第5話:晴れやかな棚と、笑みのある日常
先日のレトロゲーム店を襲った、あの身に覚えのない大炎上事件から数日。
ネット上のデマは『裏アキバ』で無事に炎上の原因を断ち切ったことで綺麗に収まり、事態は完全に沈静化していた。
『【朗報】〇〇ゲーム店のデマ動画削除、投稿者が嘘を認めて謝罪!』
『凸電してたバ◯ども、手のひら返しで謝罪ラッシュwww』
スマホの画面に並ぶSNSヘックスのまとめ記事を眺めながら、私はフッと胸を撫で下ろす。
そこは、秋葉原の路地裏にある老舗レトロゲーム店『スーパーオニオン』。
雑多な棚が並ぶレトロな店内には、ハァミコンからメチャサターン、プイステーションなどのゲーム機から絶版のヴィンテージソフトや昔懐かしのゲームポスターがギッシリと並び、独特の香ばしい紙と基板の匂いが漂っている。
私にはよくわからないけど。ホタルの話では、世界にココにしか置いていないゲームソフトなんかも一杯あるらしい。でも、画面でピコピコ動くちっちゃいキャラクターは、どれを見ても何だかユニークでカワイイから好きだ。
「いらっしゃい、アカリちゃん、店長さんッ!!」
閉店間際の店内で、最後のお客さんを見送ったホタルが、お呼ばれした私と店長を見つけて手招きする。その声に気づいたのか、カウンターの奥からこの店の女性オーナーが顔を出すと、私をギュっと抱きしめる。
「アカリちゃん、本っ当に……本当にありがとうねぇ〜!」
「ちょっ、吉岡店長!? く、苦しいですって……!」
「フフーン、これは愛情表現なのさ! 相変わらずクールビューティさんだねぇ」
得意げにギュウギュウしてくるこの女性は、吉岡さん。
宗麟店長より少し年上の女性で、父親から引き継いだこのお店の現オーナーでもある。
何事も気兼ねしない男勝りな性格で、レトロゲームへの愛が深すぎる頼れる女性店長なのだが、以前にホタルを訪ねた時に随分と気に入られてしまっていた。
「別に私、クールでも、ビューティーでも無いですってば」
「アラそう?何ならホタルちゃんと一緒にウチで働いてくれても良いんだよ?」
ようやく解放されて、思わずのけぞり手を前に添える。吉岡さん自体は好きなのだけど、どうもこういうスキンシップは苦手だ……。
「オヤオヤ、それは聞き捨てなりませんなぁ」
その後ろから顔を覗かせる宗麟店長が、私に助け舟を出してくれるが、バイタリティモンスターの吉岡さんは止まらない。
「やぁ、宗麟くん。どう、前言ってたアカリちゃんの移籍の話。潔く飲んでもらっても良いんだよ?」
「それは困りますなぁ。今、アングラ堂の運営はほとんど彼女に任せてますから」
「へぇ~、どうしてあの店が潰れないかが、よく分かったわ」
旧知の仲である二人がそんな掛け合いをしていると、慣れたようにホタルがそれに割って入る。
「もぉ、今日はお礼の為に二人を呼んだんですよ!」
「おっと、そうだった。先日のお礼に駅前に出来たばかりのお店、『ベリーベリーベリーの超プレミアムレアタルト』を買ってきたの。アカリちゃん、甘いの好きでしょ?」
「えっ、あの行列過ぎて買えない、超レアタルトですか!?」
甘い物と聞いて、普段「ジト目」とからかわれる瞼が思わず開く。
「ほーら、アカリちゃん。アナタが甘いものに目が無いのは知ってるのよぉ! ホタルちゃん、
バックヤードからお皿とフォーク持ってきて~!」
「えぇ。すぐ持ってきますねっ!」
店の奥へパタパタと嬉しそうに駆け出していくホタルと、相変わらずテンションの高い吉岡さん。数日前は真っ青な顔で泣きじゃくっていた親友やお世話になってる人が、今は満面の笑顔を浮かべている。
少し前まで電話が鳴り止まず、突撃系配信者が押し寄せていたのが嘘のように、ピコピコ音しかしない店内は穏やかさを取り戻していた。
(ああ……やっぱり、守れて良かったな)
胸の奥がじんわりと温かくなる。
今の私には、この笑顔を守る力があるんだ……。
「それにしても宗麟くん、相変わらず手回しが早いわねぇ。ホタルちゃんから話を聞いて、ネットの専門家に相談してくれたんでしょ?」
「ハハハ、まあボクとホタルちゃんは『推しの"皆乃 アキハ"』の尊さを分かち合う、大事な同志ですからな! 仲間が困ったら一肌脱ぐのがオタクの情ですよ!」
「えぇ、私達"アキハー"の団結は硬いのですッ!」
店長とホタルが変な盛り上がりにお皿を並べながら笑い合う、私と吉岡さんは呆れ半分で思わず目を点にする。
「それに店長さんには、前回の限定ライブの配信チケットの取る時でも助けてもらいましたし!」
そういえば、元々ホタルがアングラ堂の宗麟店長を知っていたのは、この二人がVTuberの推し活を通じて変な友情を結んでいたからだったのを思い出す。
店長は推し活のイベントに出かけたいが、店も放置できない状態でバイトを探していたところを私に紹介してもらったのが初めの切欠だった。
まさかその店長が、裏の異世界で炎上モンスターを斬り刻む『賢者』だったなんて、ホタルも吉岡店長も夢にも思っても見ないだろうけどね。
「ほらアカリちゃん、一番大きいの食べなさい!」
「あ…ありがとうございます」
「うーんッ!?やっぱりクール美少女が恥ずかしそうに食べてるところ、ソソるわねぇ。私昔から手塚歌劇団のファンなのよぉ」
「だから、クールじゃないってば……」
そんなレトロゲームの箱やヴィンテージポスターに囲まれた、小さな店のバックヤード。甘いクリームの香りと温かい紅茶の湯気が立ち上り、4人の賑やかな笑い声が広がっていく。
あの時には全て失ったと思っていたこんな日常の一時は、危険な『火消し』の後にまた緩やかに訪れたのだ。
第5話です!結局、こういうユルい日常モノが好きなんよなぁ( *¯ ω¯*)♪
今回から、第2幕開始といった感じです~
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