くえすと44 番外編 あの日の出来事
前回から三ヶ月経ったなんて気のせいです。
今回のお話は昔話で本編開始の二年くらい前のお話になります。
「よろしく。俺はアックス・フォレストだ」
「私はアイリ・リーベよ、よろしくね」
まだ人もまばらだったαテスト時代俺達はとあるクエスト攻略で出会った。
アイリは誰が見ても美人で物腰も静かでプリーストと言うジョブも手伝ってかまさに男の夢見る綺麗なお姉さんだった。彼女の装備はまだテストも始まったばかりなこともあって武器は簡素な木の杖、服はダボッとして良くファンタジーゲームで見る女の子が着ているような上着に膝丈のスカートに皮のショートブーツ、靴下はなんか可愛い靴下って感じのやつだった。そして俺がこのゲームをやっている理由の一つに“ファンタジー世界の可愛い女の子を眺めて過ごしたい”というものが在る。だから俺はずっと彼女を眺めていることにした。そんなのそこら辺のNPC眺めてればいいじゃないかとお思いのそこのキミそれがそうもいかないのだよ、俺も最初はそう思って街中でボケーッと行き交うNPCを眺めていたらあろうことかその視線にNPCが気づき向こうから話しかけてきた。どうやら人見知りするプレイヤー用のシステムらしくあまりにもリアル過ぎるこのゲーム世界で“NPCにすら話しかけられずにクエストがこなせない人”用にある一定の時間視線を感じると話しかける様に設定されているらしい。
まあそんなこんなで街中で色んな女の子から声をかけられまくったのだが俺的にはのんびりと女の子を眺めていたい。そしてあわよくばパンチラとか拝めたら嬉しいかなって思っている次第なわけなので結局のところプレイヤーをのんびり眺めるのが一番だと気づいたわけだ。
だがしかし、このゲームはいろんな理由で男女比こそ脅威の1:1と言う凄い比率だがこんなフルダイブ型のMMORPGのαテストに居る女の子なんてガチガチのゲームマニアばかりだから両極端のプレイスタイルに成ってしまう。性能重視で装備を選ぶと全然可愛くない。フルプレートメイルのどこに可愛さを見い出せばいいんだ? 偶に魔術師とかいるけど何かこう痛々しいのが多くてあんまり近寄りたくないしプリーストにしたってもう完全に姫プレイ――何にもしなくてまるでお姫様のような感じで周りのプレイヤーから色々アイテムを貢がせたりお姫様のようなプレイをやる人――ばっかりだった。
そんなのを見てきた俺にはこのアイリと言うプレイヤーは素晴らしかった。まさに俺が求めていた女性プレイヤーだった。PTプレイは積極的に行いプリーストの仕事も完璧に行いミスった時はちゃんと謝り同じミスはせずそれでいて動きは機敏で良い感じにひらひらと揺れるスカートが素晴らしい。そして何より男に大して凛とした態度を取り媚びた言動を全く見せずそれでいて女の子には優しく話しかけている。なんか女の子にモテそうだよなぁとその時は思っていた……まあただの女の子好きとは誰も思わないよな。そんな彼女と俺が何故一緒に行動するようになったかというととある切っ掛けが在ったから。
それはテストが始まってリアルで一ヶ月ほど経ってからの事だった…その時はまだ加速の倍率が3倍だった為ゲーム内では三ヶ月が経った頃だった。
「よう、また会ったな」
「そうですね」
俺達は大きな街の広場には必ずあるクエスト掲示板と呼ばれる大きな掲示板――この掲示板は本サービスでは各街に設置されたため縮小されて小さな掲示板に成った――の前でばったりと出会った。
「クエスト探してるの?」
「はい、ですがいいのがなくて」
「そっか」
そう言いながら俺は掲示板を見るふりをしつつ凛とした佇まいの中に可愛さが垣間見える彼女の姿を横目で観察する。
装備はかなり更新されシスターさんのような格好になっているんだけど……なんでそんなに深いスリットが入ってるんですかね? まあ嬉しいんだけどさ。
