くえすと11 そしてまた出会う
「おつかれさま~」
ぱたぱたと手を振りながら朱美さんの乗った車を見送る、その隣には。
「俺の人生ってなんだったんだろう」
などとこの世の終わりのような虚ろな目の男が立っていた。
「ちょっとアックス何やってんの? さっさと家の中に入るわよ?」
「へ、もうついたの? 俺の断頭台に」
はぁ、まだそんな事言ってる。
「あーもう、もしクビになったら私が責任取るわよ」
「え、ホントにマジデ? やった!」
「い、今のは別に深い意味はないからね?」
「いやいやもう掃除係とかでいいからさぁありがとなー」
はぁ、まあいいけどね実際深い意味は無いしそんな気もないし。気を取り直して家の鍵を開け、というかドアの前に立つと網膜認証が行われドアノブを握ると指紋認証とDNA認証が行われるので鍵を開けるという動作はないのだけど。
「ただいまー」
ドアを開けながらそう声をかける、そしておもむろに横に避ける、それを不思議そうに見ながらアックスが。
「おじゃましまーっす」
と声を上げると。
「いらっしゃいませー♪」
ハイテンションのお母さんが歌うように歓迎の声を上げるが。
「やっぱり固まったか」
「えーなんでーかわいいのに」
「いや可愛いけどさ」
そう私のお母さんは可愛いどんなに頑張っても二十代にしか見えない下手すると十代に見える可愛さだ。しかも綺麗、何というか私のPCをそのままこっちに持ってきて年をとったらこんな感じといった感じだ! うん、わかんないね。
「たぶん80%くらいはその格好だと思うよ?」
と赤い服を指さす。
「そうかしら? でも私の事を話すときにはコレ着てるのがわかりやすいのよね」
そう言いつつミニスカではないものの短めのスカートの“サンタ服装備”のお母さんは白い袋を肩からおろしつつ。
「フィンランドと言えばサンタじゃない?」
あとはサウナかなと思いつつアックスを見る……そういや茂って名前だったけど別にいいか。
「おーいおっきろー」
ゆさゆさと揺すると。
「っは! 俺は一体。いま目の前にサンタの妖精が」
「あらやだ妖精だなんて」
「え?」
とまたフリーズしかけるアックスの横腹をゴスッ! と殴り。
「紹介するねお母さんの留美」
「え、お母さん? え、ギャグ?」
あーたまに学校の友達とかもこういう反応するよね。三者面談の先生とかも「五ノ宮さんのお姉さんですか? 今日はお母さんが来られるのでは?」とか言うし。まあ解らないでもないけど。
「こう見えてちゃんとお母さんだから大丈夫」
「はじめまして咲百合の母の留美です咲百合をよろしくお願いします」
「何でお嫁に出すような台詞になってるの?」
「え? ゆりちゃんの彼氏さんじゃないの? 男友達をおうちに呼ぶって言うからてっきり」
「ちがーう、ただの友達! それ以上でもそれ以下でも、あーちょっと違うのかな? あれ?」
と首をひねっているとちゃんと再起動したのか。
「あ、はじめまして小野茂と申します、お嬢さんとは距離をおいた適切な関係を気づいておりますのでどうかクビだけは「ってあんたは何を言ってるの!?」え? いや根回しは社会の基本だぜ?」
などという変なやり取りを微笑ましく見ていたお母さんが小首をかしげつつ疑問を投げかけてくる。
「よくわからないんだけど?」
ですよねーとアックスと二人顔を見合わせる。
「えっとね、さっき知ったんだけどこのアッじゃない小野さん、茂さん、茂。うーん」
「なんでそこでお前何悩んでんの? そこ悩むとこなの? 友達からはシゲって呼ばれてるからそんな感じでいいよ」
「おー渾名! キタコレ! じゃあ私もゆりちゃんで!」
「え? それはどうなんだ?」
