそりついていったことはある」
「え?まさか孫策様と虎退治を?」
驚く施然に間髪入れず孫権が自信満々に返す。
「見ていただけだ。あれはすごかったな。兄上一発で虎を次々仕留めて」
しみじみ思い出すようにいう孫権であったが、
「それって……つまり全員未経験ってことですよね?」
一気に不安になる施然。
「でも陳武強いから何とかなるだろ」
楽観的な孫権。
「そんな風に期待されちゃ頑張るしかないか。運良く出遭わないかもしれないしな」
お調子者なのか破れかぶれなのか判断しづらい陳武。
「というわけで、もし出食わしたら陳武が前衛、俺たちが後方支援で弓を打つから。頑張ろうな、特に陳武」
「ですよね」
孫権の指示を受け「とほほ」となりつつも覚悟を決めた陳武。
それを見て「出会った時といい、多分この人巻き込まれ体質なんだな」と察した施然であった。
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