副編1
《日崎 セト視点》
中学の頃、事故にあった。
バスの横転事故で、乗っていた数名全員が重症。
幸い、俺は事故から数日後に意識が戻り、後遺症もなかった。
…ただ、俺はその時のショックで事故以前の記憶がない。
これまで歩んできた、約13年間。
家族の名前も、友達との思い出も。
全部、誰かから聞いたハリボテの記憶。
あんな事があった、こんなことをした。
聞いたところで、実感なんてひとつも無い。
俺は、自分のことですら、何一つ思い出せなかった。
「うん、健康状態も良好で異常なし。夏休み明けから問題なく学校に通えるけど…よかったら、先生の知り合いがいる学校に転校してみない?」
夏休みを機に転校したのは、病院の先生から勧められたからだ。
新たな環境で、心機一転したらどうかと。
…正直、どうだっていい。
友達が欲しいわけでも、居場所を作りたいわけでもない。
必要最低限。
大切なものを増やすと、失った時に苦しいと。
どうせ一瞬で忘れるなら、覚えているだけ無駄だと。
13年間の記憶がぽっかりと空いた俺は、どこか冷めていた。
『友達、できるといいわね』
だけど、登校初日。
玄関まで見送りに来た母さんが、そう言って手を振ったから。
『うん、どうだろう。あんまり期待しないで~』
へらりと笑って見せた。
不自然じゃなかっただろうか。
ちゃんと、笑えていただろうか。
…笑顔って、どうやるんだっけ。
『周りに優しくね。セトなら大丈夫よ!』
そう声をかけられ、じゃあ、と家を後にする。
ドアが閉まるまで手を振ってくれていた母さんの笑顔に、俺の表情は間違っていなかったと安堵した。
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2人に出会ったのは、その日の放課後だった。
「おいそこの、ちょっと来い」
髪の毛が金だったからか、ピアスを付けていたからか。
すれ違い様にいちゃもんをつけてきた生徒…
おそらく先輩に裏庭に連れていかれたのが始まりだ。
「転校生くんだって?初日に金髪はナメてんじゃん」
言われながら髪の毛を掴まれる。
…鬱陶しい、触んな。
集団でしか、群れることでしか存在意義を見いだせないカスが。
お前らお互いのこと、いつまで覚えてられんの?
いつまで、大事に想えんの?
俺の髪を掴んでいた奴が手を放し、代わりに周りのヤツに声をかけた。
「お前、一発入れてやれよ」
「え、俺?やだよ、センコーにチクられたらお前身代わりになってくれんの?」
ははは、と数名の笑い声が響く。
…あぁ、今ですら、大切になんてしてないか。
自分が一番大事で、人を平気で盾にする。
一人じゃ寂しくて生きられないクセに。
弱いやつを寄ってたかってカモにしてんじゃねえ。
1人で浮いてるから。
友達がいなさそうだから。
ターゲットって、そうやって決まっていく。
無意識に、誰かの思うカーストに当てはめられた最下位に。
もう、早くここを去りたい。
こっちからイッパツ入れれば、尻尾巻いて逃げそうだな。
万一大人に泣きつかれても、正当防衛通りそうだし。
「…何してるんスか」
反射的に拳が出そうになった時、冷静な声に手が止まる。