「いいですよーどうせ私は友達じゃないんですよー」
「あーはいはいゆりちゃんね、わかったよゆりちゃん……ちゃん、ゆりじゃだめ?」
「なおさらグッドだよグーッド!」
「お前のツボが良くわからんな」
「えへへ~」
「ほんとに仲いいのね、それで恋人じゃないなんてやっぱりおかしいような気がするんだけど」
「いやほんとにそんなんじゃないですから俺のタイプはお母様のような素敵なお胸の「死ねこの腐れがあああああああ」ギョフェ!」
この男は一体何を考えてるんだ。こんなのを雇っていてお父さんの会社は大丈夫なのか? いっそのことクビにしてしまったほうが良いのではないか? とふと思ったがまあ目覚めも悪いしなと思い直す。
「えっとね、コイツ実はお父さんの会社の人間だったみたいなの」
「あらあら、そう言えば今回の出張も熊本支社の視察とか言っていたからちょうど入れ違いね」
「え、そうなの? 視察って会社休みの時にするものなの?」
そういう物なのかなと思い口にした言葉に。
「お父さんの会社は決まった休みはないわよ、いつも平日に家に居たりするでしょ?」
そういえばそうだねーと思いつつ、あれ?っと思う。
「ねえシゲっちあんたゴールデンウイークずっと休みじゃなかったっけ?」
「シゲっちって、まあいいけどさ、休みだったけど?」
「あんた大丈夫なのそんなに休んで?」
「いや俺は有給というか色々と頑張ったからご褒美にお休みもらえたからゲーム三昧の日々を過ごそうと」
はいはい、わかったわかったと手をひらひらさせる。
「そんな訳でお父さんの留守中にコイツがうちに上がりこんでるのをお父さんが知ったら」
「死んじゃうわね」
笑顔で死刑宣告するお母さん。
「ええええッ! 社会的地位だけじゃなくてこの世から抹殺されるの俺!? そんなにピンチなの俺!?」
「やあねぇ冗談ですよ冗談」
「留美さんの冗談怖いですよ」
「あんた人のお母さんを名前で呼ぶのやめてよね」
「いやだってさ、おばさんとは呼べないだろ?」
どうよと目線で示す。まあ娘の私から見てもお姉さんにしか見えない、かと言ってお姉さんと呼ばせるのは明らかにおかしい。
「むー留美さんでいい……」
「あらあらゆりちゃんやきもち?」
「ちがーう」
はぁ、とため息をついたところでふと気づく、未だに玄関だ、しかも。
「あ、私着替えてなかった、それにもうお昼だお母さんご飯できてる?」
「ふふふ、私にぬかりはないわよ」
そう言って指を一本たて自慢気に。
「出前を頼んだわ」
などと言い放つ、自分の親ながら何というか。
「ほんとにお父さんが居ないと手を抜くよね」
「もうこの子ったらお客さんの前でそんな事言うもんじゃありません、ただこの服着るのに手間取っちゃって時間がなかっただけよ」
ダメだこいつ早く何とかしないとと思いつつ。
「てかお母さんもその服着替えてよねもう」
「はいはい、では小野さんはリビングでお待ちになってください飲み物とかは冷蔵庫にありますので自由に召し上がってて下さい」
「はぁ、どうも」
そういってシゲっちがリビングに入っていくのを後ろ目に自分の部屋がある二階へと上がる。
ガチャリと重厚感のあるドアを開けると。
「おおう、何もかもがみな……高そうだ」
キョロキョロと周りを眺めつつソファーに座ろうかと手をつく。
「おうふ、何この柔らかさおかしくね? とてもリアルのものとは思えないぞ」
と仮想空間でしか味わったことのないふわもことした感触が伝わってくる、ほんとにコレ座っていいのかなこのジーパンいつ洗ったっけ? 汚れてないよな? っは! さっき車に乗ったときは大丈夫だったかな? 後でクリーニング代とか請求されないよね? まさか給料天引き!?
