副編2
それは、偶然か、運命か。
上級生に絡まれているところを、通りかかったアイツが割って入ってきたこと。
「お、おい、探したぞ!」
結果振るわず、2人して絡まれた俺たちを見つけだしてくれたアイツのこと。
名前も学年も知らない。
それはお互い様だった。
それでもお前らは、俺を見つけて、助けてくれた。
『周りに優しくね』
朝の母さんの言葉が頭に響く。
優しくって、どうしたらいいんだろう。
優しさって、いなくなった時に心を痛めないよう、相手と適度な距離をとることだと思っていた。
存在が心の中で、頭の中で。
大きくなればなるほどに、失った時の代償は大きい。
…だから、誰の記憶にも残らないように。
いつの間にか忘れられてしまうように。
生きていこうと思っていたのに。
俺は最後に来てくれた、しゃがんで今にも吐きそうな彼に近づく。
『ありがと、助かったよ~』
それは本心だった。
先輩を殴っていれば大惨事だし、喧嘩になっていればもっとやばい。
転校初日に上級生とケンカしたやつ、なんて噂になったら最悪だったから。
……と、それだけじゃない。
俺は見返りも求めずに体を張ってくれた2人に、まだ数分しか関わってないのに、嫌われたくないと思った。
優しさがわからない分、せめて怖がらせないように。
友達になってよ、と初対面で無茶な希望を言葉にした。
それも、本心だったと思う。
…本当は怖かった。
忘れられていく自分が、誰かの記憶から薄れていく自分が。
自分だけが覚えていて、相手の心の片隅にもいなかったら。
……悲しいだろ。
だったら、最初からいない方がマシだ。
記憶が無い俺だから、既に誰かを傷つけているであろう俺だから。
誰かに忘れられてしまう俺を、俺が忘れてしまう誰かを。
これ以上増やしたくなかった。
『ダイチでいいよ』
『……シバでいい』
…だけど。
なんでかわからないけど、この2人ならいいかって思った。
勝手に入ってきて、助けに来て。
俺の心に入ってきたなら、責任取れよ。
……その代わり、
『セトって呼んで~』
俺も、お前らの責任取るから。
絶対忘れないし、忘れさせない。
『E組って遠!昼一緒に食うの大変じゃん』
一見、真逆なタイプに見える2人。
クールでちょっと悪そうなシバと、学級委員でもしてそうなおせっかいマジメなダイチ。
初対面の印象はそんな感じで。
『2人は仲いいの?』
単純に口をついて出た疑問。
『いや、そもそも俺とダイチも今初めて話したけど』
返ってきた答えに、思わず笑ってしまった。
絡まれている俺を見かねて割って入ってくれたシバも。
さらにそれを放っておけず来てくれたダイチも。
『まじか~2人とも、おもろ~!』
『どこがよ?』
『お前大丈夫か?』
呆れ交じりに笑う2人は、どこか似ている。
それはきっと、バカみたいに優しくて。
俺みたいなのでも拾い上げてくれると、無意識に思った。
…だから甘えたんだ、俺は。
『まあ、とりあえず校舎に戻ろうぜ』
『行くよ、セト』
2人が俺に向けてくれた初めての笑顔、今もあの瞬間と同じ…
『……うん』
いや、あの時より鮮明に思い出せる。
太陽みたいに笑うダイチと、月のように微笑むシバのこと。




