薬草と虎 2
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「酷い目にあった」
陳武がボロボロになりながら山道を下っていく。
その手には先ほど退治した虎の皮。
虎ごと運ぶには重すぎると、流石に虎の肉を料理に使うのはあきらめ、陳武が器用に虎の皮だけをその場で剥いで持って帰ることにした。
そんな陳武に薬草を抱えた孫権が労いの声をかける。
「虎をきっちり仕留めて流石だったな。陳武」
「お褒めにあずかり光栄です」
こう答えつつも虎退治よりも、後方支援の矢を避ける方が大変だったとは言えない陳武。弓の援護が助けになっていたのか、足手まといになっていたのかわからない程であった。
「しかし人相手とは違って行動が予測できない分、連携が難しいですね。陳武殿が巧く動いてくれましたが、もっとこの辺は訓練をしないと」
孫権と同様に薬草を抱えつつも先ほどの虎退治を振り返り、問題点を分析する施然に、大きく頷く陳武。
「俺に矢が刺さらないうちに、是非お二方には弓の腕前の上達をお願いしたいものだ」
「陳武殿がそのまま避けるのが巧くなってくれてもいいんですけどね」
思わず本音が漏れた陳武の言葉に、ややむっとして施然も返す。
それに気づいた孫権が取りなすように言葉をはさんだ。
「そうだな、次は陳武の髻に矢を刺さないようお互い気を付けよう」
「え?って……あっ!なんか髪に刺さってる!いつの間に!」
孫権の言葉に陳武が頭に手をやる。
すると頭の天辺で髪を束ねた丁度結わき目の場所に、まるで簪の様に矢が一本刺さっていた。
「あぶなっ!もう少しで頭に刺さるところだったじゃないですか!」
「陳武似合ってるぞ!」
「ってことは孫権様ですね!」
「もう少しおしゃれな矢羽根にしておけばいい簪になったな」
「そんな簪嫌ですよ!」
にこにこ言う孫権にきっぱり断る陳武。
「孫権殿、それは流石に陳武殿も可哀そうです」
「えーそうか、残念だな」
流石に陳武に悪くなって施然も援護に回る。
「陳武殿ならいい小刀の方が料理の役に立つので喜びますよ」
「確かに!」
「……」
施然の言葉に「何度も言うけど俺料理人希望じゃないんだよな」と陳武は思いつつも、でも実際貰ったら嬉しいかも?と思ってしまった陳武であった。
「薬草は?」
山道を出たところで、大男が出迎える。
「この通り、採ってきたぞ」
「……良かった」
孫権の言葉に施然も抱えてきた薬草を見せる。
大男は安堵の表情を見せると崩れたようにその場に座り込み、孫権が傍に駆け寄り声をかけた。
「それよりお前此処に居ていいのか?兄貴は……」
「追手ならこれで全部だ。もういない」
言った大男の横。
駆け寄ってみると、倒された賊らしき人物らの屍が累々と積まれていた。
「足を怪我しているのにこれを全部……か」
陳武が思わず息をのむ。
その言葉に大男が忌々しげに答える。
「不意打ちを食らわなければ、こんな奴ら大したことない」
「という事は……知っている奴らなのか」
「……」
孫権の問いに言いたくなさそうに口を紡ぐ大男。
それを察して孫権が施然に持っていた薬草を渡し、大男の手を引く。
「行こう、お前の兄貴のところに。早く薬草を届けてやらないと……おっと」
孫権が大男の身体を支えてやろうとして、さすがの体格差によろめく。
それを見た陳武も慌てて施然に持っていた虎の皮を渡し、大男の傍によって肩を貸す。
「孫権様じゃ無理でしょう」
「陳武は本当に何かと役に立つな、もちろん施然も」
孫権の分の薬草を追加され、更に虎の皮も渡されて視界がいっぱいになった施然にも声をかける孫権。
そして、
「で、そういえばお前の名前を聞いていなかったんだが、良かったらお前と兄貴の名前、教えてくれないか?」
孫権が医者の家に向かいながら尋ねる。
大男はしばし思案としていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「俺の名は周泰、そして兄貴の名は、蒋欽。俺の義兄弟だ」
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