などとガクブルな考えがあたまをループし座るに座れずインテリアを見てるふりや庭を見てるふりをして暇をつぶす。
「てか庭ひっろいなぁ」
そんなどうでもいい事で庶民との差を実感していると。
「おまったせー、あれ? 何も飲んでないの? てかお母さんまだなの? もう一応お客様なんだからちゃんとお持て成ししなさいよね」
などとゆりがぶつくさ言いつつも冷蔵庫からってそれ冷蔵庫だったの! 壁だと思ってたよ! こほん、気を取り直して、冷蔵庫から車で飲んだ缶ジュースを取り出し投げてくる。
「おおっと、サンキュー」
そう言いながらペキュっとふたを開けコキュコキュ飲む。
「いえいえ、こんな物しかありませんが」
ゆりもそう言いペキュこくこくと飲み始める。
「そういやさコレすっげー美味いんだけどどこで売ってるの?」
そう言って無地の缶ジュースを指さす。
「え? 何言ってるのあんた自分の会社で売ってるもの知らないの?」
え? うちの会社ジュースなんて………売ってたな色々。何で気づかなかったのかって? 俺の部署は商品開発でも営業でもないどちらかと言えば人事部とかの親戚だ。なので何となくは商品知識もあるのだが実際に手に取ることは殆ど無い、何よりうちの取り扱い商品は会員制でしかもすこぶる高い、もうそれは「げっ!」って言うほど高いでも売れる何故かって? 妥協しないからだ。もう全く妥協しない経営陣が基本的に儲けをあんまり考えずに物を作っちゃっう人達らしい。多分ここのお父様もそうだろうけど、良い物を使って更に良い物を作るそして売れたらラッキー程度に利益を上乗せするそして何故か売れるマジ超不思議な世界。だけどまあ何となく分かる、良い物や楽しそうなもの作ってる人がほんとに作りたいものを作ったら万人には受けないけれど熱狂的なファンはつく、そのファンたちはお金には糸目をつけない。そう、丁度ゲームやアニメと同じようなもんだ、面白いゲームを作ればゲームオタクたちはバカ高い本体も買うしパーツも買う、凄い面白いアニメがアレばそんなの何に使うんだよっていうグッズも買ってしまうきっとアレと同じだ。
そしてこのジュースだが確かVIP会員様用の商品リストを見た時に鮮度にこだわって作りました! と生産農家さんの素敵な笑顔とともに乗っていたジュースだ確か限定千本とかじゃなかったか? それも一年通しての限定がだ。そして値段もそれ相応した気がする。
「あの、これホントにこんなに飲んでいいの? 後で請求されない? 給料から引かれたりしない?」
悲しいけど俺、社畜なのよね。
「いやいや友達の家でジュース飲んでお金請求される世界ってどんな世界よ」
だよねーお前と友達でマジ良かったわーとよくよく考えるとコイツと友達じゃなかったらこんな心配しなかったじゃん! と気づくのはいつの日か……
「そっかー、んでさなんでこんなに庭広いの?」
「いきなりな方向転換ね、答えは」
「答えは?」
「わかんない」
「なにそれ?」
「だって知らないんだもん、前にお父さんに聞いたら「俺にだってわからないことはある」とか言っちゃうしさ、いやお前が建てたんだろって話よ」
いやお前が建てたんだろほんとに。大丈夫なのか俺の会社そんな人が専務で。
「それにしてもリアルでも凄いなお前は」
「何がぁ?」
空になったジュースの缶をジャバジャバと水で洗いながらそう返すゆりに。
「いや何着ても可愛いなと」
そう可愛いのだ、制服からだぼっとした薄い水色のワンピースに着替えたゆりは文句なしに可愛いといえるが、そのゆりさんは、ぶしゃぁと盛大に水を撒き散らし。
「にょわぁ」
と悲鳴を出して慌ててレバーを操作し水を止めると。
「あんたは突然何を言ってるの!?」
