第4話:日常と影の蠢き
事件の翌日。
秋葉原の空は、昨日の陰鬱さが嘘のように抜けるような青空が広がっていた。
「アカリちゃん……! ほんとうに、本当にありがとう……っ!」
『アングラ堂』のカウンター越しに、ホタルが私の両手をぎゅっと握りしめ、涙ぐんでいる。それだけで、その後の結果は聴くまでもないだろう。
「昨日の夜にはね、あんなに酷かったSNSの炎上が嘘みたいに落ち着いたみたいなの……。変な動画も消えちゃったみたいで、凸電もピタリと止まったんだ!」
「ふふ、よかったじゃない」
「あの……店長さんも、本当にありがとうございました! ウチの吉岡店長もぜひお礼したいと言っています!」
「え? う、うん……それは良かった。まぁ、今回一番活躍したのはアカリちゃんだから、そのお礼は彼女に渡してくれると助かるよ、ハハハ……」
店長が苦笑いしながら、私の肩をぽんぽんと叩く。
うっ、店長ゴメン……。
その意図を察して、私はホタルがお礼に持ってきた紙袋を見つめて微笑む。
「お代は、この手作りお菓子だけで、充ぅ分!」
紙袋の中の手作りクッキーをひとつ摘んで、それを店長の掌に握らせると、
彼は誤魔化すように頭をかきながら一息に頬張る。
「んーむ、そうだねェ。いやぁ、このお菓子おいしいなぁ。ハッハッハ……」
だが、逆に恐縮してしまったホタルは「今度また別でお礼させてください!」と
何度も頭を下げながら、晴れやかな笑顔で帰っていく後ろ姿を私は見送った。
(でも…よかった……本当に……)
守りたい人を助けたい……。そんな当たり前なことが、少し前の私には出来なかった。でも、今の自分にはそれがある。大切な居場所と、大切な友達を守れる強さが私にはあるんだ。
だから、もっと早く、もっと強くならなきゃ……。
そう思うだけで、胸にじんわりと心地よい達成感が広がるのを感じる。
お金の大切さは身に沁みているけど、こういうのも全然悪くない。
「これも店長のおかげ……って、いけない! 店長、そのレトロゲームのフィギュア、残カルマのチェック忘れてた! そのまま飾っておいても平気かな?」
「ん? まぁ、悪いカルマは浄化され、ただの可愛いジャンクになってる様に見えるから大丈夫じゃない。 まぁ……『カワイイお土産』を何でも集める趣味は、ちょっと悩ましいけどね。あまり、変なモノは持って来ちゃダメだよ?」
「だって、カワイイからもったいないじゃないですかっ! 店長だって、
推しのグッズばかり増やしてるし、人のこと言えないんじゃないですかねぇ……」
反論する私に、店長は「イヤイヤ、推しのグッズはだねぇ…」と、
よくわからない理論でまた返してくる。
怪しげで、ユルくて、けれど温かい、これが今の私の日常……。
だが、そういう幸せな時に程、流れはカオスに向きはじめる――
店長が奥の作業場へと戻り、再び店番をする為に一人になった店内で
スマホを眺めていた時だった。
――ピロンと耳に残る通知音が鳴り、
一通のニュース速報のポップアップが画面に表示される。
『【速報】都内複数の店舗に対し、同一犯による大規模な捏造炎上攻撃が相次ぐ。
実行犯は『拡散グループ』の仕業か?』
思わず画面をスワイプして記事を開く。
そこに記載されていた手口、そして使われているハッキングなどの特徴。
「…嘘……」思わず息が止まった。
その歪んだSNS投稿のテキストや癖。悪意の撒き散らし方。
それは――数年前、私の家族を地獄に突き落とし、
人生を全て壊した『あの炎上事件』の実行犯と、まったく同じ手法。
「また……動き出したの……?」
手の中のスマホを、指が白くなるほど強く握りしめる。
「抑えなきゃ……」自分の意思を遮るようにドクン、ドクンと鼓動が止まらない。
厭な冷や汗が頬を伝い、忘れたい過去の暗いモノが湧き出る感覚。
平和になった筈の秋葉原の街に覆う、新たな波乱が産声を上げたのだ……。
第4話目エピソードのひと区切りです!
次回は緩急をつけて、アカリの日々貧乏生活とマッタリ回の予定です( *¯ ω¯*)ノ
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