「う~ん、たしかにコレといった物は無いな~大体どれもゴブリンの討伐やらオークの討伐に……こっちはリザードマンか。真新しいのは無いなぁ」
そう、テスト開始から一ヶ月たった今ではほとんどのプレイヤーが現在のレベルキャップであるLv20に到達していてクエスト自体にもマンネリ化が見られてきた。何故そうも直ぐにレベルキャップに達するのかというとフルダイブ型全般に言えるが“レベルが上がっても弱い奴は弱い”からだ。それならばレベルアップ自体もそんなに難しく設定される必要はないわけでレベルアップ自体は結構あっさり出来る。だけどそれは根っからのゲーマー視点からであって初めてMMORPGに触れる人間からするとやはりレベルは上がりづらいようだ。わかりやすく言うと、大体三回叩くと倒せるモンスターを1000匹倒すとレベルが上がるよと言われて。
「なんだ1000匹でいいのか、じゃあ色々試しながらやるか」というのがゲーマー。
「はぁ? 1000匹とかふざけんなよ、一匹にしろよ!」というのが一般人。
極端に言うとこんな感じだと思う。本サービスが始まったら経験値増幅系のアイテムを売ったりもするのだろうけどαテストの今はそんなものはない。だがしかし、今いるプレイヤーの大半はゲーマーであるわけなので大体が“いかに効率よく1000匹倒すか”と言う事を考えたりいながら色々やっているうちに皆レベルキャップに到達している状態だ。まあ俺とかはのんびりやってたらレベル上がってただけなんだけど。
「今日はもう落ちようかなぁ」
そんな声が隣から聞こえてくる。多分こんな時イケメンやウザイ男ならさらっと「暇なら一緒にどっか行こうよ」的なことを言い放つのだろうが俺はイケメンでもウザい奴でもないので。
「ふ~ん、おつかれ~」
と、そんな気のない返事を返す。まあ可愛い女の子、と言うよりアイリの場合は綺麗な女の子なんだけど、を眺めれないのは悲しいけど本人が落ちたいなら別にそれを止めようとは思わない、っと。
「お、なんだこれ」
ボケーッと眺めていた掲示板の右下の端っこに申し訳なさそうにくっついているクエスト依頼書が目に留まった。ペリっと剥がしよく読んでみると。
「ふむ、クエスト名メイド手伝い 内容メイドさんのお手伝いです……斬新だな」
何やらわかるようでわからない依頼書だった、だがしかしメイドさんのお手伝いということはメイドさんを眺め放題ということか!? 何そのパラダイスなんで今までこんな素敵なクエスト見逃していたんだ俺。と今までの自分を恨んでいると何やら気配を感じたので隣を見てみる。
「……それいくの?」
するといつの間に近づいたのか均整の取れた体を俺に密着させるようにくっつきつつ俺が手に持つクエスト依頼書をじっと見つめるアイリが居た。なので、ススススっと一歩ぶん横にずれつつ。
「ま、まあ討伐にも飽きたし行ってみようかな~って感じかなぁ」
アイリとの間にスペースを確保しつつそういう俺に。
「……なんで逃げるのかしら」
「別に逃げてないよ」
俺は別に近寄りたい訳じゃなくて眺めていたいだけなんでこの位の距離でいいんです。とは言えない、と言うか変に近づくと色々とね……。
「……まあいいけど。ねえ、私も一緒に行っていいかしら?」
「……どこに?」
「どこってそのクエストに決まってるじゃない」
「え、これ? でもコレただのお手伝いだぜ? しかもメイドさん」
「なに、私が付いて行ったら困ることでもあるの?」
その言葉に少し考えてみる。
まずアイリが一緒に来なかった場合、俺はのんびりメイドさんを眺めつつクエストがこなせる。
次にアイリが一緒に来た場合、俺はのんびりメイドさんとアイリを眺めながらクエストがこなせる。
「別にないな、よし行くか」
女の子は多いほうが楽しいよね!