「いや、いつも言ってる気がするんだけど?」
思い出してみる……うむ結構な頻度で可愛いと言ってる気がする、実際可愛いし。と首を傾げてると。
「そりゃあっちでは言われるけどこっちではその……初めてだし」
おおう、なんか照れてるぞ、そして可愛いぞ何だこの生物っは! 写真撮りたい! いやさすがにここで端末出すと色々やばそうだ主に俺の生命が。などと考えてると。
「お母さん的にはどう見ても恋人同士なんだけど」
半開きのリビングのドアから半身だけを見せそう囁く留美さんがいた。
「怖っ! 何やってるんですか」
「え? 家政婦は見た的な?」
「いや、あなたここの奥様だし」
「いやだわ奥様なんてお義母さんって呼んでくださってもいいのよ?」
「何言ってるのよお母さん!」
「どちらかと言うとマイハニーとお呼びしたいのですが?」
「あんたも何言ってんのよ!」
「「えー」」
「何でそこでハモるのよ」
「ノリ悪いですね娘さん」
「そうなのよ多分あの人に似たんだと思うんだけど」
留美さんとヒソヒソと話す、おお、いい香りがするコレが人妻の香りか……多分違うな石鹸だな、さっきゆりからも香ってきたし。
「なに二人でコソコソしてるのよもう」
ぷんすか怒りだしたゆりをあらあらとなだめる留美さん、こう見ると親子のように……見えないよなぁお姉ちゃんと妹だよなぁどう見ても。それにしても留美さんって誰かに似てるんだよなぁ……腰までの銀髪ストレートの紅い瞳の色白美人妻――どう見ても二十代前半以下――と言えば、あれかアインツベルンの奥様か? と言うかまんまだなおい。ほんと向こうの人は素でこのクオリティだから日本人は辛いなぁ。ってそういえばハーフなんだっけ留美さん、どこらへんが日本人入ってるんだ? あれか年取っても太らない系統あたりが日本人? 何その良いとこ取りハイブリッド、さらにその黒髪版がゆりなのか……もうやだこの親子。
などと現実逃避していると、りんご~ん♪というなんとも素敵な音色のチャイムが鳴る。まあ確かにこの家でピンポーンってなったらおかしいよな。
「あ、ご飯きた!」
トテトテとインターホンと言うか門の監視モニターの所に行き受け答えする留美さんを尻目に流石のゆりさんリアルでもご飯大好きである。それなのに何でこんなにスリムなんだ? 不思議に思ってると。
「小野さんすみませんが手伝ってもらえますか? 頼み過ぎちゃいまして」
「ええ、いいですよ」
そう答える俺の背中に。
「働け若人よ!」
と、この中で一番の若人が言っている。
「いやお前も働けよ」
「わたくし箸より重いものが持てないんですの」
「いやさっき何か頑丈そうな鞄持ってなかったか?」
「アレは未来テクノロジーで自立浮遊してるのよ」
「お前はドラえもんか」
「ブラックロータスと呼んでもよいぞ少年」
あれはホバーだホバー、成る程お前の胸は黒雪姫のインスパイヤかと胸を見てるとその思考を読み取ったのか。
「切り刻んでほしいようだな? シゲルくん」
目が笑っていない笑いは怖いのでやめていただきたいのでそそくさと玄関に向かうと。
「えっと今から何が始まるんです?」
丁度まとめてデリバリーが来たのかあまり見たことのない格好の配達の人達が各々の商品を置いてにこやかに帰って行くところだった。
「昼食ですけど? どうかされました?」
いやそっちのよくわかんない箱は置いといて取り敢えずこっちの寿司桶は三人で食べるには明らか大きさと量がおかしいと思うのですけど。
「えっと量が……ひょっとしてお手伝いさんとかの分ですか?」
「やだわ、そんな人を雇うほど広くないですようちは」
いや日本的には十分広いだろこの家! ってじゃあこの量三人で食べるの? コレ三等分?
