第33話「水精降臨」
流石にこっちの世界に来てからしばらくになるので、目新しいものはそう簡単には見つからなかったので、結局すぐに港に来た。
「ここが港ですね!おお、木製ですよ!帆船ですよ!」
「まあこの国の文明を見れば、蒸気機関を積んだ鉄船ということはないだろうな。ただ、あそこまで立派なものを見るのは初めてだ。」
「ここは漁船だけじゃなくて軍船や保安用の船も使うからね。大型のものもあるよ。」
まあそもそも海戦なんてほとんどないらしいけどな。とソレイユは小声で付け加えた。
「でも海賊はいたり……?」
「うん、いるよ。」
「まだ調査中らしいけど、本当にいるらしいな。」
俺は聞きかじりの知識をひけらかす。
「人間なら、まだいいってもんよ。理由がなければ襲ってこないからな。だが、もっと恐ろしい怪物が出ることもあるぜ。」
漁師風の人物が近づいてきた話に混ざる。
「浸水とかでしょうか?」
ミカは能天気に質問する。
「違うよ嬢ちゃん。文字通りさ。もっと生物的なものだ。」
ミカとソレイユは不思議そうな顔をした。一方俺は何なのか考えている……こういう時のお約束は、生物と言っているし、サメとかクジラとかだろうか?
「まあ俺も出会ったことはないからよく知らないんだけどな!出会ってから奇跡的に生きて帰ってきた奴は、すぐに死んじまったしな。」
「サメですか?」
ソレイユはそう質問した。まあ海の危険な生き物の代表だよな。
「いやもっとでかいもんらしい。だがあながち間違ってもいない。そいつのせいで船から落ちてサメに食われる奴もいる。まああんたちは、海に出る身なりじゃないから関係ないだろうけどよ。」
そう言うと、漁師風の人物は去っていった。そしてその言葉に俺はむっとした。
「はぁ……関係あるわくそが。」
俺はそう呟く。俺とは例え面識がなくても、誰かが事故や何かで死ねば、それが悲しい現実なのは確かだ。増してや今の俺は間接的に政治に携わるもの。立場的には放っておける訳がない。
「原因がわかれば、動きようがあるんだけどね。」
ソレイユは悲し気にそう呟いた。
「うーん、それにしても潮風が気持ちいいですね。」
ミカは暗い雰囲気を明るくするように話題を作った。
「ね、先輩?」
わざわざ顔を覗き込んできた。
「ああ……独特なのはわかるけれど、別に俺は特別良いものには感じられない、すまない。」
「陽ってば、薄いなぁ。」
「よく言われる。」
そう言うと、少しだけ笑いが起きた。実際昔から感動が薄いとよく言われる。ただ、その割には意外と敏感なところが多いんだけどな。まあマイナス方面だけ敏感とかいう、難儀な精神なのかもしれない。
見る者がなくなったので、少し移動してみた。
「ところで、これは何でしょうか?」
ミカはそう言って、質素に飾られた水晶のようなものを指さした。
「なんだまだいたのか。それは豊漁祈願のために置いてあるんだ。ほら、持ってよく見てみな。」
先ほどの漁師風の人物にまた出会い、説明してくれた。そしてミカに水晶を持たせる。
「おお!何か見えますね!」
「どれ……よく見えないな。」
「ほら、持ってみてください。」
そう言ってミカから水晶を受け取り、後ろのソレイユと一緒に見た。顔が近い……甘い香りと美しい顔と髪で、それどころではなくなる前に、早く水晶の異常を探した。
すると、脳内で話しかけられた気がした。グレイスでもヴァンでもないが、また精霊だろうか。原因はこの水晶か。
「これだな。」
精霊と脳内会話する前に、水晶の中に見える、魚のようなものを見つけて、ソレイユに水晶を預けた。
『もういいかな?』
『どうぞ。精霊か?』
『その通りだよ。僕はオウ。』
段々と精霊の姿が見えてきた。今度はボーイッシュな水色の女性型か。ソレイユやエルトのような慣れ慣れしさを感じる。
『君が僕のマスターかな?』
話し方が典型的なボーイッシュキャラだ。まあそもそも性別なんてあるのか不明だが。
『さてどうだかわからないが、力を貸してもらえるならありがたい。』
『そうだなぁ……確かにただ祀られているだけで退屈してたし、ついていくのもいいかも。じゃあこれからよろしくね。』
精霊ってのは皆軽い性格なのか?面倒じゃないのは助かるが、なんだかイマイチ盛り上がらない。
『わ、グレイスお姉ちゃんにヴァン君もいる!』
『精霊も人間関係とかあるのか……。』
『1人でも平気だけど、精霊にとっては人間観察とか、精霊仲間とお話しぐらいしか楽しみがないからね。』
そういうものなのか……もしかしたら、肉体に縛られない分、哲学者が見たら人間の理想形と言うこともあるかもしれないなこれは。
「よーおーくん?」
ソレイユが耳元に息を吹きかける。突然何をするんだ。あ、俺がオウと話し込んでたからか。
「ああ、大丈夫。さっきの水晶に触ってまた新しい精霊に出会ったんだ。あと、耳に息を吹きかけるのは本当にダメだから……。」
耳は結構敏感な方なので困る。
「私もやればよかった……」
ミカの声が聞こえた、いや、君もやるな。
「ごめんね。さて、もう見るものがないなら、市場に行ってみようか。」
「ああ分かった。」
俺は赤面に気づいて、顔を隠しながら答える。どうやら、漁師風の人物もいつの間にかいなくなっていたようなので、さっさと市場に向かう。
無事市場に到着。ふむ、港町だけあって魚が並んでいる。
「お客さん、ここの人じゃないね。そんな人は、あっちの干物屋がいいよ。」
親切にそう教えてくれる。まあ親切かどうかはまだわからんが。それにしても、腐るから運べないのは本当に大変だ。何か交通手段が欲しいが……この世界では産業革命に期待できないんだよなぁ。
「うわぁ!!」
突然悲鳴が聞こえた。
「港の方ですね。」
ミカの言うことだ、多分正しいだろう。
「行ってみよう。」
ってもう、ソレイユちゃん体動いてるじゃん。まあ放っておけないし、俺もついていく。
あれは……?
3人目の精霊です。精霊含めると、中々キャラが多くなるので、精霊に喋られる機会が減るのは申し訳ありません……