「変なの。まあいいわ、よろしくね」
「おう」
臨時のPTを組んでクエストを受注した私たちは街外れの屋敷へと向かい路地裏をテクテクと歩いている。のだけど。
「ねぇ、なんで後ろ歩いてるの?」
「別に気にしなくていいよ」
そう、PTを組んだアックスが何故だか後ろを歩いている。今まで組んだ男性プレイヤーは大体横に寄り添うようにくっついてきたり威張りたい奴が前の方をふんぞり返って歩いたりしていたんだけど……なんで後ろ? しかも微妙な距離をとってるし……そう言えば今まで何度か一緒になったPTでもアックスは後ろの方を歩いてたっけ? あの時は確か後ろからの敵を警戒してるとか言ってたっけ? 今度もそうなのかな? でも……街中なんだけど。
「そう言われても逆に気になるんだけど、隣歩いたら?」
軽く振り向きつつそんな提案をする私。だけどアックスは。
「隣、隣かぁ隣だとなぁ。う~ん、やっぱここでいいよ」
そんな風に頑なに後ろを歩く事にこだわる。何だろう、何が彼をそこまでその位置にこだわらせるのか。
ふむ。私だったら人のどこを歩きたい? 好きな人だったらやっぱり隣を寄り添って、友達も隣だけどまあ少し距離は取るかな。じゃあ後ろを歩きたいと思う時って? う~ん、嫌いな人と歩く時? う~ん、どうなんだろう、私ってそもそも嫌いな人とあんまり一緒に行動しないからなぁ。他に距離を開けて後ろを歩く理由って何かあるかなぁ。……っは! あった、しかも割と私も頻繁にやってる気がする。そしてどちらかと言うとその行為は男のほうがやってる人は多いといえる。それは何かというと。
[ねえ、アックス]
ちょうど路地裏に入ったところで私はクルッと振り向き頭のなかでPTチャットを使い問いかける。
[ん、どうした?]
[貴方私のおしり見てるわね]
そんな私の素敵発言にたいしてアックスは。
[おう、綺麗なおしりだな、あとあらためて見ると体全体のバランスも凄いな、コレいじってるのか?]
……さすがにこうもあっさり肯定されるとは思ってなかったから一瞬言葉に詰まる。が、ちゃんと言って置かなければならないことがある。
[失礼ね、ドコもいじってないわよ、完全にリアルの体型そのままよ]
[そりゃますます凄いな、ひょっとして髪の長さとかもリアルと一緒なの]
[え、いや流石にリアルはここまで長くないわ、胸のあたりくらいまでかしら]
[へ~そうなのか、似合うんだろうな]
[ま、まあね]
あれ? なんか変な話になってきたわね。
[いやいや、そうじゃなくて、貴方私の体をそんなにジロジロ見てどうするつもり]
[どうするって……べつに何も]
と首を傾げながら返答するアックス……男じゃなければ可愛いのに。
[嘘よっ! スクショとかで後からいかがわしいことするんでしょ!]
[いやスクショの設定で全部拒否してるじゃんアイリって]
あ、そうだった余りに勝手にスクショ撮る奴らが多かったからそうしたんだった。
[ってやっぱり撮ろうとしたんじゃない]
[いや前に同じパーティになった時に自分で言ってたじゃん]
……言ったねそういえば言ったね私!
[じゃ、じゃあ何のためにそんなに私を見てるのよっ!]
そんな訳の解らない私の問に。
[え、可愛いものとか綺麗なものを見るのに理由がいるの?]
[な、何言ってるの貴方]
自分でも顔が赤くなっているのがわかる。ここが路地裏で少し暗くなっているからアックスにはわからないだろうけど……わかってないよね。
[でもそっかぁ、やっぱり嫌だよなぁジロジロ見られるのって。んーそれじゃ俺パーティ抜けるよこのクエスト一人でも大丈夫そうだし俺はまたの機会にするから]
そう言ってメニューを呼び出し始めるアックスを私は慌てて止めに入る。
「ちょ、ちょっとまってよ別に抜けなくてもいいわよ、それに次もあるかわからないしこのクエスト」
「でも嫌なんだろ見られるの」
「べ、別に見るくらいなら……私もあんまり人のこと言えないし……」
「ん? どういう……はっ! ま、まさか! 俺のこのナイスな体を舐め回すように視姦していたのか!」
「……ねぇ今のって通報してくださいって言ってるの?」
「ごめんなさい勘弁して下さい」
すごい勢いで頭を下げてきたアックスのモサモサの髪を眺めつつ良い人そうだし話してみるかな、と誰にも言ったことのない私の秘密を打ち明けようと心を決める。
[……あのね、私もね……その、なんて言うか、可愛い女の子とかをね見たりするのが好きなの]
まるで校舎裏で告白をする女子高生のような感じで――と言うか私現役女子高生なんだけど――もじもじとそう告げた私をアックスはキョトンとした顔で暫く見つめてくる。あ~やっぱり引かれちゃったかなぁそりゃ女の子が女の子見るの好きとか言い出したら引いちゃうよね。と若干後悔していると。
[そうなんだ……いいなぁ女の子同士だったらずっと見てても嫌がられなさそうだよなぁ]
何故か羨ましがられた……あれぇ?