「若い男の人はいっぱい食べるからちょっと多めに頼んだんですけど足りるかしら?」
どうやら3等分じゃないらしい。俺生きて帰れるかな? ちょっと自生の句でも書こうかと思いつつ料理をリビングのテーブルに運ぶ、そして運んだ端からゆりがパカパカ開けていく……居るよねこういう奴。
「お前は少しは手伝えよ」
「え、今開けてるでしょ?」
あれぇ? おっかしいな質問間違えたかな? などと小首をかしげているとさっきの謎の箱から何やらいっぱい取り出す留美ゆり親子。
「おお? なにそれ美味しそう」
そう、中からは中華っぽいものやら洋風っぽいもののオードブル? とか言うやつがガチャガチャ出てきた。
「うん、ここの美味しいよ、まだあったかいし、さくっと食べよう」
「小野さん飲み物はお茶で宜しいですか? シャンパンもありますが、それともワインかしら?」
「えっとお茶でお願いします、あ、水でもいいです」
安そうなものと思ってお茶といったが茶っ葉もピンキリだと思いとっさに水を要求したのだが……なにやら高そうなボトルに入った水が出てきた。そういや美味しいお水も売ってたなうちの会社、俺に逃げ場は無いのか……
「ハハハハハ」
と乾いた笑いを醸し出しつつ小首をかしげる親子を眺めながら水を受け取ると。
「では頂きます」
「「頂きます」」
手をあわせて唱和する。なんて言うかどう見ても北欧銀髪紅目美女な留美さんと黒髪黒目だが顔立ちが一緒というのが違和感を醸し出す美少女ゆりが揃って手を合わせる構図は明らかに俺の人生には今までになかったなぁ、と思いつつお寿司に手を付ける……
「何これ美味しい」
「ここのお寿司は美味しいんですよ~」
と留美さん。ゆりはその隣でもぎゅもぎゅイカさんを頬張っている。
「こっちのオードブルも美味しいですよ」
そう進められたなんかよくわかんない洋風の物体を口に入れる。
「何これ美味しい」
「そうでしょう、どんどん食べてくださいね」
ほう、コレは最初はこの量はどうかと思っていたがこの味なら……逝けるっ! っは! 逝っちゃダメだ! 逝っちゃダメなんだよぉと美味しさに咽び泣きながら。
「何これ美味しい」
と食べ続ける。実際食べるもの全部美味しいんだもんしょうが無いじゃん。
「ねえ、あんたさっきからそれしか言ってないんだけど」
そう言うゆりの前には既には空になりかけの寿司桶とオードブルが鎮座する……そして手には大トロさん時価不明。
「いや実際おいしいんだからしかたないじゃんよ、でもほんとにいいんですか? 俺こんなに食べちゃって」
「いえいえ構いませんよ残っちゃうと勿体無いですし」
「あんたあっちで私にご飯やら何やらくれたじゃん、おあいこよおあいこ気にしたらまけよ」
もっきゅもっきゅと大トロさん時価不明を飲み込んだゆりがそういう。いやでもあれってゲームの中なんだけど……まあコイツにとってはそれだけの価値はあったんだろうな……あれ? でも金払ってるの留美さんっていうか親父さんじゃね? 突き詰めると俺の会社じゃね? あれ?
「何考えこんでんのよさっさと食べなさいよ時間が立つと美味しさが逃げるのよ」
なんかよくわかんない中華っぽい春巻きさんをパリパリもぎゅもぎゅと食べつつそう言うゆりに。
「もう、ゆりちゃん御行儀悪いわよちゃんと食べてから話しなさい」
「ふぁい」
もぎゅもぎゅと食べ続けるゆり。どこに収納されてるんだあの料理? こいつのカラダは四次元ポケットなのか? そう思いながらも俺も負けじと美味しい料理を詰め込んでいく至福のときが過ぎていく。
お昼御飯のあと泊まるお部屋に案内されて荷ほどきを軽くした後広いお庭を探検したりしてると、直ぐに晩ご飯の時間になり久しぶりの家庭の味を堪能した。のだけど。何故肉じゃが? 美味しかったんだけどなんてーかこういまいち納得出来ない物がある。だけど納豆をおいしそうに食べてる留美さんを見てるとなんかどうでも良くなってくる不思議。
そして夕食後ゆりがお風呂に入っている間、食器を洗い終えた留美さんがポツリと話し始めた。
「昔犬を飼っていたんです」
そう切り出した留美さんの顔は寂しげだった……ふ、騙されないぞ。このオチは知っている! 騙されるものかぁあああ。
「あの子とそれは仲良しでその頃は今日みたいに家でも一緒にはしゃぎまわっていました。でもある日その犬が逃げ出しましてそれから家ではあまりはしゃがなくなってしまい新しい犬を飼おうかとも思ったんですがあの子は頑なに拒みまして、自分のせいで出ていったから他の子が来てもまた出て行っちゃうって言うんです」
ふ、やっぱりその話か、と勝った気でいた俺に。
「でも多分私のせいなんです」
あれ、なんか話が変わったぞ? 勇者様対ケルベロスに嫌気がさしたんじゃないのか?
