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ファンタジークエスト  作者: 里山
三章 はじまりは唐突に

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くえすと32 新しい朝……再び


「ふぅあぁぁぁ」

 欠伸をしながら顔を洗いに洗面台への旅路につく。

 道中食卓から。

「おはようございます兄さん」

 と爽やかな挨拶をしてくるラブリーシスターと。

「あら、おはよう」

 などと特有の挨拶をしてくるラピスに。

「おふぁー」

 と、欠伸とも挨拶ともつかない物を返す。

 宿の部屋は一部屋といえば一部屋だがレンタル小屋などと一緒で中の空間はおかしなほどに広く部屋を増やす事も可能なので俺は一人部屋で寝て、そして女子軍団はこれまた一部屋で皆で寝ていた……他に部屋あるんだからバラバラが気楽じゃね? とも思うのだがそこは乙女の秘密らしいので良くわからん。

 バシャバシャと冷たい水で顔を洗って眠気を覚ます。とそこに白黒に包まれた金髪のふわふわが酷い目つきでやってくる。

「む……」

「む?」

「おとこ」

「まあ男だな」

 そう呟くシオンの格好はタブダブのパンダのきぐるみパジャマだ――その昔リリィが着たきぐるみとは違いよくリアルでも売っているパジャマっぽいやつだ――その顔部分から金髪の長いもみあげ? をみょ~んと垂らして何やらこちらを睨んだ後。

「っ!」

 なぜか一瞬で顔が赤くなる……なんだ? なにやら眼を見開きパクパク口開けたり閉じたりしてる……んーまあいいや。

「おはよ」

 と金のふわふわを収納しているパンダさんの頭をぽふぽふ叩いて食卓に戻る、どうやら部屋の中で料理もできるらしくイノリとラピスが料理を並べ終えたところみたいだ。

「おーうまそうだな」

「兄さんリリィさんを起こしてきてもらえませんか?」

「ん、あいつまだ起きてないのか?」

「昨日の夜ハシャギ過ぎたみたいで」

「何してたんだお前ら」

「それは乙女の秘密よ」

「お前が言うと怖いなラピス」

「ふふ」

 そんな不敵な笑みに送られ女子軍団の部屋に向かう。コンコンと一応ノックをしたが案の定返事はない……なので。

「はいるぞー」

 と言いながらドアを開け中に入る。


「……」

 そこには長い銀髪をベッドに散らし可憐な横顔からよだれをたらしパジャマの隙間から見えた腹をボリボリ掻いている耳の短い残念な美少女エルフがいた。

「はぁ、こいつは相変わらずだな」

 ふと、思う。こいつの家に下宿するようになってリアルとゲームでほぼ毎日のように見てきた寝顔も思えば久しぶりだった。それを相変わらずと思えるほどにはあの生活に馴染んでいた自分に気づく、そう言えばイノリの寝顔はアメリカに行く前に見たっきりだな、なんて思いながらしばしベッド脇でリリィの寝顔を楽しんだ後。