[え、気持ち悪いとか思わないの?]
[なんで?]
[だって女の子が女の子見るの好きって言ってるんだよ?]
[別にいいんじゃないの? さっきも言ったじゃん“可愛いものとか綺麗なものを見るのに理由がいるの?”って]
[あ、うん。言ってたね……そっか別にいいのか]
そっか、そうなのか、別に見ててもいいんだ。と少し心が軽くなって来て気が緩んでる所にアックスの予想もしない質問が来た。
[あくまで恋愛対象は男で女の子に百合百合でエロエロな事をしたいってわけじゃないんだろ?]
[そりゃもう百合百合でエロエロなことをしたいに決まってるじゃない]
ので何も考えずに本音で答えてしまう私。
そして凍りつく世界。
その凝固した空気を無理やり砕くように私は。
「な、なんちゃって……てへっ」
と舌を出してみたところ。
「お前のほうが変態じゃん」
「いやああああああああああああああああああ、違うのよ今のはちょっと本音が出ただけでね」
「じゃあ尚更だめじゃん」
「いやいやそうじゃなくてね。ほ、ほらアックスも実はそう思ってるんでしょ? かわいい子にあんな事やこんな事をしたいとかさ!」
「う~ん、頭撫でたいとかならあるけど……別にエロい事はそんなに」
「嘘だっ! そんな事あるわけないでしょ! 男は皆女の子にあんな事やこんな事したいに決まってるんだから!」
「まあ、とりあえずあんな事やこんな事を詳しく叫びだす前にちょっとそこの宿屋にでも入らないか?」
「ほら見なさい、そうやって私に変な事しようとしてるんでしょっ! そうは行かないんだからね!」
「いや別に俺はいいんだけどそろそろNPCだけじゃなくてプレイヤーも集まってきそうなんだけど」
「へ?」
とそこで気づく私たちに向けられるいくつもの視線に。
「えっえ?」
あたふたと周りを見てみると路地の先や路地に面した窓からNPCの皆さんがこっちをちらちらと伺いながらなにやらヒソヒソと呟きあっているのが見えた。
「な、なに、どうしたのこれ?」
「どうしたのって、あれだけ大声出してたらそりゃ集まってくるだろ。それにこれだけNPCが集まってるとプレイヤーも何かイベントやってるのかと思ってそろそろ集まってくるぞ」
後から知ったんだけどプレイヤー同士のイザコザなどを早期発見するためにNPCに変に騒いでるプレイヤーなどがいた場合はそれを監視――監視することによりログをとっていると思われる――するようプログラムされているとどっかのサイトにかいてあったわ。
「と、取りあえず何処か隠れるとこはないのっ!?」
「だからそこの宿屋に入ろうってさっき言ったんだけど」
「それならちゃんとそう言いなさいよ!」
「何で俺怒られてるんだ?」
「いいから行くわよ」
「へ~い」
バタンッ!
宿屋の一室の戸が勢いよく閉められる。
ここはさっき俺たちが言い合っていた路地裏から大通りに出たところにポツンと立つ宿屋だ。そして俺は今綺麗な女の子改め綺麗な残念美女に監禁された所だ。
「ちょっと! 監禁なんてしてないでしょ!」
「人のモノローグにつっこむなよ」
「パーティーチャットで聞こえてるわよ! わざとでしょ!」
「おう」
「っあーーーもうっ! どうせ私は女の子を好きな変な女なんですよ、でもあんたに害はないんだからいいでしょ!」
「誰も悪いとか言ってないだろ」
「……そう言えばそうね……なんで私こんなに怒ってるんだっけ?」
「知らんがな」
はてなエモを出しながらあれ? っと小首を傾げ何やら悩むアイリを眺めながら面白い奴なんだなぁとボケ~っと思っていると。
「と、とにかくこの事は誰にも言わないでよね」
「別に言って回るようなもんでもないだろ。人の性癖を言いふらすほど俺も落ちぶれちゃいないし」
「そう、ありがと」
「礼を言われるようなことじゃないと思うんだけど。あ、でも嫌がる女の子を襲ったりするなよ」
「しないわよっ!」
「どーだか」
「……ほんとに誰にも言わないでよ」
「信用ないんだな俺、まあいいけど。ん~それじゃあ俺と固定パーティ組まないか?」
「何よそれ、やっぱり私の体が目的なんでしょ」
