くえすと13 出会いは続くよ
ぴぴぴぴぴぴぴぴpガチャ! むぅ……あさか…
「う゛~」
そう唸りながら私は起き上がる……起き上がったと思う。そのままぺとぺとぺとと廊下に出る、そのまま階段まで歩き一階に降りると洗面台まで歩くその途中トイレから出てきた人と挨拶を交わす。
「お゛はよ゛うぅぅ」
「おう、おはよう」
無意識のなか挨拶を交わしたどり着いた洗面所で軽くうがいをする。鏡をぼーっと一瞬眺めた時なにか思考の隅に引っかかったがそのまま隅に置いておく。そんな事よりもご飯である、ぐ~と唸るお腹さんに餌を上げるお仕事をしないと朝が始まらないのだ。
「おはよーゆりちゃん、小野さんもおはようございます」
「お゛はよ゛~」
「おはようございます留美さん」
さてとご飯だ……
「いただきまする」
「いただきます」
「はいどうぞー」
もしゃもしゃとサラダをほうばり咀嚼する。牛乳をゴキュゴキュ飲み、目玉焼きを食べつつパンをかじる、もきゅもきゅもきゅっと口を動かしお腹さんに食べ物を送っているとだんだん意識がはっきりしてくる……ん? 何かいつもと違うような? 周りをぼへーっと眺めるお母さんがキッチンから自分のパンを持って歩いてくる、さらに視線を動かす、目の前のお父さんの席に見慣れない男の人が……って。
「あ、あ、あ、アックス!」
「だからこっちでその名前はやめろってシゲっちでいいからさ」
いやいやいやいや何でコイツがここにって私が呼んだんだったぁぁぁぁぁぁ! っと悶絶したところではたと気づく、視線を素早く下に落とす、よしパジャマは着てる半分脱げてたりはしない! 顔っ見えないからわかんない! 多分ヨダレは出てないと思いたいっ髪の毛! ガッとあたまを両手で触るともっさもっさしていた。
「ふひょおぅお」
そう言って……叫んで? 席を立つと。
「ごちそうさま!」
っと手を合わせダッシュで食器を片付け洗面所に走る、後ろで「なにしてるんだあいつ?」「うふふ乙女は大変なんですよ、それじゃぁいただきます」などという声が聞こえるが今はそれどころではないってかお母さんもお母さんだ何か言ってくれればいいのにぃ。などと半ベソかきながら洗面所にたどり着き髪の毛をどうにかしようと悪戦苦闘を始めるのであった……それから十数分後歯磨きまで終わって鏡の前で気合を入れる。
「よし! 準備完了!」
……あれ? 何でこんなに気合入れてるんだ? と一瞬思ったがまあいっかとリビングに戻ると。
「変身するんですね」
「ええ変身しますよ」
「でも私は変身前が好きだなぁ」
「まあ女の人は大体そう言いますね」
いまだに続いてる仮面をつけたライダーさんを二人仲良く見ていた……何だこれ? と困惑してると。
「あ、ゆりちゃんおかえりーこのライダーさん面白いわよ変身するの」
「え、あぁうん知ってる私はもう一人のほうが好きだけど」
「え、もうひとりいるの?」
「あぁ多分もうすぐ出てきますよ、あ、ほら」
「へーこっちのライダーさんは渋めなんですね。ふ~ん、ゆりちゃんは渋いのがタイプなのかぁ」
「いや別にそういう意味の好きじゃないんだけどって、これは一体なにしてるの?」
そんな疑問を投げかけると
「「TV見てる(のよ)?」」
ハモってるし。
「いやそれは見たらわかるし。はぁ、もういいわよ、それよりシゲっち今日どっか行かない? 案内してあげるわよ」
そう昨日の夜に決めた計画を実行しようと告げた私に。
「え、プリキュア見た後ならいいけど?」
頭痛が痛い……あの日かな? などと幻痛に苦しんでいる場合ではないので。
「見てからでいいわよ私も用意があるし」
そう言い残し自分の部屋へと戻る道すがらリビングから「蹴ったら爆発しちゃった! なんでどうして!」とお母さんの疑問の声が聞こえてきた……何で何だろねほんと? そんな事を考えつつ部屋に戻った私はTVの電源を入れチャンネルを合わせクローゼットに成っている別の壁を開け着替えを物色し始める。と言ってもウニクロが8割を閉めるのだが。
