第7話:放課後の帰り道と、小さな違和感
秋晴れの心地よい風が吹く、平日の放課後。
学校が終わった私はホタルと並んで、それぞれバイト先がある秋葉原の街並みをつつがない話をしながら歩いていた。
「〜〜でね!今日の体育のダンス、先生の動きが独特で思わず笑っちゃった!」
「確かに…服部先生、一人だけキレがありすぎだったかな」
制服のスカートをなびかせながら、たわいもない雑談に花を咲かせる。
途中のコンビニで買った『白ねこバー』という耳の付いた変わったアイスを二人で頬張りながら歩く、なんてことのない放課後の風景。
数年前に全てを失って「高校生らしい日常」なんて諦めていた私にとっては、こうして友達と並んで歩ける時間は、何よりも愛おしくて大切なものだ。
「アカリちゃん。私、今日お店に新しい商品の入荷があるから、ちょっと早めに行くね!」
「そっか。吉岡さん、また珍しいグッズでも仕入れたの?」
「うん! なんか『伝説のクソゲーマニア』って言う。クソゲーの数々をグッズにした珍品らしいんだけど……」
「なにそれ、クソゲーなのにマニアがいるの?」
「そうそう。ヘンだよねぇ~」
そんな他愛もない話をして交差点を渡り、いつも通る路地裏へと差し掛かった所にホタルが何かに気付く。
「……あれ? あの子……」
ホタルが足を止め、通り沿いのビルの前に視線を向ける。
そこに立っていたのは、秋葉原で人気のコンカフェ『ステラ・リリス』の、星をあしらった可愛いフリル衣装を着たキャストの女の子だった。
だけど、普段なら笑顔で元気にビラを配っているはずの彼女は、どこか不安そうな顔で街頭にぽつんと立っている。通りかかる人々の視線も、どこか冷ややかで遠巻きに見える。
「あの子が、どうかしたの?」
「え、うん……あのお店、放課後のこの時間っていつも満席で、ビラ配りしないくらい人気店なんだけど……なんだか最近、急にお客さんが減ってるみたいで…」
「急に…なの?」
「うん。この前、吉岡店長も『ステラさん、最近なんだか元気がなくて、ちょっと心配だわ』って言ってたから、ちょっと気になっちゃって」
――胸の奥で、ドクンと小さな警笛が鳴った気がする。
私は歩きながら、何気なくスマホを取り出し、SNSヘックスを開く。
画面に『ステラ・リリス』と入力して検索をかけると、タイムラインにはここ数日で投稿されたらしい、根拠のない小さな噂話がいくつか流れていた。
『ステラリリス、最近接客さ。雑じゃね?』
『なんか反社と繋がってる怪しい噂あるらしいよ。行かない方がいいかも―』
やっぱり……。投稿しているアカウントは、どれもフォロワー数の少ない捨てアカウントのようなものばかり。
一つひとつは些細な愚痴に見えるけれど、不自然なほど同じようなタイミングで、同じようなネガティブな言葉が並んでいる。
この光景……どこかで見覚えがある。
そう、数日前にホタルの店を襲った大炎上。あの後にSNSを調べた「炎上の初期の段階」とあまりにも手口が似通っているのだ。
「……アカリちゃん? どうしたの?」
「あ……ううん、なんでもない。そろそろバイトの時間だし、行こっか」
「うん!」
ハッと、スマホの画面を閉じ、努めて明るい笑顔をホタルに向けた。
けど、手のひらには、知らずに微かな汗が滲んでいる。
(……もう克服したと思ったのに…落ち着け…私……)
秋葉原の街を包む夕暮れの空。その活気に溢れる街並みの裏側に、また新たな悪意の芽が、静かに膨らみ始めているような気がしてならなかった――。