「早く起きないとご飯がなくなるぞー」

 ボソッと耳元でささやくと。

「っご……はん」

 ガバッと上体を起こしたかと思うとウイーンという音が聞こえそうな動きで首がこちらを向く。

「ごはん」

 いまだ寝ぼけ眼に口からよだれの美少女エルフはそう呟く。

「食べたければ起きろ、でなければ寝ろ」

「たべます」

「うむ、では顔を洗って来い」

「ぉー」

 そう言ってフラフラと立ち上がりドアから出たとこで止まり頭を左右に振りなにやら悩んでいるので後ろから。

「洗面台は右奥だ」

 というとそちらにフラフラと歩いていく。それを見送って食卓に戻るとイノリが声を掛けてくる。

「兄さん流石ですね、私達だとなかなか起きなくて」

「あー言ってなかったなあいつはご飯を餌にするのが一番効果的だ」

「そうですか……てっきりもっとこう王子様的な熱い何かだと」

「何をぶつぶつ言ってるんだ?」

「いえ何もないですよ、さぁ兄さんも座ってくださいリリィさんもすぐ来るでしょうし」

 そういって着席を促すイノリに軽く答えて席に着くと俺の前の席からなにやら視線を感じるのでなんだろうと良く見てみると。

「……」

 なにやらパンダのパジャマで可愛らしさ補正が少し上がっているシオンがジト眼+ほっぺたをぷくーっとふくらませて見つめてきていた……いや睨んでるのか。

「どうしたシオン? そんなにご飯食べたいのか?」

「ちがう……むー」

「んじゃなんだよ」

「アックス、シオンはね、こう言いたいのよ“私の寝起きの顔を見た男はあなたが初めてなんだから責任取ってよね”と」

 そんなことをラピスが口にした途端。

「だっ誰がそんなこと言った! 何時何分何秒!」

 お前は小学生か。

「ん、別に寝起きの顔くらいいいだろ? 裸見たわけじゃないし。パンダ可愛いし。それにお父さんとかに見られたことくらいあるだろ?」

 と素朴な疑問を口にする。

「パ、パパとあなたはちがうでしょ!」

「そっか? ん~年齢的には意外と近いきもするんだけどなぁ」

「年齢とかの問題じゃないでしょ!」

「ふむ、じゃあどんな問題なんだ?」

「そ、それは男と女の……こう」

「こう?」

「うがーーーもういいわよ!」

「何か投げ出されたぞ」

 と首をかしげる俺に。

「あなたはもう少し乙女の気持ちを理解したほうがいいわよ」

 ラピスが言う。

「ふ、俺様は乙女の気持ちに関してはばっちりだぜ! 何しろイノリと二人暮らしが長かったからな!」

 と言い放ちつつその妹の方を見たら。

「……」

 沈黙のあと眼を逸らされた。

「あれ~?」

「あなたホントに自覚無いのね。私と二人の時もそうだったけどもう少し考えて言動をしたほうがいいわよ」

「別にいいよ俺は皆に好かれようとは思って無いし、ただ信頼はしてほしいけどな、あ、イノリには好かれてたいな」

 と良い笑顔で妹のほうを見るとなにやら複雑な顔で。

「はぁ、私はどんな兄さんでも大好きですよ」

 となぜか溜息混じりに言われた。ふむ、顔がもうちょっとうまくできないんですか? といっている何やら色々とバレているらしい。

「はっ! 誰があんたなんか好きになるか、生きて帰る為に精々利用してやるわよ」

 とシオンがはき捨てるように言い。

「あなたホントに不器用ね」

 とこちらもすべて見透かしたようにラピスが言い。

「ねぇねぇ何のはなし~」

 と何も考えてなさそうなリリィが元気ハツラツな超絶笑顔で席につきつつ会話に混ざる。

「この馬鹿が乙女の気持ちを踏みにじったのよ!」

 と言い放つシオンの言葉に。

「ん~、どうせまたアホなこと考えてるだけでしょ? たとえば嫌われてた方がもし自分が死んだ時に私達が気に病まないようにとかなんとか~そんなことよりご飯食べようよーおなかすいたー」

 わーいばっさりだぁ、ものの見事にばっさりだぁ。あぁそんな“え、何そんな恥ずかしいこと考えてたの?”っていう眼でシオンがこっちをボーっと見てるぅぅいやぁあああこっぱずかしいいいい。

「どしたの皆? たべようよー」

「そうね食べましょう」

「そうですね、いただきましょう兄さん」

「お、おう、ほらシオンも手を合わせて」

「え、ええ」

「いっただっきまーっす♪」

「「「「いただきます」」」」「がおー♪」

 こうして楽しい食事が始まった。おかしいな胃が痛いぞ?






 やっぱりこの人は変な人ね。

 ここ数十日ほどアックスと二人で生活していた私は薄々気づいていた事を改めて実感した。確かリアルで初めて出会った時も変なことを言っていた。

“俺を好きになってくれた人を裏切るわけ無いじゃん”

 アレはたぶん本心なんだろう、だけどこの言葉は自分を犠牲にしすぎてる、あの時は一瞬虚を突かれたが後から考えれば方便だと思えた。でもこの世界で二人で旅してきたから解る、あの言葉は真実。こちらが信じれば無条件で信じてくれる、少なくとも私はそう確信している。

 

 さっきから居心地悪そうにパンをもしゃもしゃと食べている歳が一回り離れた男を眺めるとこの二人で旅をしていた時の事が色々と思い出される。

 最初は咲百合があれだけ心を許しているからと言う理由だけで信じてみようと思った、けれどそんな思いは次第に薄れていった。彼はホントに無駄なところまで私を気遣ってくれた、それこそ小さい子供に対して接するような……いやアレはきっと妹に接するように接していたのだろうとイノリさんに出会った今では思う。