「さてと適当に着るかな」
などと呟きつつパジャマを脱いだところでTVからプリキュアが流れ始める。
「うむ、今週も可愛いな皆」
もちろん私もプリキュアは見ている。
そんなこんなで博多と言うか天神に繰り出すことになったわけだけど。流石に日曜日のプライベートなお出かけに朱美さんを呼ぶわけにはいかず比較的空いているバスに乗り込みのんびりと天神に向かう、まあ都市高速を経由するので意外と早く着いたりするのだけどね。
五月七日の日曜日、どんたくと言われるお祭り? が終わった後の博多の街はまさに皐月晴れと言った陽気でそんな中何やらテンション高め――と言ってもリアルで会ったのは昨日が始めてなのだが、いつもこうなのかな?――のゆりに引きずられる様にあっちこっちを見て回っていたのだかなんでゲマズだけ離れてるの? なんでなの? まあ取り敢えずお腹が空いたのと何処かで涼みたいです。ぽっちゃり系の俺はあんまり動くとオーバーヒートしちゃうのさ! て事で。
「暑くてお腹空いたんだけど涼しい所で美味しいものが食べたいです」
と案内役に注文を出して見た所。
「涼しい所で美味しい所かぁ~ん~あっ! そうだこの間友達に「はい、いつもの誕生日プレゼントただし高校生になったからカップル限定になったわよ、ふふふふ」って言って貰ったのが確かここに」
そう言いながら何やら鞄から小物入れを取り出しそこからチケットの様な物を俺に見せてくる。
「あの~この手作り感満載の肩たたき券的な物は何でしょう? コレでご飯食べれるの?」
「失礼ね。でもどう見ても肩たたき券よね……でもちゃんとした物よ毎年プレゼントで貰ってるんだけど今年から難易度が上がっちゃってね」
「あ~カップル限定じゃあな、そんでそいつの家って食べ物屋さんなんだ」
「んーちょっと違う気もするけどご飯は美味しいわよソコ、それじゃちょっと電話するから待っててね」
そう言って端末を取り出し何やら電話をかけ始めたゆりを眺めながら、お嬢様学校の誕生日プレゼントも結構庶民的なんだなぁと、思った俺がバカでした。電話が終ったゆりがおもむろにタクシーを止め乗り込んだ時に気付くべきだったんだ。着いたそこにはなにやら大きなホテルが建っていらっしゃった……あーここ知ってるよーあのねーダンジョンがあってねーそこのボスがねー。
「何ぼーっと突っ立てるの? 入るわよ」
マジでここなの? 隣の鷹さんのドームでホットドックかショッピングモールでランチでもいいのよ? などと考えている間にファミレスに入るかのごとくテクテク歩いて行くゆりさん十六歳。
「待って俺を一人にしないで」
一人でテクテクと歩いて行くゆりの後をわたわたと付いて行く。ちなみに本日のゆりさんのお召し物はダボッとしたいかにもユニクロなパーカーで髪の毛もてきとーに整えてるだけなので特に目立たない。よく見ると可愛いのはわかるんだけどダボッとした服のせいでスタイルも分かりづらいためパッとと見はそこらにいる女子高生にしか見えないので周りの人も全然気にしない……いやまて福岡ではこのクラスの人間がゴロゴロいて気にならないのか? とホテル内の人をチラッと見てみたところこう言っちゃ何だけど普通の人たちばかりだった。しかしこんなホテルとか友達の結婚式以来だなぁとエレベーターに乗りつつ思い出しているとポーンと言う音と共にドアが開く。