「私がクリスマスに私の乗ったソリを引かせようとしたからなんです、しくしくしく」
なんだこの家はこんな奴しか居ないのか……いやまてお金持ちとはひょっとして皆こんななのか? と良くわからないことを悩んでいると。
「お風呂あいたよー」
そういいながらだぼだぼパジャマ姿のゆりが現れる。ほんとにネグリジェとかじゃないんだな。
「あ、俺は最後で良いんで留美さんどうぞ」
取り敢えず最後に入ることによってお湯を汚さないようにと思った俺のこの素敵な発言に「しょうがないですね」的な雰囲気を醸し出し。
「それではお先に」
といって姿を消す留美さん、そして俺の前のソファーにあの素敵なお値段のジュース片手にぼふっと座りぺきゅっとあけてこきゅこきゅ飲み始めるゆり。それをじーーーっと眺めつつ飲み終わるのを待つ。
「なによ」
まだ飲み干したわけではないが俺の視線に気づいてジュースをテーブル置きながら口を尖らせる。
「いや黒髪もいいなぁと」
「……あんたホントに彼女いないの? 実は彼女はいないけど愛人はいっぱいいるよっとかって話じゃないわよね?」
「ふ、嫁ならたくさん居るZE」
「そっか二次元か」
「ばっさりだな」
「情けは人のためにあらず」
「左様ですか」
「でもさぁ、そんなにぽんぽん女の子褒めれるのに何で彼女居ないの? 一人二人引っかかりそうな物なのに」
「ん~そもそも俺三次元の女の子苦手だし」
「おおう、衝撃の告白ね」
「まあな、色々あったんだよ」
「騙されたのね」
「一刀両断だな、まぁ大体そんなんだけどな」
「人が良いもんね、あんたって」
「そんなに褒めても何もでないぜ?」
「いやあんたに何も求めてないから」
「求めてよ」
「何をよ」
「……なんだろう何もお前にあげれる物がないな」
そうなのだ普通の女子高生とかなら色々プレゼントしたりどっかつれてったりして上げたりすると喜びそうだけど……自分の会社の専務の娘に何をどうしろと?
「はぁ、別にこっちじゃなくてあっちで搾り取ってあげるから気にしなくていいわよ」
あれ? おかしいなあげること前提の話になってるけど? てか俺何をとられるの? ひょっとしてこいつも実は俺の持ってるレアアイテムが目的なのか?
「とりあえずはアレね向こうの九州一周綺麗なトコ巡りに付き合って、もちろん旅費はあんた持ちで」
それを聞いて一瞬険しくなった俺の顔を見て。
「え、あ、ごめん、あんたにもやりたいことってあるよね……暇なときで良いからさ、綺麗なトコ教えてもらえるだけでも良いんだけどだめかな?」
何を勘違いしたのか急に謝ったりしょんぼりしだした……いや“俺にデメリットが無さ過ぎてそれで良いのマジで?”の困惑顔だったんだけど。はぁ、意外とこいつも不器用だよな、と、一息ついてしょんぼりしてるゆりの頭の上にぽむっと手をのせる、髪の毛がまだ乾いてないのでぺとって感じだけどな。
「ひとつ条件がある……」
真剣な顔で切り出す俺、ゆりがびくっと肩をすくめるのが解る。
「今度うさみみ付けてくれ」
「わたし、こういう時どういう顔をすればいいのか解らないの?」
無表情に聞いてくるゆりに、素敵な笑顔で。
「笑えばいいと思うよ」
「くっくっくっくっく」
ゆりさんその笑い方は違うと思うんですが?