 そう、きっと彼には乙女心はわからない、でも家族愛のような物で私たちを包んでいる。まあ本人的には何も考えてない気もしないでもないけど。


 特訓してるときもそうだったまず自分がやってみた後に私に試していた。当たり前なのかも知れないが何が起こるかわからないこの世界で最初に試すのはかなり勇気がいることだろう、それを彼は何の気なしにやってのけていた。


「ホントにあなたはめんどくさい人ね」

 そう呟いた私の声を耳ざとく聞きつけた本人が。

「……褒められた?」

 何やら嬉しそうにそんな疑問の言葉を返してくる。

「褒めてません」

「おかしいな……そろそろラピス語を理解できそうだと思ったのに」

 何よそのラピス語って、私はちゃんと日本語で話してるわよ。

「ん~いや今のは褒めてたよ~あ、ソースとって~」

 咲百合め余計なことを……チラッとアックスのほうを見ると右手の親指をグッ! と突き出し何故かいい笑顔でサムズアップしていた。ほんとに訳がわからない。


 その後は終止無言のシオンと何やら楽しそうなイノリさん、何を考えてるのかわからないリリィとニヘラっと笑いながらご飯を食べるアックスが居た。


「それで、これからどうするの?」

 食後のハーブティーを飲みながら私が言う。

「どうするって?」

 食べ過ぎたのかクリスにもたれて寝転がるリリィが聞き返し。

「大きく分けて二つですね」

 そうイノリさんが提案し。

「クリアを目指すか目指さないか」

 クリスの肉球をいじりながら無表情に……若干不機嫌にシオンが答え。

「みんなで幸せになろうよ」

 アックスが名言を吐いたところで。

「「「「はぁ……」」」」

 女性陣が溜息をつく。

「あれ? 俺何か変なこと言った?」

「兄さんはもう少しまじめに生きてください」

「でもそれってもうアックスじゃないような」

 イノリさんの懇願の言葉にリリィがバッサリとツッコミを入れる。

「俺って一体……」

「そんな事どうでもいいからどうするのよ?」

 とシオンが言う後ろで「どうでもいいのか……しくしく」と何やら聞こえるが皆華麗にスルーしてイノリさんが答える。

「その二択でしたらクリアを目指すという事にはなるとは思うのですが」

「まずはもう少し特訓しないとね、昨日のあんなのレベルならどうとでもなるけど正直アックスみたいなのが何人かいたら勝てる気はしないなぁ」

 そう提案したリリィの言葉にシオンが素朴な疑問を口にする。

「そんなに強いのこの変態」

「そういえばシオンさんは兄さんが戦ってるの見たこと無いんでしたっけ?」

「あーそっかぁそうだったね~アックスもシオンの魔法あんまり見たこと無いよね」

「そだなー昨日のくらいかな見たのは」

「それでは良い機会ですし模擬戦をやってみましょう」

 とイノリさんが提案したので私は。

「そうね、私も皆の動きをちゃんと見てみたいし見学するわ」

 と見学を提案した所。

「ラピスも参加だよーチーム割どうしよっか?」

 何やらそんなことを言い出すリリィ。

「え、私も? でもレベルが違いすぎない?」

「じゃあさ、俺とラピス対ほか三人+一匹の昨日までのパーティでやらないか?」

「良いんですか? さすがにそれは兄さんでも」

「ラピスを甘く見ると死ぬぞー死んじゃうぞー」

「いえ別にそういう意味では、遠距離攻撃がそちらは1人もいませんよ?」

「大丈夫だ当たらなければどうということはない」

「言ったなぁ剣山にしてあげるからね!」

「黒焦げにしてあげるわ」

「手加減はしませんよ兄さん」

「ふ、俺とラピスの愛の力を見せてやるぜ!」

 そんなアックスのお馬鹿な言葉に。

「へぇ~」

 ジトーっと言う音が聞こえそうな視線を突き刺しながらリリィが。

「……」

 こちらも無言で突き刺さりそうな視線を返すシオン。

「兄さんいつの間に」

 と何やら驚愕するイノリさん。とまあアックスの不用意な一言に三者三様の感情をあらわにする。

「あれ? 俺何か間違った?」

「はぁ、ホントにあなたってひとは」

 ホントにこの人は何を考えてるのかしら。



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