そして今更ながらに気づいた俺達の場違いさに。どう考えてもドレスコードを満たしてるとは思えない、だって俺ジーパンにポロシャツだぜ? 隣のヤツだってウニクロセットだぜ? 流石に無理でしよ? と一人であれこれ考えてる間に入り口に立ってる人に何やら話しかけるゆりさん――ウニクロ装備――を遠目で他の予約客っぽいいかにもお金かかってます装備の方々がニヤニヤと見ている、ですよねーそうですよねーRPGに例えるなら初期装備でラストダンジョンに着てるようなもんですもんねー。とつとめて他人のふりをしようと頑張るが明らかに浮いてるペアなので一目瞭然なのか俺も指さされてる。うぁーん帰りたいようママー、あぁママの元に帰ったら遠い所に行ってしまうどうしよう? と現実逃避している俺の脇腹に「てりゃ」と言う掛け声と共に肘がめり込む。
「あべしっ!」
いってーなおい! と振り向くと。ゆりと何やら品のいいおじ様が立っていた。
「紹介するわよ、この人が私のお友達のお父さんでこのレストランのオーナー」
「痛いよ? ねえ痛いんだけど? ってかオーナー?」
「で、こっちが私のお友達のシゲっち」
そんな適当な紹介をされつつ渋いおじさんを見てみると。
「よろしくお願いします、えーと」
ここは社会人同士なのでちゃんと自己紹介をと思ったのだが。
「あー硬い挨拶は無しの方向で、あくまでお友達から貰った誕生日プレゼントのお食事券をお友達のお店で使うだけって事でひとつよろしくおじ様」
その一言でさくっとキャンセルされる。まあ確かにそう言う状況だしな。
「ゆりちゃんは相変わらずだね、わかったよ、じゃあ硬い挨拶は抜きで入った入った一番良い部屋が空いてるからそこを使って良いよ」
「わーい、あそこ眺めが良いんだよね~」
と若干は声を落としているが明らかに場にそぐわない雰囲気でトテトテと店の奥に消えて行く二人、それを見守る他のお客の視線が俺に向けられる……いや「え、あんた達何者?」的な目で見られても知らんがな。初期装備だと思ってたらレベルカンストしてて遊びできました的な感じかな? 取り敢えずこのままここにいてもしょうがないので荷物を持ってその後を追う……うぅ視線がいたい。
逃げるようにたどり着いた最奥の個室で一息ついた俺はその眺望に目を奪われる。いつの間にかおじさんはいなくなっていた。
「おー凄いなリアルの風景はこう見えるのか」
「あっちで来たことあるの?」
「あぁ、テストの時になココら辺はダンジョンが多いから結構着てたんだ」
「へぇ、じゃあ今度連れて行ってよ」
「いいけどお前死ぬぞ一撃で」
「マジデ?」
「わりかしマジで、しかも焼かれたり凍らされたり結構大変だぜ」
「うーむ」
なんか唸りだしたゆりを放っておいて運ばれてきた料理を眺める……が何が何やらわからない。
「なぁ、コレナニ料理なの?」
なおも唸っている相棒に聞いてみたところ。
「え? あぁ、美味しい料理?」
わけがわからない答えが返ってきた。
「いや美味しそうなのはわかったからさ何処のお国の料理なのかなと」
「知らないわよ」
「えーお嬢様だろお前」
「うちは成金なのよ、そして基本的にうちの家族は和食党なのよ」
「つまり?」
「マナーはわかるけどコレが何の料理かはわからないということよ!」
「な、なんだってー(棒)」
「別にいいじゃん美味しければ、いただきます」
「いただきます。まあそうだけどさ、でもさ何でお前の前には箸が置いてあるんだ?」
「そんなの決まってるじゃないフォークとナイフなんて使いづらいからよ」
「さっきマナーは知ってるって」
「知ってはいるけどマナーに従うとは言ってないわよ、それに」
「それに?」
「お友達のおうちでご飯食べるのにそんな細かいマナーとか気にする?」
「……まああんまり気にしないかな」
「でしょ? 最低限の食事のマナーだけ守ってれば世の中はなんとかなるのよ、あぁちなみにそれ飲む水じゃないわよ指洗うやつだから」
でっかいグラスをのぞき込んでいた俺にそんなツッコミを入れる頼もしい相棒、ふう飲むとこだったぜ。その時ドアがノックされる。
「どうぞ~」
とゆりが答えると。
「失礼致します」
と何やら上品そうなお嬢さんが入ってきた、何この美少女! 料理のおまけでついてくるの? 凄いな上流階級は!