「いや俺が言いふらさないか見張れるってだけなんだけどまあぶっちゃけて言うとそれに近いものはある」
俺がそう言うと何やら両手で体を隠そうとする変態のアイリさん。
「いやそういう直接的な意味じゃなくて」
「じゃあどんな意味なのよ」
「えっとだな、まずお前って男のこと基本嫌いだろ?」
「しいて言うなら嫌いね」
「そこでだ、俺がいつも一緒だと他の男があまり寄ってこなく成る」
「あんたが何時も居るならあんまり変わらないじゃない」
「でも俺だと眺めるだけで口説いたりしないぞ?」
「なるほどそれは静かでいいわね」
どうやら五月蠅いくらいに口説かれるらしい。
「あとはコンビを組んでると何かと便利」
「例えば?」
「ん~例えばどっかの臨時パーティに入っててクエスト攻略とかが終わった後の何か良くわからん“ねえもう解散していいんじゃないのなんでダラダラ話してるの? もう帰っていいよね?”っていうあの時間を回避しやすく成る」
「そ、それは素晴らしいことね」
ほんとあのよくわからん時間は何なんだろな。
「後はそういう時に女の子を連れ出しやすく成るんじゃね?」
「その心は」
「女二人でドコか行こうとするとだいたい男が寄ってくるが最初から女の子二人と男だった場合寄ってくる確率は」
「かなり低くなるわね」
何故かニヤリと笑いながら俺の言葉を受けるアイリ。コイツ色々ダメな気がするんだけど。とりあえず念は押しておく。
「だけどエロいのは無しだぞ」
「なんでよ!」
「てかなんでそんなにエロにこだわるの? そんなに良いの?」
「た、たぶん」
「いや多分って……ひょっとしてやったこと無いの?」
と言う俺の質問にまず顔が瞬時に真っ赤になり、プシューっと頭から湯気が出る。凄いなこんなエモまであるんだ。
「や、やったことくらい……」
「いや無いならないでいいと思うんだけど俺もないし」
「え、そうなの?」
「まあこんなの嘘ついても何の徳にもならんし」
「そ、そうなんだ。ふ~ん」
そう言いながら何やらジトーっとした視線を向けてくるが納得したようには見える。なのでとりあえず話をすすめるために先を促す。
「それでどうする?」
「どうするって何が?」
そしたら何故だかキョトンとされた。
「俺と固定パーティ組むか? ってのとメイドさんの手伝いどうするかってヤツ」
と呆れ顔で聞いてみたところ。
「あ、あーそれね。んーどうしよっかなぁ」
「別に無理にとは言わないから無しなら無しでいいよ。というかなんか無しでいい気もしてきたな」
「なんでよっ! 私と一緒なのがそんなに嫌なの?」
「いや別にそういう訳じゃないんだけど俺の場合そっちと違って眺めてるだけでいいから」
「あーもうわかったわよ、固定組んであげるわよ」
「だから嫌ならいいって」
「固定組んでくださいお願いします!」
「お、おう」
自分で行っておいてなんだけど面倒くさいことになったなと内心思ったりする。
「はぁ、なんかどっと疲れた気がするわ」
「気のせいじゃね?」
「殴るわよ」
「まあそれはそうとそろそろ行かないか?」
という俺の問に。
「何処によ」
なんかすっごい目つきで問い返された。
「メイドさんのお手伝い」
「……もちろん行くわよ」
そう言うが早いか若干うなだれていた体をシャキッと伸ばしいつもの感じに戻って。
「ほらさっさと行くわよ」
などと声をかけてくるアイ……。
「なあアイリって呼び捨てで呼んでいいか?」
流石にこれから頻繁に顔を合わせるのに変にかしこまった呼び方をするのはアレなんでドアを開けテクテクと宿屋から出ていこうとする新しい相棒に声をかけると。
「ん? 別にいいわよそっちのほうが正直リーベさんって言われてもピンとこないしね」
特に振り返りもせずに歩みを進めながらそんな言葉を返してくる。
「いやお前がつけたんだろ?」
「そういう名前のほうが可愛く思われそうだったから付けてみたんだけど……実際はなんか変な男ばっかり寄ってくるのよね」
「Liebeってドイツ語だっけ?」
「そう愛とか恋愛とか、あと愛人っていうのもあるからなんか勘違いした奴が声かけてきたりするのよねぇ」
