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異世界政治モノはいかが?  作者: 神野皇極
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第36話「無事?」

 高台……といっても、それほどの高さはない。なんとか巨大生物の背中が見える程度だ。どうにか魔石は確認できた。目標地点も定まった。

「頼んだ。君の命、預からせてもらう。」

勇者は黙って頷く。取り巻きガールズは心配そうな顔をしたり、俺を睨んだりしている。ソレイユはなんだか悔しそうだ。確かに力になれないのは悔しいだろう。

 勇者が跳んだ。身体強化、これほどとはな。これだけど3分の2程の距離が稼げる。目測はできていた。精霊はそこにいる。あとは彼が背中に乗れるように飛ばす。

『ヴァン、頼んだ。』

『OKです。マスター。』

気持ちのいい声が脳に響く。そしてヴァンと聴覚と視覚をリンクさせる。気持ち悪い……浮遊感と魔法を使うこと。ダブルで俺の気分を悪くさせる。しかしどんなに弱音を吐いても、やめるわけにはいかない。俺が魔法をやめれば、勇者は海に落ちてしまう。

 巨大生物は左にずれた。すかさず魔法で方向転換する。はぁ……辛い。しかし、どうやら魔法は使えば使う程、ある程度鍛えられていくようだ。消耗はしているが、前ほどではない。といっても、回復は間に合わないが。

 俺が魔法に集中している間、救助活動のために、ソレイユと勇者の取り巻きガールズは全員高台から降りて散らばっている。

 よし、最後の魔法を撃ったぞ。あとは石を壊すだけだ。しばらく息を整えよう。彼が戻ってくるときも俺の魔法はあった方がいい。

 どうやら石を破壊したようだ。今からジャンプして戻るようだ。一応魔法の補助をして……っと。すると、近くに何者かの気配がした。散らばった内の誰かが戻ってきたのだろうか?

「勇者様をよくも!」

その声とともに誰かが俺を腕で拘束する。胸が当たっている……女性か。不味い。この高台は海の近く。このままでは落ちる!

「離れろばかが!」

そのまま落ちそうだ。このままでは俺を拘束している人も落ちてしまう。どうにかその人物だけは突き放せた。しかし、その反作用と共に、俺の体は高台から放られる。

「え……」

そんな黄色い声のつぶやきを聞きながら、俺は落ちる。


 体が水面に叩きつけられるのを感じた。高台と言っても、それほどの高さではなかったため、即死ではないようだ。頭は守った。しかし腕が少し痛い。勢いが残っていて、体が沈んでいくのがわかる。とにかく上がらなければ。

 体は動かない。魔法の疲れもあるようだ。水面にはどうにか勝手に浮かんだ。寒いな。この世界にも季節がある。今が冬だとよくわかる。あがれそうな海岸までは結構距離があるな。ダメだ……もう疲れた。どうにか水面まで上がっても、魔法の疲れと落下と叩きつけられた衝撃で意識が朦朧としている。

「陽さん!」

「先輩!」

聞き覚えのある野太い声と可愛らしい声だ。その声と共に、近くに紐がやってきた。これに捕まればいいのだろうか、助け船ならぬ、助け紐だろうか。朦朧とする意識では考えがまとまらず、とりあえず掴んだ。泳いでいないため、動かないはずの体が少しずつ動くのがわかる。

 

 いつの間にか俺の体は地上に上がっていた。体は冷たい。唇のは何かで塞がれている。そして何だか甘い香りがする。息が苦しい。

「ぶはっ。」

起き上がろうとする。すると口は何かから解放された。一番近くにはソレイユがいる。そしてミカ、勇者、取り巻きたち、見覚えのある男が1人、見覚えのない女1人がいる。

「良かった。目が覚めた!」

体が柔らかさと暖かさに包まれる。ソレイユが抱きしめているようだ。

「ちょっと……皆が見ている前でやめてくれ。恥ずかしい。」

ソレイユははっとして離れた。

「そうだ、勇者君。勇者君は無事に戻れたようだな、良かった。」

「ええ、陽さんの魔法はありませんでしたが、帰りはどうにか泳いできました。」

「それはすまない。」

そうだった。途中で魔法が使えなくなってしまったのだ。迷惑をかけてしまった。

「それと、俺を拘束しようとした人……もしかすると君かな?」

見知らぬ女に顔を向けてそう言った。彼女は少し恐慌している。

「無事なようだね。よくもやってくれたなと言いたいところだが、一先ず君は無事でよかった。」

そう言うと、彼女は安心したようだ。

「すみません。精霊使いだと聞いたことはありまして、それで、勇者様を海に落とそうとしたのかと勘違いしてしまって。本当にすみません。」

しかし、またぼろぼろ泣き始めた。

「大丈夫、ほら泣かないで。」

勇者は優しくそう言って、彼女の頭を撫でる。ああ大丈夫だよ糞が。だけど、そういうことじゃないだろうが。そんなに好感度稼ぎたいかこの野郎。そしてこいつも取り巻きガールか。まあそれはいい。