「やっほーご飯おいしいよー」
「はぁ、もうゆりったらまたそんな格好で」
「ウニクロ馬鹿にするなよコレでも頑丈なんだぞ!」
「いや頑丈かどうかという話はしていないでしょ?」
なんか違うみたいだけど誰なんだろなこの美少女、ここは取り敢えず聞いて見ることが問題解決の早道だってことで。
「なあこの美少女は誰なの?」
「ん? さっきのお食事券を私にプレゼントした当人よ」
ふ~んってこの美少女が? さっきの肩たたき券の親戚を作ったの? マジデ? てかゆりと同じ年なの? コレで? なんか色々と間違ってないか? どう見ても…あーよく見ると歳相応の顔立ちなのかな? そこにいい具合に化粧を施して高い衣装のような服を着込んでるって感じだな。まあ服装的には俺達がこの場合おかしいんだろうけど。
「失礼いたしました、わたくし咲百合さんの古くからの友人で西園寺瑠璃と申します、よろしくお願いいたします」
「早い話が幼馴染よ、るりっぺでいいわよ呼び方は もぐもぐ」
「いいわけ無いでしょ! なんで小学校の時の渾名で呼ぶのよ!」
「いいじゃんかーけちーじゃあ私のことも咲百合さんって呼んでよ~」
「あなたの場合そう呼んだら怒るでしょ」
「まあねー、いいじゃん渾名のほうが友達っぽくて」
「まあいいけど、それでこちらの方はいつ紹介してくれるのかしら?」
と鋭く眼光を煌めかせながら視線をこちらに向けてくる瑠璃お嬢様。でもどことなく頑張ってる感じが出て可愛い。いいなぁなんか委員長みたいで可愛いなぁなどと考えてると。
「あぁ私の友達でシゲっち」
一瞬で俺の紹介が終わっていた。えぇ~っと言う顔をゆりに向けると瑠璃お嬢様も、まてこらちゃんと紹介しろよって顔でゆりを見ていた。うん可愛いな。
「へぇ、あなたがプライベートで友達と言って紹介する人私のほかにも居たのね、でもねゆり、もうちょっとちゃんと紹介してもらえないかしら?」
「えーメンドクサイしーシゲっちでいいじゃん、ねぇ? もきゅもきゅ」
と俺に向かって言ってきたので仕方ないので自分で名乗ることにする。
「えっと小野茂って言います。一応コイツの友達ですよろしくお願いいたします」
「恋人とかではないのですか?」
「いえいえ全然、それに歳だって離れてるし恋人は無理があるでしょ」
「年齢の方は私達の場合はそれほど関係ないですから」
と何やら暗い表情になるお嬢様だったが。
「まあそれはいいけどゆり、貴方休み前と雰囲気が変わってない? ひょっとしてこの人のせいかしら」
何やら話が変な方に、ふむやっぱりお友達から見ても変わっちゃってるのか。
「もぎゅもぎゅ……ん~こないだお母さん達にも言われたけどそんなに違うかな?」
と海老さんを飲み込み答えるゆりに。
「ええ、まあ変わったというより戻ったという方が正しいのかもしれないけど。私は今のほうが好きよ」
ほうほうこれはこれで。
「残念だけどその百合は咲かせないわよ? 咲百合だけどね!」
なにやら今上手いことを言った的な顔をしてるけど微妙に分かりづらいぞそれ。
「……友達辞めたく成って来たんだけど」
おう、わかるんだ。
「ごめんなさい、もう言わないので見捨てないでください」
「はぁ、もういいわよ、では小野様はただの友達ということですか」
何やらこっちを見ながらそう言ってくる。ちょっとキツ目の顔の作りが頑張ってる感じを際立たせて可愛いな。
「えっと西園寺さんそんなに畏まらなくていいですよ、こいつに話すみたいな感じでいいですから」
「もきゅもきゅごくん、そうだよこんなのにそんな畏まって話さなくてもいいよ寧ろ憐れむくらいで」
「そうそう憐れんでくれて構いませんよ?」
「えっと小野様は何でそんなに期待に満ちた目をなさってるんですか?」
え、俺そんなに期待してた? だって委員長っぽいキャラなんだぜ? 蔑まれたり憐れまれたりするのが男のロマンだよな!
「あー気にしなくていいよただの変態だからそいつ」
「へ、変態なの? 大丈夫なのそんな人と一緒にいて」
「うん、変態だけど紳士だから手は出してこないわよ」
「なんか良く分からないけどゆりが大丈夫って言うなら大丈夫なんでしょうね」
良く分からないけどお嬢様の中で俺の立ち位置が決まったのかな? まあそれはさて置き。
「西園寺さんに一つお願いがあります」
「えっと何でしょうか?」
「ぜひメガネをかけていただきたい」
「え? 一体どういう事なのでしょう?」
「もきゅもきゅごくん、あーわかるわーメガネかーそれも細いやつね」
「人を委員長キャラにしないでください!」
「お、わかる人なの?」
「あ~私にその道を説いた張本人だからね」
「おお、そうだったのか流石るりっぺ」
「い、いきなり渾名! しかもそれっ!」
「べつにいいじゃんるりっぺ」
水を飲みつつ俺に続いてそう呼ぶゆり。
「良くなわよ!」
「えーゲートキーパーっぽくてかっこいいのに」
「え、あなた元ネタ知ってるの?」
「ヨタハチ買おうとしたら高くて買えなかった男がこの俺だぜ?」
「あんたそれ何の自慢にもなってないわよ」
「そんな事いいですらあなたもそっち系なのですね?」
何やらシゲっちと意気投合したらしく瑠璃が楽しそうに話しかけているのを横目で見ながら美味しい料理をもぎゅもぎゅと食べる……
「もぎゅもぎゅ」
料理はすごく美味しいのだけどなにか心に引っかかる、楽しそうに話す瑠璃とシゲっちその二人を見ていると何かこう胸の奥が……っは! コレがまさか世に聞くアレだな、殺意の波動!