「付けたお前のせいだし諦めろ」
「まあそうよね、それじゃあとりあえずよろしくねアックス」
一瞬肩を落としたアイリは歩みを止めてくるっと振り返りそんな言葉とともに手を差し出してくる。俺はその手を一瞬見つめ握り返しながらこう言った。
「おうよろしくな愛人」
次の瞬間アイリの顔にブチッという音と共に漫画の様なでっかい血管マークが浮き上がったのを見て改めてVRって凄いんだなぁと思いつつ。
「冗談だよ冗談よろしくなアイリ」
そう笑顔で言った俺に何故だか殺意のこもった顔が向けられていたが一瞬でその顔を崩してアイリは言う。
「はぁ、何となくあんたって物がわかってきたわ、それじゃさくさく行くわよ結構時間食っちゃったしね」
「主にアイリのせいだけどな」
「まあその点は否定しないわよ……」
そう言いつつ再び歩き出すが。
「それはそれとして、ねえやっぱり後ろじゃなくて横歩いてくれないかな? なんか一人で喋ってるような感じで嫌なんだけど」
「えー……まあいいかぁ」
そんな声を上げつつしぶしぶアイリの横に並ぶと。
「そんなにお尻見ていたいの? 普通男なら女の子の横を歩きたいものじゃないの?」
というご質問が投げかけられた。
「んーなんていうか他分昔っから妹の後ろ歩いていたのが原因かな」
という俺の答えに。
「え……あんたまさか実の妹のお尻も眺めてるの?」
と何やら凄い顔で聞かれた。
「いやそういう意味じゃなくて……若干そういう意味もあるけど」
「うわぁ変態だ」
「お前が言うなお前が。ってちゃんと最後まで聞け。俺が後ろ歩くのは何か有った時に直ぐ対処できるようにだ」
「それなら別に横でもいいんじゃないの?」
「あーえーっとどう説明したらいいかな、ほらゲームでさFPSとTPSってあるじゃんあんな感じの違い」
「あ、あー何となくわかった、全体が見やすいってわけね」
「そうそうそんな感じ」
「ふーんつまり私の事も何かあると心配だから後ろに居たってことかな」
何やら意味深な顔でそんなことを言ってくるアイリだが。
「いやお前の場合はお尻が見たかったから」
「そこは嘘でもいいから“そうだよ”くらい言えばいいのに……」
「いいんだよ、別に変に好かれたいは思ってないし好感度あげてもしょうがないしな」
「好感度って……恋愛ゲームじゃないんだから……」
「そういやなんで恋愛ゲーってVRで出ないんだろうな」
「あーあれね、倫理的にやっぱりまずいっぽいってどっかで読んだわよ」
とふと思った疑問に即答で答えを返した女の子を残念な表情で見つめる。
「な、なによたまたま読んだサイトに書いてあったのよ……たまたまなんだからね」
「へいへい」
パタパタと手を振り適当に流しながらメイドさんの待つ屋敷へと足をすすめる。
街の外れをしばらく行くと一軒の豪奢な屋敷が見えてきた。
「アレみたいね」
「おーそういやあったなこんな建物」
見えてきた建物はクエストなどで近くを通りかかった際に気にはなっていたがその建物に関係するクエストがなかったのと入り口の門が何時も閉まっていて中には入れなかったので今後のアップデートで何かあるのかなーと思ってはいたがまさかこんなよくわからないクエストで来ることになるとは思わなかったし。
「へーここかぁここって入れたんだ、可愛い子いるといいなぁ」
まさかこんな奴と一緒に訪れるとも思わなかった……。
「なによ?」
「いや別に、んじゃ行きますか」
残念な物を見る視線を正面に建つ館に戻しゆっくりと格子状の門に近づくと門の影から一人のメイドさんが現れ声をかけてくる。
「ようこそいらっしゃいました。お手伝いをしてくださる冒険者のフォレスト様とリーベ様ですね」
どうやらクエストを受注していることはシステム的に把握されているらしく名乗っても居ないのに名前で呼ばれ一瞬戸惑う俺とは対照的に。
「はい、私がアイリ・リーベでこっちがアックス・フォレストです。それであなたのお名前を教えていただけませんか?」
と、若干食い気味になめらかにそれでいて艶やかな声でメイドさんに問いかけるアイリ。そんなに好みのメイドさんなの?