「もういいお前なんか知るかっ!」
「なんだとこの野郎一緒に回ってあげないぞ!」
「別にあんたなんか居なくても一人で回れるわよ!」
「えーホントにーマジでー」
「うきーーーー! そんなにいうなら見てなさいよ! ちゃんとあっちこっちの綺麗なスクリーンショットと撮ってきてやるんだから!」
「えー? ずるしそー掲示板で拾って合成とかしそうー」
「ならあんたも付いて来れば良いでしょっ!」
「いいのー? またパンチラスクショ撮っちゃうよー?」
「別に良いわよあんなの! 減るもんじゃないし!」
「んじゃついてくからログインするときは事前に端末に連絡しろよ?」
「ちゃんと連絡するからすっぽかすんじゃないわよ!」
「へーい」
うむ、この位ツンツンしてる方がコイツらしいな辺にしおらしくても俺がどうしていいかわからない。そこヘタレっていうな。
「ったく! あんたはほんとにもうっ! ん、あれ?」
と何やら小首をかしげるゆりさん十六歳。ふむ面白いように引っかかるな、こんなのを一人置いておくとやっぱり安心できないので俺が色々遊んでやろうそうしよう。とりあえずうさみみだな、うん。
そんな他愛のない話をしばらくしていると留美さんがお風呂から上がって来たようでコレまた可愛いパジャマ姿で。
「お風呂空きましたよ~」
と声をかけてきた。
お母さんがお風呂から上がったのでシゲっちをお風呂まで案内して踵を返すと。
「おわっ!」
と何やら悲鳴が上がったので。
「何々どうしたの?」
と脱衣所のドアを開けると。
「うひゃああああ」
更に大きな悲鳴が上がった。
「そんな見られて減るもんじゃ無し」
「いやいや何冷静に突っ込んでるのお前は」
「んで何に驚いてたのさ?」
「おおう華麗にスルーされたよ、まあいいけど。いや風呂でかすぎて」
「あーまあおっきいね」
「まあおっきいね。でこれか……なんかもう突っ込むのもめんどくさいな」
「まあゆっくりどうぞ」
「いただきます」
「どうぞどうぞ」
ガラガラと引き戸を閉めてリビングに戻りお母さんとのんびりとTVを見ていると。
「良い人ね茂さんって」
唐突にお母さんがそんな事を言ってくる。
「う~ん、確かに良い人だと思うよ、まあ良い人すぎる気もするんだけど」
「そうね、確かに色んなことに気を使い過ぎな気もするわね」
「まあ色々在ったんだろうけどさ」
「それで結局ゆりちゃん的には茂さんはどうなの?」
何やら女子高生のようなワクワク顔で聞いてくるお母さん。
「どうなのって言われても……そりゃ嫌いじゃないけどまだ会ってえっと何日なんだ?」
リアルでは三日くらいしか経ってないけどゲームでは十日位一緒に居たわけで……ややこしいな。
「あー、日にちはともかく今はただの友達って感じだよ」
「ふむ、この聞き方でその返答……コレは脈ありと見た!」
何やらキリッ! と言う文字が背景に見えそうないい顔でそんなことを言ってるお母さん……おかしいなお母さんってこんなキャラだっけ? まあ今まで男友達の話しなんてしたことなかったし何だかんだでお母さんもそういう話は好きってことなのかな。
「取り敢えず私的にはまだ友達としか思ってないから。はい、もうこの話おしまい」
「ええ~もっとしたかったのにぃ~」
何やら目をうるうるとさせつつ嘆くその姿は娘から見ても可愛いとしか言い表せなかった。
それからボケーッと二人でTVを見ていると。
「お風呂ありがとうございました」
と、上はTシャツ下はジャージ姿のシゲっちがリビングにやって来たのでそのままみんなでTVを見つつアイスなどを食べてしばらく過ごした後いい時間に成ったのでお布団に潜り込むべく。
「それじゃあ私はもう寝るね~おやすみ~」
と、お母さんとシゲっちに挨拶をして二階の自室に戻る、が。
「二人っきりにして大丈夫なのかなぁ」
と少し不安になったけど。まあ、あいつにそんな度胸はないか。そう結論づけた……なんだかんだで紳士だからな、それに。
「お母さんはお父さんラブだしねぇ」
実の両親ながらあの二人のラブラブっぷりは色々やばい、何で私が一人っ子なのかわからないくらいだ。まあその昔お父さんに、弟か妹がほしー的なことをちっさい頃に聞いたら。
「もう留美を取られるのは嫌だ! しかも今度はゆりまで奪われる! そうなったら俺は生きていけない!」
とか言ってたな。私に彼氏できたらどうするんだろな?