なるほどな、つまりは一応お誕生日のお祝いで呼ばれてるのに私をほったらかしで二人で楽しそうに話してるのにいらついてるんだなきっと、うん、そうにに違いない!
「ねぇ、瑠璃ぃ私とも話そうよう」
「何言ってるのあなたとは学校で話せるでしょ? 茂さんは今しか話せないじゃない」
「むーじゃあ私も話に混ぜてよー」
「あなたはちゃんと料理食べてなさい、ウチのスタッフがあなたのお誕生日をお祝いして精魂込めて作ってるんだから残したら怒るわよ?」
ぐぬぬ、瑠璃が怒ると色々怖いのでここは黙って料理を食べようそうしよう……
「ってシゲっちもご飯食べに来てるんだけど全然食べてないわよいいの?」
「あら、でしたら私が食べさせてあげますわ」
「何でそうなるのよ!」
「あら、ゆりが食べさせたかったの?」
「そんなわけないでしょ!」
「あ、あのー取り敢えず俺もお腹空いてるんでご飯食べたいんだけど、自分で食べれるから気にしないで?」
「残念ですわまだ話し足りないのに…」
「てかあんた婚約者いるのに他の男とそんなにベタベタしてて良いの?」
「だってあの方こういった話は全然ダメなんだもの、それに何処の馬の骨ともわからない男性ならまずいでしょうけどゆりのお友達ってことならその辺りは大丈夫でしょうし」
うーむ、そんなに信用されてもなぁシゲっちなんて会ったのリアル時間だと一昨日が初めてなんだけど……まあ変なこと考えたりはしないだろうけどね。それにしても。
「ねぇ、何でシゲっちはそんなに挙動不審なの?」
そうさっきから居心地悪そうにしているのだ、私とあっちで出会った時より更に不審な動きをしている。ホテルに来た時は慣れてないんだろうかなとは思ったが瑠璃が来てから更に変になった気がする。ひょっとして瑠璃みたいな子がタイプなのかな。
「え、そんなに俺おかしい?」
「かなり」
「そうなんですの? こういった方なのかと思ってましたけど」
「いや流石にこんな人とは私は友達になりたくないな」
「何気に酷いこと言うよなゆりって」
「んなことはいいから何でそんなに挙動不審なのよ」
「あー多分アレだよ女の子にいい思い出がないからかな?」
「どういう事なの?」
そう私に問いかける瑠璃。なんで私に聞くのよ。
「私に聞かれても知らないわよ、どういうことなのシゲっち」
「平たくいうと俺なんかにこんな可愛い女の子が話しかけてくるなんて裏がありそう、って思っちゃうんだよ」
「あらいやですわ可愛いだなんて」
社交辞令じゃないと感じてるのか本気で照れている瑠璃は置いといて。
「あんた一体昔何があったのよ」
「んー長いのと短いのどっちがいい?」
「短いの」
「女に騙された」
「わかりやすくて素晴らしい花まるをあげよう」
「まあ、何となく理由はわかったのですが、そうなると一つ確認しなければならないことがありますわ」
「何?」
と聞く私の視界の隅でギクリと言う擬音が聞こえそうな勢いで固まるシゲっち、何だろ?
