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仁義なき側室  作者: モーフィー
番外編の番外編
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ゴドフリー家③


 ゴドフリー夫人はソファーで紙をめくっていた夫を振り返った。


「で、あなた、その時の時間の予定は大丈夫ですの?」

「えっと、あ、うん。大丈夫だ」


 明らかに大丈夫じゃなさそうに、しどろもどろに言う夫に触発され、ダニセンサーが働く。以前にもこういうことがあったと記憶を探る。ゴドフリー夫人の疑い深い視線に晒され、ゴドフリー卿の視線がさまよう。


「用事がそれだけならば、これでいいか? 私もやることがあるんでね」

「あなた?」

「んん?」

「思い当たることはあるわよね?」


 ゴドフリー夫人の鋭い目が、領主を貫く。


 その視線にゴドフリー卿は敗北を知り、足を折って土下座した。


「申し訳ございません」


 それらしき言葉もいらずに会話が通じる長年の夫婦の営みである。


「始まったわね」

「懐かしいわー」


 娘二人は二杯目のハーブティーをいれながら、ゆっくりと観戦する。


 幼い頃から見続けてきた両親のこの姿。父はひたすら頭をこすりつけ、母は理路整然と罪を問い続ける。何十回と見てきた光景だから、父の土下座の形も寧ろ形式化されている節もある。


 おかげで、二人ともこの光景が本当の愛だと信じ、自身の家庭で実践している。


「ここにティーナがいたならばもっと盛り上がったかもしれないわね」


 誰よりも恋愛ごとに憧れ続けた妹のこと、両親のじゃれあいと聞くと、どこにいても飛んできた。


 もちろん、この嵐のような愛の後の、両親の自室で繰り広げられる主に母主導の甘ったるいなれ合いも、姉二人が強烈だと思うことだって、妹は嬉々として見ていた。


 その時の母のサディストぶりはすごいという。今でも、父をいたぶる姿はかなりのラインに達していると思うが、これ以上どうすごいというのだろうか。


「聞いた話ではルーは領主にはなりたくないと言っていたけれど、久しぶりのお母様の姿を見ていたらそれも無理そうねー」


 アーバンルーは巻き毛を指に巻き付けて言う。彼女は自分の情報網を使って、これから起きる家族戦争の傍観者としての観戦の準備を始めているらしい。家族喧嘩こそが一番の娯楽だと思っているアーバンルーは既に観客席に座っている。


「そうねー」


 サンニコールは紅い唇に爽やかな香りの漂うティーを運ぶ。彼女も観客として家族喧嘩を見守るつもりであるが、彼女のその一挙一動が色気に溢れている。新王妃の人妻の姉として城に乗り込めば、彼女はその気はなくとも、別の所で騒動を起こすに違いない。


 これから起こる騒動も知ることなく、こうしてゴドフリー家の平和な時間が流れていく。





 長らく妻と話し合い、おまけにこれまでにないほど渇をいれられ、ゴドフリー卿は疲労困憊のうちに自室にたどり着いた。


 部屋から出たのは朝であったはずなのに、窓から差し込む日差しは既に色が変わっている。ゴドフリー卿はため息を付いた。


 ともすれば奴隷同様に扱われる貴族の私生児から逆玉の輿に乗り、息子は位の高い聖職者、娘たちは属国の宰相の妻、大臣の息子の妻、そしてはこの国の王妃である。そんな出世街道をまっしぐらにのぼり、今や皆からは羨望や嫉妬の対象にもされるが、実際の生活は意外と楽な物ではない。


 妻には完全に尻に敷かれ、後継者はなかなか決まらない。そして、王妃となった娘だが、彼女の場合が一番心配であり、国が傾かないか今更ながらに心配である。ゴドフリー卿は温くなった葡萄酒を飲み干した。


「全く、国王も酔狂なことだ。あの娘を見初めるなんて」


 いや、ある意味、慧眼とも言うべきか。


 ゴドフリー卿は少しだけ冴えた頭で考える。


 クリスティーナの能力は無限大である。


 彼女は生まれたとき、実はその能力自体は白紙であった。それが、成長していくにつれ、周りから様々な物を吸収し、鮮やかに染まり、大きく花開いた。


 母からはどんなものでも解決する明晰な頭脳を、アーバンルーからは有り余る好奇心を、サンニコールからは溢れんばかりの色気を、そして一番上の兄であるフアンからは彼女の一番の問題点とも言える狂った桃色の思考を。あまりにもフアンからその特徴を吸い取りすぎて、ついに兄を潔癖の聖職者にとしたぐらいである。


 これが彼女のもつ才能の特徴である。父のひいき目を抜かしても、彼女の才能をうまく育てれば国家の役に立つ。


 国王はクリスティーナの才能をどう活かしていくか。


 と、ふと彼女が自分の特徴を何にも受け継いでいないことに気が付いた。母や、兄姉の能力をコピーしているのに浮気しか能がない自分の能力はコピーしていないようだ。少し寂しさを覚える。


「――それでもあの子は私の娘だよな」


 表舞台で活躍する娘を、影に隠れながら楽しみにして老後をすごしても良いかもしれない。


 ゴドフリー卿は首を振って立ち上がった。


 どうも、辛気くさいことを考えてしまったようだ。ゴドフリー卿はずいぶん前に空になってしまったグラスを机に置いた。


「…よし、気分転換に町でも行くか」


 自分がまだまだ若いということを確認するため、今夜は妻の目を盗んで若い愛人の所へ行こう。妻だって、まさか叱られた初日に浮気が再発するとは思わないだろう。そんな今夜こそがチャンスだ。


 胸が大きくて、肌に張りがあって、小動物のように自分に甘えてくれる。今から会う子の事を考えたら顔に隠しきれない笑みが広がる。


 ゴドフリー卿はせっせと支度を始めた。





 しかし、ゴドフリー卿が一つ間違っていることがあった。クリスティーナの能力の一つに父親から受け継いでいるものは確かにあった。



 妻に何度も何度も糾弾されても浮気を止めないその不屈の精神。



 すべてを乗り越え、幸福への道を切り開くために必要不可欠だったその能力は、確かに娘に受け継がれている。


ゴドフリー家完結


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