本編63
『 別の世界から 』
さっき久遠さんに聞いたこと、本当だったんだ。
疑ってた訳では無いけど、確証がなかったから。
……俺は心のどこかできっと、シュリと天城さんは違う人なんじゃないかって期待してた。
違う人なら、帰らなければいけない場所はないし。
このまま、ウチにいればいい。
俺たち以外の誰もがモニターに釘付けの中、
「ふうん、急だな。お前、何を知ってんだ?」
珍しく喧嘩腰のシバが問いを続ける。
「答えろよ」
セトは何を知っていて、何を選んだんだろう。
俺はその過程を知りたい。
だって俺の気持ちを知っているセトが、シュリが旅立つことを知って連絡してこないわけがないのだから。
……こいつは、そんな奴じゃないから。
「…べつに、何も知らないよ」
セトの視線は、まだ誰とも交わらない。
俯き気味で、どんな表情なのかさえも計り知れない。
「なら、強行突破でシュリちゃんに直接聞きに行くまでだな」
シバの言う通り。
俺たちをおさえているおっさん達もモニターに気を取られているから、言葉通り行くなら今がチャンスだ。
気づかれないように、少しだけ指先に力を入れた。
いつでもいける、と頷けば、気づいたシバが小さく息を吐く。
「展望ゲートは103階。俺はダイチを連れて行くけど、文句あるか?………ハル」
その言葉に、セトの顔がバッと上がった。
「え」
でも、俺が想像していたのとは全く違う顔で思わず声が漏れる。
なんでオレらを足止めしてるお前が。
シュリという目的の宝物の前で、門番のように邪魔してきたお前が。
「どう、して……」
泣きそうなんだよ。
『最近おかしいんだ』
ああ。
昨日、シバが言っていた。
その意味がやっとわかった気がする。
セトも、シュリも、なんならシバも。
今まで一緒にいた時間が、思い出が、
当てにならないような、最初から作り直しになるような。
たしかに知っている相手なのに、この違和感はなんなんだ。
オカシイのは、俺なのか?
「……リョウ、だめだ。わかってよ…」
“リョウ”
最近、どこかで聞いた名前。
微動だにできない俺を横目に、セトはシバの肩を掴む。
そのまま左手の拳をシバの胸に振り下ろした。
その衝撃で、シバを囲んでいたおっさん達が怯み、後ろ手が外れる。
「だって、ダイチが………」
俺……?
俺が、なんだ……?
何度か振り下ろされた拳を、今度はシバが掴んだ。
タイミングよく掴まれて止まった腕は、パシッと乾いた音を立てた。
一進一退、とでも言うのか。
数秒の沈黙の後、絞り出すような声が届く。
「ダイチが、死んじゃう……だから、行かせられない!」
「…は?」
その目には、涙。
今にも零れ落ちてしまいそうなくらい、俺の距離からでもわかるほどに溜まっている。
セトの言葉に目を見開いたシバも、その場に固まった。
俺が……死ぬ?
初めて見た、友達の泣き顔。
とても嘘を言っているようには思えない。
もしかして、少し前から続いている、得体の知れない心臓の痛みって…
「シュリに、関係してるのか……?」
そしてなぜ、セトが知っているのか。
「……だから行かせられない。シュリちゃんもわかってる」
「……………」
シバも薄々、あの症状のことだと感じているのか、口を閉ざしていた。
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次話から副編(日崎セト視点)になります。
ダイチとシバが動いている裏で、
ただの旅行をしていたわけではなかった彼の
苦悩や葛藤に触れつつ進んでいきます。