「つまり茂さんは私が上辺だけで親しくして内心であざ笑ってると思っていると?」
その言葉に押し黙るシゲっち、あーそういう事ね、コレは助け舟出してあげるかな。
「まあ、ぶっちゃけそう思ってると思うよ、でも私に対しても最初に会った時そんな感じで警戒されたしね」
「そうなの?」
「うん、まあ出会い方がアレだったからもうちょっとマシだったけどね、取り敢えず警戒する原因の一つは瑠璃の話し方よ」
「話し方?」
「そ。そのお嬢様口調と言うか何というかそれが何か上辺を取り繕ってるように聞こえるんでしょ?」
とシゲッちに振ってみるとコクコクと頷く。
「あとはアレでしょ、俺いま汗臭いんだけどそんなに近づかないでとか思ってるんでしょ? 嫌だったら最初から近づかないわよ、それに瑠璃は私よりそういうのズバズバ言うわよ人の友だちとか関係なしに。てか逆に友達とかの方がずけずけ言うわね」
「ちょっとゆり、それだと私がかなり酷い人に聞こえるんだけど気のせいかしら?」
「きっと気のせいじゃないわよ」
「ふふふふ。ぶち殺すわよ」
「ほら、こういう子だから気にしなくていいのよシゲっち」
「どういう子なのかわかりませんが、私は嘘偽りが好きではないので人を騙そうとかはしませんわ、影で嘲笑うなら堂々と嘲笑いたします」
「あんた自分で結構酷いこと言ってるってわかってる?」
「気のせいよ」
「はぁ、まあこんなのだから変に構えなくていいわよ私に接するように接せればいいわよ」
「そうですわ、ゆりのお友達は私のお友達も同然なのですから遠慮なさらなくてもいいのですよ」
「そ、そっか、なら早速一つ聞きたいことがあるんだけど」
「なんですの?」
真剣な顔で見つめられ顔をこわばらせる瑠璃を見ながらフォークで何か良くわからないお肉を口に運ぶ、もきゅもきゅ美味しいなぁ……なんか忘れてるような。
「縞パンは何色派?」
もきゅもきゅもきゅもきゅと私の口を動かす音だけが静かに響く……ぁーうんコイツはこんなヤツだったなぁそんな事を思いつつ瑠璃の顔を見てみると一瞬何を言われたのかわからなかったようで小首をかしげていたのだが突如として顔が真っ赤になり。
「なっなななななな何を突然聞いてくるんですか! 変態ですかあなたはっ!」
ガタッ! と席を立ちズビシッ!っとシゲっちを指さしながら一気にまくし立てる瑠璃……そして。
「遠慮せずにって言ったのに。やっぱり嘘なのか……コレだから女は」
何やら凄い闇のオーラを発しつつダークサイドに落ちていくおっさんが一人。も~見てらんないなぁと、もきゅもきゅごくんとお肉を飲み込んだ私はさらなる助け舟を出す。、
「あーぁ、瑠璃っペが嘘ついたーひどいんだーもう立ち直れないぞーコレはやばいかもしれないなぁもう結婚どころか一生彼女できないかもなぁ」
「わ、私は悪くないわよっ! あんなこと聞くほうが間違ってるでしょ!」
「んー私は初対面の時スクール水着着せられそうに成ったりしたけどなぁ、その翌日にパンチラについて熱く語られたりもしたな」
「い、いったいあなた達はどんな友達なの」
「まあ色々とね、あ、ちなみに私は水色派だよ縞パン」
「ちょっ何をさらっとそんな事言ってますの!」
「いいじゃん別に穿いて見せろって言われてるわけでもないしそもそもわざと見せようとしてもシゲっちは嫌がるんだけどね」
「えええ! あなた達いったい何をしてるのよ!」
「そもそも多分本人的には漫画とかのキャラの話だと思うんだけど? 何であんたそんなに恥ずかしがってるの?」
と、からかうように言ってみる。
「そ、そんな事わかってるわよ逆にあなたはなんでそんなに平気なのよ?」
「んー現実とあっちは切り離して考えてたからかな? でもそう思ってただけって気付かされて更に強く切り離すように成ったんだけどね」
「えっといったい何が有ったの?」
「ちょっとゲームでね」
「あぁVRゲームね、最初は戸惑うわよね」
「そっか瑠璃はVRゲームもやってるんだっけ」
「嗜み程度には」
「オンラインゲームは?」
「いまどきオンラインじゃないゲームはないと思うのだけれど多分MMORPGの事でしょ?」
「そうそれ」
「私はやってないわよ時間がかかるから」
「あー、だよねー色々やってるもんね瑠璃は」
「あなたがやらないだけよ」
「むー、いいじゃん別に、それにアニメとか漫画教えてくれたの瑠璃じゃん」
「まあ、そうだけどこんなにハマるとは思わなかったわ」
「その節はありがとうございました」
「いいのよ、お祖父様も喜んでらしたし」
「おじーちゃん元気?」
「元気すぎて困ってるわ。この間またおばあさまが変わったわよ」
「それはそれはお元気そうで」
「もうほんとに男の人って……私もどうなるか」
「んーそればっかりはねぇそだ男の意見も聞いてみよう、シゲっちどうよその辺」
と視線を静かなシゲっちに向けると。
「んー、なにがーもぎゅもぎゅもぎゅ」
「あんたねぇいつの間にか復活してるのはいいとして話くらい聞いてなさいよ」
「だって美味しいんだもん」
「否定出来ないトコが悔しい」
「で、なんだって?」
ごきゅんと何かを飲み込んだシゲっちが話を振って来る。
「男は何で浮気するかって話」
「女もするじゃん」
「デスヨネー」
「身も蓋もないわね」
「あー、んじゃシゲっちは浮気する?」
「えっとコレは新手のいじめ? 俺が彼女いない歴イコール年齢ってことを知ってて言ってるんだよな」
「あ、そうだったごめんごめん」
「お詫びにコレおかわりしていい?」
なんか言ってきたのでチラッと瑠璃を見る呆れた顔をしてるがOKっぽい。
「いいってさ」
「わーい、多分これかな? 海老っぽい名前のやつを二つぽちぽちっと」
「凄い注文の仕方ね、それになんで二つなのよ」
「美味しいから」
「はいはい、もういいわよ」
「んで俺が浮気するかだったっけ? んーまあわかんないけど俺はしないよ。たぶん」
「何でそう言えるわけ?」
「だって浮気する相手が居ないしそれに」
「それに?」
「俺を好きになってくれた人を裏切るわけ無いじゃん、でもヤンデレ系は簡便な」
何を言ってるんだお前? 的な顔で見られた。あーうん何となくわかってたけどコイツ自分に素直っていうかまっすぐと言うか馬鹿だよね、こんなこっ恥ずかしいこと真顔でよく言えるよねぇ。
「はぁ、全然参考にならなかったわねって瑠璃どうしたの?」
何やら瑠璃がぼーっとして目をパチパチしていた、眠いのかな?