「彼氏、ねぇ」
正直彼氏というものが良くわからない、学校の友だちに聞くと。
「彼氏というか婚約者ですわね」「許嫁ね」とかだったり「お財布ですわね」「荷物運びに便利よ」「運転手?」などとわかるようなわからないような答えが返ってきたりする。
つまり……どういうことなんだろうな? そもそも恋の概念がわからない。あれはつまり………どういうことなんだろ? アックスと私は~ともだち? あいぼう? む~ん、わからん。自室のベッドの前までいつの間にか戻っていた私はボフッとベッドに突っ込み仰向けに寝転がる。好きになったら好きな人、付き合ったら恋人、じゃあ恋人は友達じゃないのか? 友達から恋人になった場合別れたら友達に戻れるの? わっかんないなぁ……“恋人の好き”と“友達の好き”はどう違うの? エッチしたいかどうか? それなら友達とエッチしたら恋人なの? ……ワカラン。もう訳がわからん、くそう世の中の恋人たちはこんな複雑怪奇な思考の先に居るのか……あれかニュータイプと言うやつなのか? それが理解できないオールドタイプは滅べというのか? それはエゴだよ! くそっ! シャアめ! ロリなのかマザコンなのかはっきりしろ! ……何の話だっけ?
「まっいっか」
そう言ってもそもそとパジャマのポケットから端末を取り出し操作する。
「0時過ぎか」
明日はまだお休みなのでまだ起きていても全然余裕だけど今日ははしゃぎ過ぎたのか凄く眠たい。寝るかなぁと寝返りを打った拍子にピッと言う音とともに一枚の圧縮されたスクショが表示される。
「わたしって、こんなふうに笑えたんだなぁ」
それは数日前に朝焼けの中アックスに撮らせたスクショだった、そこには自分でも……いや自分自身だから戸惑うような満面の笑みの私が映っていた……
最後にこんなに笑ったのっていつなんだろうなぁ。家にいても学校で染み付いてしまった習慣なのかあんまり笑えてなかった気がするし、笑えてはいたのだろうけど“自然に笑っている”のと“笑うタイミングで笑っている”のは果たして一緒なのだろうか。
「何かどっちが現実かわからないな」
ここ数日で起こった出来事を振り返りながらムニムニと手を動かす。日本人にしては色白な手は向こうの世界と同じ色をしている。
「私はどこでも私でしか無いのかな?」
多分あっちで笑っているのも私で、こっちで悩んでるのも私なのだ、体は違っても心はどちらも現実だ。人のつながりも、なら現実のアックスは、私にとって。
「なんなんだ?」
わからない……
「はぁ~~~、ねよう」
そう、こういう時は寝るに限る。そして起きたらあいつを連れて街にでも出よう、そうだそれがいいアックスがあっちでしてくれたように私が今度は博多の街を案内しよう。そう心に決めたような気がする頃には夢の中だった……