「これは失礼を致しました。私この館でメイド長をさせて頂いておりますアナスタシアと申します」
そう言って灰と黒の混じった髪を2つのお団子にまとめたメイドさんは優雅にお辞儀する。
アナスタシアさんに案内され屋敷の中に入った俺達は広い屋敷の中を縦横無尽に駆け回っているメイドさんたちを目の当たりにする。
「えーと、一体何が始まるんです?」
走り回っているメイドさんを物色しているアイリに代わってアナスタシアさんにそう尋ねると。
「はい、明日我々の主人がここに越してくることになっているのですがまだその準備ができておらずご覧の有り様なのです」
「なるほどそれで冒険者に募集をかけたということですか」
なるほどな、それで今までここのイベントがなかったわけか、誰も住んでないならイベントの起こり用もないからなぁと思っていると。
「それで私たちは何を手伝えば良いのでしょう?」
とアイリが今にも走り出しそうな勢いで問いかける。
「基本的には困っているメイドがいたら手伝っていただければ大丈夫です」
「わかりました」
そう即答するとスタスタとメイドさんを物色、もとい手伝いに向かうアイリを眺めつつ俺も行くかなぁとエントランスをグルッと眺めるとちょうど大きな荷物を抱えて入り口から入ってきたメイドさんが目に入る。
「よし、俺もお仕事お仕事っと」
のんびりとメイドさんに近づいて声をかける。
「手伝いますよ」
すると一瞬の間の後。
「ありがとうございます、お願いします」
という返事とともに抱えていた大きな木箱を渡され二階の部屋に持っていってほしいと告げられたので案内してくれると嬉しいんだけどと答えると。
「わかりました、ではついてきてください」
と言って静かに歩き始めたのでその後をテクテクとついていく。階段を登りながら前を行くお尻じゃなかったメイドさんに話しかける。
「何処から引っ越してきたの?」
すると。
「お手伝いありがとうございます」
と返ってくる。うーんこれはすでに会話がループに入っちゃってるのかな? まあこれだけいるメイドさんにそんなにいっぱいセリフなんて考えてないだろうしな。まあ良いかみんな可愛いし無駄にキャラクリエイトだけは個別に違ってるからじっくり眺めよっと。そんな事を考えていると。
「こちらにおいてもらえれば大丈夫です、ありがとうございました」
立ち止まったメイドさんにそう言われる。
「よいしょっと、いえいえじゃあまたねー」
と言い残し他のメイドさんを探すたびに出ると廊下の窓を拭いているメイドさんと並んでメイドさんを凝視しながら幸せそうに窓を拭くアイリの姿が見えた。
それから数時間俺はメイドさんとアイリの姿を堪能しつつクエストをこなして行きアイリの方もソレは楽しそうにメイドさんとイチャイチャしていた……いいなぁ同性だからハラスメント扱いにならないのかぁでもそこら辺も後から修正されそうな気もするなぁ。
メイドさんのお手伝いを無難にこなしクエストを達成した俺達は屋敷を後にしようと玄関から門へと続く庭園をあるく。
「ふぅ、堪能したわ」
俺の隣でそんな事をそれは幸せそうな笑顔でつぶやくアイリ。
「今までで一番の笑顔だな」
「そう?」
「おう」
「そんな笑顔が見れてよかったわね」
さっきの笑顔と若干違い人懐っこい笑顔でそんなことを言ってくるので一瞬驚きつつ。
「そうだな」
そう答えついその昔妹にしていたように頭をポムポムとなでてしまう。するとアイリは一瞬驚いたよな表情になる。あ、やばいつい癖で。
「あ、すまんつい」
「別にいいわよ謝らなくても。アンタの顔見てたら下心が在ったようには見えないしね。でもやけに手慣れてるわね」
「ん、あぁ、妹に良くやってたから」
「なるほどね……そう言えば妹さん可愛いの」
「……可愛いけどお前には絶対あわせねぇ」
「何それ酷くない?」
「まったく酷くない」
「むーもういいわよ、とりあえず」
そう言いながら手を差し出しだしてきた。
「これからもよろしくね、アックス」
「おう、これからもよろしくなアイリ」
俺はその手を握りながらそう答えた。
webに限らずなにか書いてる人にありがちな事に突如更新が止まって音信不通とか有りますがちょっとそれになりかけてたなんて言えない。
まあ他のありがちな事の一つにこういうのもあるわけですよ
別作品が突如始まるとか……。
まあ全くの別作品なので読まなくてもなんの問題もないです。
あ、こっちの更新速度には基本関係ないと思われます。