「い、いえ別になんでもないわよ」
ふむ、良くわかんないけどまあいっか、とデザートに出てきたアイスクリームをパクパク食べながらこの後のことに思いを馳せる私だった。
お昼ごはんを食べ終わると結構いい時間だったのでるりっぺにご飯のお礼を言って俺達はゆりの家に戻ってきていた。何故か帰り際に厨房に招かれたゆりが感想を述べてシェフが喜んでいたがいったい何だったんだろう。デザート美味しかった! ってゆりが言ったら多分担当の人がすっごいガッツポーズしてたのが印象深かったなその後何故かみんなで写真撮って帰ったんだけどホント何だったんだろ。
五ノ宮邸に帰り着いた俺はパタパタと帰り支度を開始したのだがそれを横で見ていたゆりが何やら不満気に。
「ねー、もう帰っちゃうのー」
そんな事を言っている。
「いや明日仕事あるし」
「えー休めばいいじゃん」
「さらっとめちゃくちゃなこと言うなお前」
「惚れなおした?」
「そもそも惚れてない」
「なん……だと?」
「なんかこの会話も飽きてきたぞ?」
「そう? あの漫画好きだから別に嫌じゃないよ?」
「どの辺が好きなの?」
「オサレなトコ」
「お前ほんとに好きなのか?」
「好きだよネタ漫画として」
「ゆり恐ろしい子」
などという会話をしつつ旅行かばんに持って帰る物を詰める。だがお土産を入れてもまだこっちに来た時よりも鞄にはスペースがある。何故かって? 着替えとかは「どうせここに住むんだから置いていきなさいな」と留美さんが半ば強引に持っていった。なぜ持っていったかというとこの部屋に置きっぱなしだとゆりにバレるからだ、つまりゆりは俺がここに住むことをまだ知らない何故かって?「あの子がびっくりするところを見るの楽しいのよ」との事。
しかしお土産買って帰るのはいいけど帰ったら速攻で転勤なわけだよな俺、皆になんて言えばいいんだ、ってアレ? 報告書があるって事はひょっとして俺の周りのやつ薄々気づいてるの? てか俺だけ知らなかったのか? まあ良いけどな等と考えていると階下から声が聞こえた。
「朱美さんきたわよー」
「お、お迎えがきたみたいだなっと」
そう言って荷物を詰め終わった鞄を持ち上げつつゆりの方を見ると。
「うん、じゃあいこっか」
とテンション低目の言葉。
「あっちでいつでも会えるだろ相棒」
頭をぽむぽむしながらそう言ってやると。
「そだね」
と笑顔が返ってきた。うむコイツは笑ってる時がやっぱり可愛いな。
「それじゃあお邪魔しました」
そう言ってお母さんに挨拶しているシゲっちの後ろ姿を朱美さんの車の前で待つ間、もう帰っちゃうんだ、まああっちでいつでも会えるしね。と一人切なさにも似た気持ちを噛み締める。っは! この気持が恋か! どうだろなぁなんかこの気持って瑠璃の家から帰るときの気持ちに似てるぞ? まだ瑠璃と遊ぶーっていうのに近いぞ? って事は私は瑠璃に恋してる! そうか私は百合属性なのか! ゆりだけに! ってこのネタさっきやった気がする。そんな事を考えてると話が終わったのかシゲっちがこちらに歩いてくる。
「もう話はいいの?」
「おう」
「じゃ行こっか」
そう言いながら車に滑りこむ私に続いてトランクに荷物を詰め込んだシゲっちが乗り込む。あれ? やっぱり荷物減ってない? おかしいな昨日おみやげ買ってたから増えてるはずなんだけど。
「どした?」
急に黙った私に何か感じたのかシゲっちがそう聞いてくる。
「いやなんでもないよ、それよりどうだった、私の家楽しかった?」
走りだした車の中でそう問いかけつつ私に一体何を聞いているよ、と冷静にツッコミを入れるもうひとりの私が居たが気にしない方向で行く事にした。
「ん~楽しかったっていうかなんだろうな懐かしいって感じかな」
「懐かしい?」
