本編37
そこからの生活は、男3人でなかなか大変だった。
が、意外と楽しめていた。
あの日からもう3年。
あの事故の後、俺は兄貴の家から必要なものを纏め、ハルとリョウを引き連れて東京に戻った。
会社には事情を話し、できる限り定時退社と休みの確保をしてもらえることになった。
幸い、会社の皆は理解があるやつばかりで、俺の待遇に文句を言う人はいなかった。
「よいしょ、と」
土曜日。
俺は、兄貴の家から持ってきたセイコさんの日記と薬手帳を取り出す。
【5/15 体調良好、体育は見学】
【5/16 夜中に2回ほど咳、昼間は呼吸が安定していた】
【5/17 リョウと縄跳び、10分ほど】
【5/20 アマネに会う為、二人は留守番。見守りカメラで様子見。帰ったら体調確認】
・・・・
事細かに、その日のことが書かれている。
……ハルの、心臓の病気が発覚したその日から。
引き取った兄貴の子供、双子のうち兄のハルは、生まれつき心臓の病気を抱えていた。
余命20年。
産まれて3ヶ月で下された診断結果は、あまりに残酷で。
最初のページには、兄嫁の絶望の殴り書きが残っている。
本人には病気のことだけを伝え、余命は言わないようにしていると書いてあった。
…そりゃそうだ。
20年しか確約されないなら、勉強も恋愛もクソ喰らえってなるわ。
そうならないよう、両親なりの配慮だろう。
当たり前にみんなが描くのと同じ、将来を考えてもらうために……。
「ショウさん」
セイコさんにならい、昨日の様子を書き足し終わった時、ハルとリョウが揃って顔を出す。
俺を呼んだのは、ハルの方だ。
「お?どした?」
返事をすれば、揃って近寄って来て、リョウが1枚の紙を渡してきた。
「このアパートで、来月七夕の竹飾るんだって。ショウさんも書いてよ」
ああ、もうそんな時期か。
リョウから紙を受け取る。
オレンジと白の両面紙は、どうやら折り紙を縦に切ったもののようだった。
「おう、今日中に書いて渡すわ」
そう返事をすれば、2人は少しだけほっとした様な顔をした。
俺が嫌がると思ったんだろうか?
意外とこういうイベント事は好きだ。
…自分ひとりじゃ恥ずかしくて参加しないけど。
「お前らは何書いたん?」
セイコさんの日記をしまいながら、軽く問う。
すると2人は一旦お互いに顔を見合せ、また俺の方を見た。
「俺は、人の役に立てるようにって書いた!」
ハルは照れたようにはにかむ。
「おー偉い偉い、ハルならなれるね」
頭を撫でれば、嬉しそうにぎゅっと目を瞑った。
小学生4年生で、人の役にって…。
俺なんて、パトカーになりたいとか書いてた気がするぞ。
機関車だったかもしれねえ…。
「リョウは?」
「…………もう、管理人さんに渡しちゃったから覚えてない」
横に視線をずらすと、リョウは一瞬視線を逸らしたあと、気まずそうに言った。
何か恥ずかしいことでも書いたんだろうか。
「えー!ずるい!」
俺は言ったのに!とリョウを揺すっているハル。
リョウはされるがまま、がくがくと首と体を連動させている。
「まあまあ。飾られたら見に行こうや。そろそろ飯にしよう」
ハルをなだめ、キッチンに立つ。
一人暮らしのときは、出来合いの惣菜やカップ麺生活を送っていたのに。
今じゃ、料理のレパートリーは1ヶ月余裕で回せるくらいに増えた。
あの頃の俺が見たら、ビビるかな。
「今日なにー?」
「米と卵があるから、オムライスかな」
わーい、と素直に体全体で喜ぶハルと、隣で少し微笑むリョウ。
2人とも表現に差はあれど、これで同じくらい喜んでいる。
「~~~~~♪」
冷蔵庫からケチャップを取り出すハルと、
棚からスプーンを選ぶリョウは、同じ鼻歌を歌っていた。