「それよりも肝心のあのでかいのはどうなったんだ。」

「上手く帰ってくれました。」

勇者が即座に答える。

「他の怪我人とかは?」

「見える範囲で助けたよ。」

ソレイユが即座に答える。

「ああ、忘れてた。俺はどうなったんだ?誰かが助けてくれたんだろう。」

「ミカちゃんとそっちの男の人……ほら、病院まで連れて行ってあげた人が助けてくれたんだよ。」

見覚えがあると思ったらそうか。両腕骨折して包帯を巻いている姿で思い出した。

「あの時はありがとうございます。しばらく仕事できないってことを仲間に伝えようとしたとき巻き込まれて。それで何ともなかったんですけど、偶然海に陽さんが落ちていくのを見て……この腕じゃどうにもならなかったので近くにいたミカちゃんに助けるようにお願いしたんです。」

「それはありがとうございます。2人とも。」

「先輩……私だけ逃げてごめんなさい。」

「いいんだ。それは気にすることじゃない。それに、君のおかげで俺は助かったんだ。」

ミカは本当に申し訳なさそうに謝る。正直期待はしてなかった。来なくても仕方ないと思ってた。だが自責の念に駆られたか。いいや、それならばむしろ来てくれたってことの方が自然か。

「さてそれじゃ、皆とりあえず大丈夫そうだな。勇者君、協力感謝する。」

少し落ち着いた俺は、体を起こして勇者に握手を求める。彼は意外そうな顔をして、すぐに手を差し出した。

 そしてとりあえず大団円的雰囲気になったところに、それなりにいい服を着た中年の男が現れた。

「私はこの町の町長です。勇者様がこの町をすくってくださったのでしょうか?」

勇者は少し悩んで、ちょっとだけ頷く。まあ間違ってもいないけど、自分だけって訳じゃないしな。待てよ、このままいくと、彼だけの手柄になるのか。まあ手柄はいらないけど、それはちょっと気に障るな。

「陽も頑張ったのにね。」

ソレイユは耳元で囁く。まったくだ。

「そうだ、復興資金って国から出せないか?」

俺もソレイユだけに聞こえるように話す。

「できるかも。」

そう言うと、ソレイユは町長に歩み寄る。

「私はドゥバラ王国の姫、ソレイユ・ドルートです。今回の件に関してですが、国王に復興資金を出すように進言いたします。何卒、町民の負担を大きくはしないようにして頂きたく存じ上げます。」

「あなたがソレイユ様ですか!わかりました、もちろんです。私はこれでも国王そして国民派なのです。」

町長はにこやかに返答する。ゴマすりに見えるが、話が通じて良かった。

「じゃあそろそろ行くぞ。」

俺とソレイユとミカと、骨折した男はこの場を立ち去る。

「先輩、歓迎とかはいいんですか?」

「そういう表のことは勇者に任せればいいんだ。受けたいなら行ってこい。」

ミカは少し不満そうに顔を膨らませたが、結局別れることはなかった。


 骨折した男とは別れて、一先ず俺の着替えのためにホテルに行って部屋で少し休んだ。そして救出されたときのことを思い出す。この世界の人工呼吸も同じやり方なのか……いや、それを思い出したら恥ずかしくなってきた。接吻ではないのは明白だった、口への当たり方でわかっていた。だがまあやはり意識してしまうだろう。

「先輩入っていいですか?」

扉のノックとミカの声が聞こえる。

「ああ。」

もう着替え終わったし、OKを出す。すると、即座にミカとソレイユが入室した。

「先輩、本当に体は大丈夫ですか?」

「まあ一応。」

「何かあれば言ってね?」

優しい子たちだなぁ。

「ああ、わかってる。俺の体は俺だけのものじゃないからな。」

自分の使命を果たすまでは勝手に死んではいけない。死ぬと言えば、人工呼吸で1つ思い出したが、あれって失敗すると確か死ぬんだったような……。

「ああそうだ、今回は大丈夫だったけど、人工呼吸は息を送り込みすぎると肺が破裂して死ぬから、気を付けてくれよ。」

思い出したら、顔が熱くなった。

「ソレイユさん、抜け駆けはずるいですよ。」

「人工呼吸だから、ただの人工呼吸だから!」

ミカの言葉を遮る。

「それはいいとして、これからどうする?」

ソレイユは話題を無理矢理変えた。

「アリーザさんに会いに行きたい。」

「先輩が女性を直球で求めるなんて……意外です。」

「確かに。」

言い方が悪かったためからかわれた。

「ああ俺もそう思うよ。はぁ……さっきのアレ。あいつの観察をしていたようだから、少し話を聞いておきたい。またああいったのが現れる可能性はあるからな。」

我ながら仕事熱心だ。といっても、多数の人の幸福や命を預かっているのだから当然だと思いたいが。

「そういうことですね、それじゃ行きましょう。」

「ああ。その後はなるべく早く帰るか……あるいは、王宮に手紙を出しておいた方がいいかもな。」

復興支援をしてもらうためにな。

「ところで先輩はあの時……いえ何でもありません。」

ミカが何か言いかけたが、追求しないことにした。

 その後俺たちは宿を後にした。





ちょっと憎まれ役になってもらって申し訳ありませんが、まあ主人公をできるだけ不幸にしたいので、これからも苦難を与えていきたいです。もちろん、そんなので主人公を潰しませんし、話を重くもしませんけどね

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