「人がいる家って久しぶりだったからな」
「そっか」
それから私たちはお互い話しかけることもなく駅へたどり着いた。
「じゃあ、ばいばいシゲっち」
「あれ、中までこないのか?」
「うん、別れが恋しくなるからね」
「泣いてもいいんだぞ?」
「馬鹿」
「んじゃ、またな」
「うん、またね」
そう言って駅の中に消える彼の背中を見送った私はどんな顔をしていたのだろう。
それから三日間彼はFQOに現れなかった、仕事が忙しいのかなと思っていたが流石の三日目にはメールをしてみたところ「わるいちょっとリアルがゴタゴタしててしばらく向うで会えそうにない」と返ってきた。
四日目の放課後朱美さんの車に揺られながらぼんやりと外を眺める。ひょっとして避けられてるのかな、現実の私に会ってみて幻滅しちゃったのかな。やっぱり会わないほうが良かったのかな、といろいろ考えていると。
「お嬢様最近元気が無いようですけどひょっとして彼氏と何か有りました?」
「彼氏じゃないです友達です」
ホントに? 友達ですらなかったんじゃないの? 私だけがそう思ってただけじゃないの?
「そうですか、そう言えば今日は専務がもう帰られてますよ」
「え? ずいぶん早いね」
「ええ、なにかご自宅でやることがあるらしくて部下の方と一緒に先ほどお送りいたしました」
「ふーん、会社の人着てるんだ、じゃあちゃんとしなくちゃね」
「ですね」
そう言っているうちに家の前についたらしく車が停まる。
「それではごきげんよう朱美さん」
「はい、また明日お迎えに参ります。がんばってくださいね」
何をがんばるの? と思いつつお嬢様モードを維持して朱美さんを見送り玄関のロックを外す。
「只今帰りました」
ドアを開け家の中に入る、するとリビングのドアから。
「ゆりちゃんおかえり、お客さん着てるから挨拶していきなさい」
とお母さんが顔をのぞかせていた。
はぁ、メンドクサイなと心のなかで毒づきながらリビングのドアをくぐるとお父さんの向かいにスーツ姿の男が一人私に背を向けて座っている。顔の見える位置に行くのも面倒なのでその場で挨拶をする。
「はじめまして五ノ宮咲百合です、いつも父がお世話になっております」
とスカートの端を軽くつまみ持ち上げつつお嬢様ちっくに一礼をする、とガタっと席をたつ音がするどうやら向こうも挨拶をする気らしいと顔をあげようとしたところで、ぽむっとあたまに手が置かれた。
「なっ!」
初対面の女の子に何をっ! っと顔を上げると。
「リアルのお嬢様ちっくなゆりも可愛いな」
と何やらどこかで見た気がする顔があった。
「え、あれ? なんで?」
思考が追いつかずあうあう言っていると何やらカメラを構えていたお父さんが。
「彼は今度本社勤務に成った小野茂君だ色々事情があって今日からこの家に住むことに成った」
「よろしく」
「よかったねぇゆりちゃん」
「え、なにが? っていうかお母さんなんでビデオカメラ持ってるの? どういう事?」
「ゆりちゃんのびっくりした顔撮るために決まってるじゃない」
「いや、そりゃビックリしたけどって言うかシゲっち何してんのよ!」
「何って、ここに住むんだけど?」
「は、どういう事?」
「いやそのまんまの意味じゃね?」
「小野君くれぐれも娘に変なことをするなよ、その時はわかっているだろうな」
「わかっています専務、お嬢様とはタダの友達です」
「ゆりちゃんかわいそう、しくしく」
「私かわいそうなの!? なんで! ねえ! ねえってばあああああ!」
そんな私の叫びに誰も答えてはくれなかった。
とりあえず一章はここまででなんとなく次から二章っぽい感じになりますがいきなり外伝からになります。
本編に入れ込む場所が無かっただけなんて言えない。




