第3話:ファクトチェックと賢者の帰還
裏アキバの中央通り近くビルの地下フロア。
怪しいネオンが明滅する店の奥に、デマの根源――
炎上ログのコードが行き着く先がそこにあった……。
陽炎の様に揺らめいている、これまでのクソリッパーとは、
比較にならないほど肥大化したカルマの塊だ。
最早、人の形すら留めておらず、無数の悪意あるコメントや嘘のテキストが
身体の泥から渦巻き、巨大な目玉のような異態。
『アキバのレトロゲー……詐欺確定……! 潰せ……! 拡散しろ……!』
粘着質なノイズ声が空間を震わせる。
「あれが、デマの発生源 (フェイク・トリガー) ね……」
私はスマホの画面をタップし、アプリの解析ロジックを起動する。
画面上に高速で流れるログ。嘘の投稿者ID、動画の切り貼りされたタイムスタンプやハッキングの痕跡――事実と嘘の境界を暴き出す。
この認知世界では、現実のネットファイアウォールなんて関係なく、
悪意や意識のカルマから溢れるようにそれらは漏れ出してくる……。
どうやら今回の炎上騒動は、この店の店員が『火付け役』だったらしい。
「ホタルの店が詐欺なんて、全部アンタが捏造した自作自演のデマじゃん。
ゲームの中身すり替えて転売しようとしてるとか、サイテー……」
『ギシャアアアッ!』
その声を捉えたのか。巨大なカルマの塊が、鋭い針の形をしたデマを無数に放ちながら襲いかかってくる。
「お生憎さま、その程度じゃ私はやられない」
青緑色に揺らめく光の剣でその針を弾き落とし、光剣の柄となっているスマホを翻して、再び光を右手に収束させる。
「――お呼びじゃないのよ、この嘘つき!」
デマの針が効かないと見たのか、目玉の側面から生えた無数の腕でこちらを掴もうとするが、逆に空いた正面へ果敢に飛び出し、敵の真芯へと肉薄する。
弱点となる認知の歪みを捉えた部分に光剣を突き刺し、反動で目玉を両断する。
『ギ……ッ!? ガガガ…ッ……!?』
「せいぜい後悔なさい。アンタが捏造した『デマの概念』そのものが、
今度は因果を伝ってアンタ自身に跳ね返るわ」
2つに割れたカルマの巨体から、コードが逆流を始め、
けっして消えない筈のネット上の偽情報が、根底から自壊していく。
『ガガ、オレ…ガガガガッ……!!』
そして、激しいノイズの爆発とともに、巨大な怪異はそのまま霧散した。
現実世界に拡散していたお店へのデマ動画やクソリプも、これで徐々に認知されなくなり、
存在そのものが『無かったモノ』として忘れ去られるだろう。
静寂が戻り、消えたカルマの足元には、コロン……と音を立てて、
この場に似つかわしく無い小さな物が転がり落ちた。
「……炎上の原因って、これだったのね」
アカリが拾い上げたのは、さっき拾ったモノと同じような。ハァミコンカセットのミニフィギュア。でも、さっきのと異なりプラスチック部分が金色になってて、いかにも限定…みたいな感じに見える。
私はあまりレトロゲーム自体には詳しくないから、何のゲームなのか今度ホタルに聞いてみよう。それに店長のフォロー無く、ひとりで炎上モンスターを倒せた記念品とする為、揚々とポケットに仕舞い込む。
「ヤバっ、そろそろ店長が帰ってきちゃう!」
スマホに表示されていた時間を見て、私はホっと息を吐く暇もなく『Ur-Akiba Gate』で開かれた『賢者の扉』を潜り、現実世界のアングラ堂へと戻る。
* * *
ひと仕事終えた私がアングラ堂のサーバールームから静かに出てくると、
店内には既にベルの涼やかな音が響いていた。
「ただいま〜。いやぁ、ラジ館で無事に推しのアクスタGETできたよ〜!」
ホクホク顔で戻ってきた店長に、私は何食わぬ顔で軽く手を上げる。
「おかえりなさい、店長。グッズ無事に買えて何より、アハハ…」
私は彼が気付いていない内に入り口の『Close』札を『Open』にそっと戻すと、
「今日はどんなの買ってきたんですか?」と店長に返す。
だが、棚の端にスカートを引っかけて、さっき拾ったミニフィギュアが
ポケットから落ち、慌てて拾い上げて棚の隙間にちょこんと並べる。
「おや、新しいコレクションかい? いいねぇ、またお店が賑やかになるよ」
店長はミニカセットを満足そうに眺め、丸眼鏡の奥の目をふっと和ませる。
「……ただ。次に一人であっちに行く時は、ちゃんと一言連絡を入れるように……これ、約束ね」
「うっ……」
少しだけ表情を改め、優しく、けどしっかりと釘を刺すように店長がこちらへ目を向ける。普段やさしい分、こういう仕草をされると何も返せなくなる。
「君が才能に溢れ、賢いのも知ってるけれど、あそこは危険な場所なのは分かってる筈だ。だから連絡一つ寄こさず独断で行くのは、感心できないなぁ」
店長の的確な正論が、私にグサグサ刺さる……。
ただ、もう何度も店長と一緒に裏アキバへ行って、炎上モンスター狩りはしているし、独り立ちができる実力は既にある筈だ。
今足りないとすれば、あとは経験だけなんだから、ひとりで数を熟すことだって大事だと思うのだけど。それを心配してくれている店長に言うのも気が引ける。
「もぉ、分かってますって。まったく、店長は心配性なんだから……」
私は釈然としない気持ちを少しだけ頬を膨らませ、ボヤいてみせる。
けれど、心の中ではホタルとお店を守れたことに、そっと胸を撫で下ろした。
第3話です!ひと仕事終え、これでアカリも一人前の賢者(錬金術師)
…になれたのかな?? 次話もぜひ「見てください!」( *¯ ω¯*)ノ




